283.追いかけっこ?

「致しませんわ」


 けれどきっぱりお断りよ。

若者のナンパに付き合うほど暇ではないもの。

あら、今の私はもっと若者だったわ。


「どうか、そう仰らず……」

『おかあさん、隊長のにおいする!』


 神官のナンパな発言はなおも続くけれど、それより頭のディアが嬉しそうに教えてくれた事が気になるわ。


 瞬時に索敵を展開。

もちろん目の前の神官は避けておく。

この神官の魔力的には実力が悪いとは決して思えない。

万が一気づかれると、うっとう……ね?


 あらあら、誰かが中型の魔獣に出くわしたみたい?

この人は貴族かしら?

平民よりも魔力が高いわ。

かといって全く知らない魔力だから、王立学園の学生では無さそうね。

もちろん在校生全員を覚えているわけでは無いのだけれど。


 それにしても困ったわ。

こちらへ全力で駆けてくる。


 あら、ドレッド隊長も?

ディアったら、離れた距離の相手を嗅覚で嗅ぎ分けるなんて、天才か!


 人、隊長、魔獣の順に追いかけっこ?

というか、隊長は何をやっているの?


 ふむ、と考えて、少し状況を整理する。


 魔獣は危険度Cだから……そうね、きっと遊んでいるに違いないわ。

主に隊長が。


 これなら先頭の人は、大怪我まではしなさそう。

魔力的には、落ち着けば自分で狩れるレベルよね。

きっと……多分?


 こちらに向かって来る何者かは、速さからして、身体強化や追い風効果を使っている。

ここに辿り着くまであと10分くらいかしら。


『追いかけっこを楽しんでいるみたい。

そっとしておきましょうか』

『おいかけっこ!

ディアもいってきていい?』

『いいわよ。

食べられそうな魔獣なら、狩ってきてくれる?

危なかったら、隊長に助けてって言うのよ』

『は〜い!

ディアがんばって、おいしいごはん、もってかえるね!』


 はぁ、もう、うちの子天使ね。

頭頂部に感じていた腹毛が、一瞬で消えたのは残念だけれど、可愛らしいお返事にメロメロよ。


 もちろんディアの実力的には、何も問題ないわ。

仮にも聖獣様だもの。

もしもの時は丸くなって転がっていれば、傷なんてつけられっこないレベルの魔獣よ。


「公女?

あの、聞いてますか?」


 そういえばこの神官、ずっと何か喋っていたような?


「ああ、ついうっかりお返事を忘れておりましたわね。

そろそろ行く所がありますの。

それでは、失礼しますわ」

「え、ちょっ……」


 そのまま坂道を引き返す。

早くここを離れないと、巻きこみ事故に遭遇しちゃう。


 慌てたように私の後ろをついてくるけれど、何がしたいのかしら?


 今度は登りになった傾斜を、急ぎ気味で上がり始める。


「は、早い?!

身体強化?!」


 え、何を言っているの?

そんな事しなくとも、周りの木の枝なんかを使って登れば、60度いかないくらいの傾斜よ。

問題なく登れるわ。


「普通に肉体を行使しているだけでしてよ。

この程度の傾斜、Dクラスなら実戦訓練でよく出てきますの」

「あの、少し待って下さい。

前に出て手を差し伸べますから……はあ、はあ……」

「必要ありませんわ。

息も上がってらっしゃるし、むしろナックス神官が身体強化されてはいかが?」

「いえ、淑女たる公女が……はぁ……普通に……はぁはぁ……登っているのに……ふぅ……男の私が……使う……わけには……はぁ……ゴホゴホッ」


 この人、何の意地を張っているの?

息が上がり過ぎてむせ始めたのだけれど……。


「長く神官をされているなら、体がなまっているのも仕方ありませんことよ」


 教会の外に上位神官が出る事なんか稀でしょうし、お布施の額にケチをつけて、そもそも出ないなんて選択をしちゃう教会ですものね。

ハリケーン被害が甚大だったこの地域に、理由をつけて来なかった事、忘れてないわよ。


「はぁ、はぁ、ええ……ゴホ、面目ない」


 ……素直にへこたれてしまったわ。

もう意地悪を言うのは止めましょう。

若者を虐める趣味はないもの。


「ほら、あと少し。

最後まで気を抜かずに頑張って」

「は、はい……ふぅ、ふぅ」


 少しスピードを緩めて登ってあげれば、最初にディアといた山道に出る。

といっても、整備された道ではないのよ。


「さあ、このまま向こうに下りましょう」


 思ったより時間が経ったわね。


 そのせいかしら?


 __ひぃぃぃ〜。


 遠くでこだまする悲鳴が、それとなく耳に入ってきたの。




※※後書き※※

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そろそろ毎日お昼更新があやしくなりつつあるので、一応先にお知らせしておきます。


本日下の作品は夕方頃に更新となります。

重複して読んで頂いている方もいらっしゃるので、一応こちらでもお知らせです。

【秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話】

https://kakuyomu.jp/works/16816452221256195664


こちらは章完結して、現在お休み中の作品です。

よろしければこちらもご覧下さい。

自分の小説がエタるのは嫌なので、必ず再開します(*´∀`*)

【太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する】

https://kakuyomu.jp/works/16817330649385028056

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