260.かくれんぼとボン
『うまくかくれんぼできてた?』
頭に鎮座する新顔聖獣のディアナが念話で可愛く確認してきたわ。
実はずっといたのよ。
まだ魔法で身を隠すような調整を利かせる魔法は荒削りだからお父様にはバレてしまったけれど、少しずつ力の使い方を練習して実践を積んでいるところなの。
『とっても上手になったわ、ディア』
実は騎士団長もいくらか違和感には気づきそうになっていたのよ。
その度に私がこっそりフォローしていたのだけれど、今は自信もつけてもらいたいからそれはそっと胸に留めておくわ。
幼い子だもの。
褒めて伸ばしてあげなくちゃね。
それにしても今日はシエナが通学で使っていた馬車で来たから、ここを反対に抜けて馬車停めまで行かないといけないのだけれど……。
騎士塔を出たあたりからずっと視線を感じているの。
魔法で遠見をして監視しているようね。
あら、誰かさんはやっと声をかける気になったみたい。
背後から気配を殺して近づいてきたわ。
「これはこれは。
久しぶりだね、ミハイル君の妹ちゃん」
軽い感じで声をかけてきたわね。
「まあまあ、お久しぶりですわ。
ニルティ家の次期ご当主」
ニルティ家の長男で、ミルクティー色の髪に先代王妃と同じ緑灰色の瞳の青年は相変わらず独特の雰囲気ね。
前世でいうところのチャラ男に見せているけれど、何だか抜け目が無さそう。
確かお兄様の3つ年上だったかしら。
「ウォートンと呼んでくれたまえ。
騎士団にどういった用件で?」
「頂きたいものが決まりましたから、おねだりしに」
「ああ、第3公子の行き過ぎた言動への対価かな?
何故今になって?」
「ふふふ、ずっと忘れていただけでしてよ。
先日お父様と一緒にいらした時に偶然お会いして、色々とお世話になっていたヘインズ先輩の事を思い出して甘えてしまおうと押しかけてみましたわ」
アッシェ家の醜聞となるから明言は避け、どちらかというと私の方が非常識に取られるように伝えておくわ。
「それならうちの元公子もそうだ。
何か欲しい物があるなら教えてくれないかね?」
今は亡き家格君についてはちゃんと落とし前はついているのよ。
からみたいだけかしら?
「それに関しては既に頂きましたから結構ですわ。
そこまで厚顔無恥でいるとお兄様にも怒られてしまいます」
「ならば個人的に仲良くしたいから贈らせてくれないかい?
可愛らしい妹を持つ兄気分をたまには味わいたいのだよ」
「個人的に仲良くする理由を持ち合わせておりませんし、今からでもご両親に妹をおねだりなさってみてはいかがかしら」
もちろんしっかりお断りの姿勢を貫くわ。
早く帰ってやりたい事もあるし。
それにしてもこの人のお顔、初めて会った時からどこか見覚えがあるのだけれど……。
『おかあさんにしつこくいいよるおとこ……てき?
てきはボンするってキャスおにいちゃんとラグおじさんいってた』
ディアの念話にふと我に返ったわ。
何をあの聖獣ちゃん達は教えているの?!
ボンて何かしら?!
危険な響きね?!
『ふ、ふふふ、駄目よディア。
力の使いどころは後でゆっくり話し合いましょうね。
あと彼は敵というわけではないのよ?』
『そうなの?
いつでもボンするから言ってね』
『ええ、ありがとう』
絶対言わないけど!
ボンて何なの?!
爆破系?!
うちの天使に殺傷能力は求めていないわ?!
「それは随分とつれない事を。
流石ミハイル君と兄妹なだけに、そんなところは良く似ている」
「あまり言われない事を言われると嬉しくなりますわ。
公子は何故こちらに?」
「ウォートンだよ。
なかなか打ち解けてくれないところも似ているね。
これでも一応第1王子の側近なのだよ。
それよりこれから本を買いに城下に出るんだが、付き合ってくれないかい?」
「今日はやる事がございますの」
「そうか、残念だよ。
最近巷で流行りの小説を買いたくてね。
何かおすすめがあればと思ったんだ。
君はどんな本を読むのかな?」
「特に本は読みませんの」
嘘よ。
最近は懇意にしている出版社に時折送りつけられてくるという私小説を読ませてもらっているわ。
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