SS;ある日のラグちゃん〜ラグォンドルside

【前書き】

以前にお知らせしていた恋愛部門週間で50位以内ランクイン(最終5位)のお礼のSSです。


______________


「危険だ……」


 俺の名はラグォンドル。

愛称はラグ。


 元は蠱毒の箱庭で生まれた蛇の魔獣だが、今は竜で聖獣だ。


 元は蛇の魔獣だったからか、体温が低い。


 艶やかな青銀の鱗に、首元から背中を走るサラサラとした手触りの白銀のたてがみが美しいとよく言われるが、今は……いや、いい。


 本来の体躯は愛し子の住む、離れという名のボロ小屋には絶対入れない程に大きい。

あの大きさで無理矢理入ろうとしたら、間違いなく大破させる自信がある。


 昔、といっても長命な俺にはそこまで昔ではないが、俺を救ってくれたあの時の愛し子は生まれ変わり、今はラビアンジェという名前の可愛らしい少女になった。


 いや、前々世も可愛らしかったぞ。

あの頃はどちらかというと美しさが勝っていただけだ。


 今の愛し子の愛称はラビ。

生まれ変わったラビに真っ先に気づいたのは狐の聖獣だった。


 奴は産まれる前の母親の腹にいた時からラビに気づいていた。

奴だけは愛し子の前々世であるベルジャンヌの死に際の頼みを聞かず、決して誰にも祝福すら与えず、生まれ変わるはずの愛し子にもう1度会えるのをただただ待っていた。

俺より蛇みたいな執念だ。


 俺も他の聖獣達も愛し子以外に祝福を与えているせいで、ラビとは半同棲生活だ。

愛し子の存在を隠す為だが、全員が狐のように完全同棲する機会を虎視眈々と狙っている。


 どうして愛し子の存在と祝福が関わるのかはまた今度だ。

今はそれどころではない。


 もちろん聖獣は全員が今の俺のように、あの小屋に適した大きさになれるから全員と同棲しても大きさ的な問題はない。


 そんな生活の中、俺は今、自分1人では堪えきれない窮地に立たされている。


 もう、誰かに聞いてもらえなければ……くっ……堪えられん。


 木々の生い茂る薄暗い蠱毒の箱庭の中でも、いくらか開けて日の当たる原っぱで、生まれてさほど経っていないチビ蛇達がどうしたのか聞いてくる。


「聞いてくれ。

愛し子が、愛し子が……破廉恥な変態へと変貌するっ」


 目をカッと見開き子守り中のチビ達に告げれば、途端にザアッ、と方々へと散った。


 すまない、俺の気迫で怯えさせてしまったらしい。


 だが……だが!


「いや、悪魔ではない。

そんな生やさしい奴じゃない。

悪魔など破廉恥な変態の前では蒙古斑の消えない人間の幼子のように可愛らしい。

あの夜ラビが突然何かのスイッチが入って、変態に、変態に変貌したんだぁぁぁぁ!」


 昨夜を思い出して草むらに突っ伏し、恐怖と危機感に身悶えする。


 するとチビ達は今度こそ周りにいなくなってしまった。


 ああ、すまない!

決して怯えさせるつもりはなかったんだ!


 チビ達は離れた木や岩の陰に隠れつつ、シューシューと少し幼い声で何があったのか聞いてきた。

優しいな。


 おれはパタリと地面に突っ伏して答えた。


「数日前の夜の事だ。

俺は今のようにラビの膝丈程の大きさになってベッドの上で寝そべっていた。

どうでもいいがソファを小屋に入れて欲しいな。

年頃の娘が使うベッドでくつろぐのは気が引ける。

まあいい。

そうしたら風呂上がりのラビがきて、やけにキラキラした眼差しで俺を見た」


 話しているうちに興味を惹かれたのかチビ達が再びこちらに集まってくる。

可愛い奴らめ。


「だが次の瞬間、ラビが……ラビが破廉恥な変態となって短パン姿で跨がってきたんだぁぁぁぁー!!!!」


 俺は再び取り乱し、体をくねらせて短い手で頭を抱えてごろごろと転がる。

あの時の愛し子の変容した顔を記憶から追い出すようにぶんぶんと頭を振った。


『ああ、ラグちゃん!

何て素敵な枕なの!

これは抱きまくらね!

お風呂上がりの火照った体を冷ます接触冷感抱き枕!

やっだー!

冷たくて気持ちいいー!

しかもさらさらヘア……これは誘っているのね!

ドレッドヘアにしてくれと誘っているのねー!』


 そう叫んで破廉恥にも短パン姿で俺に跨がり、ピッタリと俺の鱗に素肌をくっつける。

ラビの顔は恍惚としていて、目は潤み、鼻の下が少しばかり伸び、頬が上気していた。


 まさに破廉恥かつ、変態!


「しかも行動と顔で破廉恥な変態なだけじゃない!

恐怖で硬直した俺の体を内股でガシッとロックして、強さのシンボルでもあるこのたてがみにみつ編みを、大量のみつ編みを……保護魔法までかけ、た……」


 今のこの鬣がラビの言うところのドレッドヘアである事を思い出し、バタンと脱力しきる。


 そんな俺にチビ蛇達はシューシューと聞く。

何故そのままなのかと。


 わかっている。

その気になればすぐにでも保護魔法は解除できる。


『ふふふ、懐かし〜、懐かしいわあ〜。

んふふふふ、昔は子供に孫にひ孫にたくさんみつ編みしたのよね〜』


 体はもはや破廉恥な恐怖に力が抜け、されるがまま。


 しかしベルジャンヌ……俺の、俺達の悲劇の主人は生まれ変わった異世界での86年間は温かな家族に囲まれて幸せに過ごせたんだろう。


 俺も今、こんな風に孫やひ孫に囲まれて幸せだから、あの時のラビがどれだけその家族を懐かしんで恋しがっていたかわかる。

わかるだけにドレッドヘアの保護魔法を解除しづらい。


 ただ、少なくとも昨夜のラビアンジェ……やっと巡り逢えた愛しいお前のあの時のあの夜のあのひと時は……前々世よりもずっとずっと……今世でも1番幸せそうな……破廉恥な変態(ガクッ)。


 ああ、チビ達の慰めるようなシューシューが心地良い……うっ、涙が……。



※※※※※※※※※

後書き

※※※※※※※※※

お粗末様でしたm(_ _)m

ご覧いただきありがとうございます。

ここまで応援していただいた皆様には心から感謝しております。

フォロー、評価、レビュー、コメントは平身低頭して有り難くちょうだいしております。

勢いだけの見切り発車でここまで投稿してきましたが、応援していただいた皆様のお陰で投稿し忘れた日以外、毎日更新できました。


サポーターとなっていただいた方にはまた何かしら限定公開にて投稿しようと思っていますので、しばしお待ち下さい。


別サイトになりますが、本日なろうさんの方で部門別日間100位以内にランクインできたお礼にこことは別のSSを投稿しております。

よろしければのぞいてみてください。

https://ncode.syosetu.com/n0481hq/


 どちらのSSもしばらくの間、それぞれのサイトでのみの公開となります。

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