194.レッツ兄妹クッキング!
「ではお兄様、加工したお肉を大鍋に入れて、上から葉っぱを敷き詰めたら火にかけておいて下さい」
「……あ、ああ」
戸惑いながらも手伝ってくれるお兄様には目もくれず、私は残りの兎熊のお肉を加工よ。
お兄様は厨房に立った事はないけど、討伐訓練なんかで切る、煮る、焼くは経験しているのですって。
動きはぎこちないけれど。
という事で、遺体発見現場は調理場になったの。
レッツ兄妹クッキング!
テーブルの上に乗せたお肉は、お兄様の魔法で縦横半分ずつカット。
お肉は大きいから、包丁より魔法ね。
傷みやすい上にドリップしてしまったもの。
手際よく、お兄様へのおもてなしは後回しよ。
まな板は意味がないから、テーブルに例のラップを引いたの。
久しぶりにうどんが食べたくなって、特大サイズも作っておいて良かったわ。
大鍋には薄く水を張って、蒸し網の代替品のザルをセット。
こっそり亜空間収納から取りだしたワサ・ビーの、カットした大量の葉っぱを敷き詰めて、加工したお肉、葉っぱ、またお肉、とミルフィーユ状に鍋へ投入。
くびれた部分でカットしたお尻の部分はこれから使うわ。
右手に包丁、左手にお尻を持って、いざ!
猟奇殺人を彷彿とさせる持ち方でグサッと勢い良く包丁を刺し、グイッと切りこみに隙間を作る。
包丁を抜きつつ穴にお尻を埋めこめば……ハイ、完成。
それを間隔を空けて10箇所設置して、お肉の第1加工は終わり。
簡単でしょう。
次は作り置きの特製ハーブソルトを擦りこむわ。
作り置きがほとんど無くなったから、また時間のある時に岩塩とコショウ、乾燥ハーブをすり鉢でゴリゴリしなくっちゃ。
魔法を使って粉砕した事もあるけど、すり鉢で擦る方が味に深みとまろやかさが出るの。
不思議ね。
ワサ・ビーもハーブもお肉を柔らかくして臭みを取る効果があるから、筋が硬くて臭みの強いお肉にはうってつけ。
特にワサ・ビーのお尻の部分はその効果が高いのよ。
「お兄様、お疲れ様です。
ラップをクルクル巻いて、流しに放りこんでおいて下さる?」
「わかった」
うっかり妹に死体遺棄容疑をかけていたお兄様は、素直に指示に従ってくれているわ。
でも殺人犯だとは思わなかったのね。
あの状況ならそう断定されても仕方ないのに、優しさから謎の容疑者Aを庇っただなんて。
『こうする前に……誰かを庇って隠す前に……俺に相談して欲しかった』
あの言葉も含めて、少しだけ嬉しかったわ。
『誰がやったのか、言いたく無いかもしれないが……見てしまった以上無かった事には……できない……すまない』
当然の事を言っているのに、こちらが気の毒になる程申し訳無さそうなお顔だったもの。
以前のお兄様からは考えられないけれど、歩み寄ろうと頑張ってくれているのは目に見えてわかるわ。
何だか前世の子供や孫達の反抗期後を彷彿とさせるし、人並みに若気の至りをやらかしながら86才まで生きた記憶があるのが厄介ね。
若者の粗相を若さ故と気にしなくなるし、情に絆されやすくなるもの。
年を取って丸くなったのね。
今世はまだ15才だけれど。
もちろん反省もせずに表面上だけ取り繕う若者には絆されないのよ。
今世で3度目、通算1世紀分生きていれば、相手の為人《ひととなり》はわかるわ。
なんて考えていても、加工したお肉をお鍋に追加して、一掴み分残した葉っぱを被せて蓋をするのは同時進行中。
まずは蒸すのよ。
もちろんもう1つのコンロも無駄にしないわ。
「お兄様も夕食……もう夜食になるのかしら。
いかが?
手伝っていただいたお礼でしてよ」
「いいのか。
少し小腹が空いていたんだ」
「もちろん」
カットしてあったいただき物の一角兎のお肉をラルフ君に感謝しながらジュワッと焼きつつ、今度こそまな板の出番。
ワサビーのワサビっぽくなった体の部分を千切りにして、お肉にハーブソルトをふりかけてから葉っぱと一緒に軽く火に通すわ。
残した葉っぱは岩塩で軽く揉みこんで、手の平サイズのラップに包んで放置。
明日の朝ご飯はワサビ茶漬けよ。
長細いバケットを側面から半分に切って、隅に寄せたお肉の横で肉汁を吸わせながら軽く炙る。
仕上げはお皿の上で。
できたての具材をバケットにサンドすれば、完成よ!
「ありがとう。
…………美味い!
それに柔らかい!」
もちろんお兄様には大きい方を差し出したのに、数分後には消失したわ。
思春期の食欲と吸引力、恐るべし!
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