332.狙い〜国王side

『ふむ、王妃の言う通りよな。

側妃の仕事は王妃と違い、城のごく一部の内政を補助するのが、負わねばならぬ最低限の義務よ。

そう、そなたが負うは、最低限。

それ故、実子の婚約者を推挙、任命する権限に固執する時間があるようだ。

王妃よ、側妃に何かしら仕事を与えよ』

『……っ』

『騒ぐなら、強制退出とするが?』


 側妃は1度、ライェビストに強制転移させられた身。

故にそう宣言すれば、これ以上、王妃の魔法を解除しようなどと、努力はしなくなった。


『クリスタにできる仕事……見つかり次第に』


 王妃が再度呼び捨てをし、更に眼光を鋭くさせるものの、視線を下に下ろす。

無駄な抵抗はせぬが、己の為と理解したようだ。


『陛下。

王子、王女の伴侶を決定する事は、元々は王妃の権利。

側妃が出来た場合に限り、譲り渡すものですから、王妃たる私にお戻し下さい」


 しかし王妃のこの言葉を聞いた途端、側妃は顔を上げ、今度こそ隠さず王妃を睨みつけた。

慈悲深くたおやかで模範のような淑女の外面は、脱ぎ捨てたようだ。


 王妃の方も、これを待っておったのだろう。

これまで堪えてきた王妃と、他ならぬ余の第一子たるレジルスを想えば、乗らぬわけにもいくまい。


『良かろう。

そなたの実子たる第一王子、レジルスもそろそろ婚約者を決めねばなるまい。

推挙したい者は……』

『ロブール公爵』


 食い気味にレジルスが言葉を被せる。

気が急いてしまう気持ちもわかるが、慌て過ぎではなかろうか。


 国王としては第一王子を咎めるべきではある。


 だが異母弟との婚約が成立する前から、ともすればまだ幼い公女に、男として過剰な想いを抱き続けたのを、知っておる。

それはそれで危ない気がしていたが。


 婚約成立後は、長らく口を閉ざし、感情を封じてきた事も。

お陰で色々、拗らせているような気がしているが。


 そんな息子の父としては……。


『何か?』

『公じ……』

『レジルス。

推挙し、任命するのは王妃たる私の権限ですよ。

それにロブール公爵家に公女は2人いるのです。

慌て過ぎでしょう』


 ライェビストにレジルスが公女と発言しようとして、余の代わりに王妃が咎める。

全くその通りだ。


 それにしても側妃は、このやり取りで気づいたらしい。

ハッとした顔をレジルスに向け……体内の魔力を練り始めた。


 どうやら抵抗を選ぶらしい。


 ふと、王妃の口元が小さくだが弛む。


 それに合わせ、余も含めた男達全員は成り行きに任せる判断を下した事を悟る。


 __パシッ。


 無理に魔力を巡らせ、自力でかかった魔法を解除した際に生じた微かな音が聞こえ、た。


 力を弛めたか。


『なりません!』


 かなりの魔力を消費したらしく、肩で息をしながら側妃が叫ぶ。


『レジルス王子!

弟の婚約者を奪おうだなどと、恥ずかしくないのですか!』


 立ち上がって側妃が王子に詰め寄るが……。


『クリスタ。

王妃たる私が必要を感じ、そなたにかけた魔法を解除するとは』

『何を言っているのですか?!

王妃といえど、側妃の体を縛りつけるような魔法を、何の手続きもせずに私怨でかけるなんて、どうかしています!

とにかく、ラビアンジェ公女はジョシュアのもの!

奪わないで下さい!』

『体そのものの自由は縛っていない。

非公式ながらも立場ある者達が集まるこの場で、冷静さを欠いたそなたの口に、必要な緊急措置を講じただけ。

この国の最高権威とその配たる王妃の2人が、黙るよう伝えたと理解できていないとは。

挙げ句、自ら魔法を解除して喚き散らしてしまう。

これでは王妃として城の秩序を正す為に、危険行為を犯したそなたに罰を与えなければならなくなったわ』

『ふ、ふざけないで下さい!』


 側妃の興奮に合わせて、体内で魔力がうねる。

伯爵家の出とはいえ、その魔力の高さは更に高位の貴族に匹敵する。

故に血筋と加味して、側妃に選ばれた。


『ふざけてこんな事を言う王妃は、この国にはおらぬ。

側妃はひと月、側妃宮にて謹慎を言い渡す。

また、アッシェ公。

必要に迫られた経緯はあっても、便宜上は側妃の後ろ盾故に、監視と教育できる者の手配をせよ』

『勿論に』

『そんな?!』


 恐らく王妃が狙ったのは、これであろうな。

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