第36話邪魔をしてくる軍を排除するぞ!

 ぐちゅり。


 執拗に怒りを込めた張り手が地面に叩きつけられる。されど怒りは止まず二度、三度と地面を叩く。癇癪をおこす子供のようにヒトだったものをバラバラにすり潰す。


 むしゃり。


 食べる意味もないのに、周囲に響き渡るように歯ぎしりを行う。されど心は晴れずヒトのようなものを奥歯で轢き肉にする。


 「ぁっ■■■!」

 

 ヒトには断末魔すら許さぬと眼窩がんかの底に光のようなものが収束し放たれる。地面の上に、我が物顔で聳え立つビル群が一つ、二つ、三つと貫かれ四つ目でとまり。ドロドロに溶けて行く。

 収まらぬ殺意はとどまるとこを知らない。今の光で数百の命の花が弾け咲いた。

 

 いたぁい。


 首筋にギシリと奥まで響く鈍痛が、なんだぁ? 俺の邪魔をするんじゃあねえぞぉ? 俺はぁ怒りを【表す神】だ。

 消えぬ怒りの業火ごうかと、膨張し自らをも焼きつくす増悪の劫火ごうかなりぃ。ひざまけ、平伏ひれふせ、こうべを垂れろ。さすれば先に死をたまわろうぞ?







 がしゃ髑髏の首筋に最大出力のダガー二本で、骨の継ぎ目を狙い定め全力で切り込んだはずだがひびぐらいしかはいりゃしねぇ。

 がしゃ髑髏の周辺に黒い霧のようなものが現出し、違和感を感じた時には地面に叩き付けられていた。


『周辺に高重力場が観測されています至急退避を』


「――ッッできれば――やってるッ…………」


 自機も重力のおりに捕らわれる、コクピット内に各部位の損傷を示すステータスが表示され警告音が鳴り響く。胴部に一番の高負荷が念入りかかっており、機体の姿は正に頭を垂れる犯罪者のようだ。


 体積が大きく機体の出力では脱出することはできない。数瞬の状況判断で[体術Ⅰ][隠密Ⅰ]を取得、残りZPは千を切ったか……。

 機体の重要部を抜きとり自爆シークエンスに入る。


「すまない。すぐに直してやるからな」


 地面に面しているハッチをブレイドモードで切り裂き地面を人のサイズに掘り抜く。

 背後を副腕で庇い気配も消す、間もなく機体が爆発し辺りに衝撃をまき散らす。

 死んだことに満足したのか、がしゃ髑髏は中心街に向かって破壊活動を再開する。




◇ 




 見つからないように物陰に隠れ、がしゃ髑髏をやり過ごす。先程から通信が入っているので応答する。


「どうした源三」


『軍の奴がきやがった、恐らく焦っているんだろうウチのギルドメンバーを人質に取りやがったッ! 救出作業をしてやがった衛生部隊を盾にしてやがる! 糞どもがッ!』


「軍人に親しい奴はいるか?」


『ああッ!? いやしねえよ!』


 ああ、良かった。







 人質を取る軍人に対し、衛生部隊の相倉が降伏し機体を強奪される。地面に押さえつけられた相倉は人質の安全の保障と交換に降伏をした。


「人質の安全? なんで犯罪者なんかの安全確保しなければいけない? さっさとあの機体を渡せばいいものを。おい、撃て」


「やめてぇぇぇぇ!!」


 相倉の親しい仲間でもいたのだろうか、涙が零れて前が見えない、必死の懇願も空しく軍人がアサルトライフルを構える。


「やめてッ! やめッ」


 赤い光のラインが走る、水平に。跪いていた人質以外の、立っている軍人が胴体からぐちゃりと、内容物をぶちまける。

 続いて四門のマズルフラッシュが発生し薬莢が地面に次々と落ちて行く。


 離れて待機していた軍人の射撃が始まるも一人、また一人と臓物が垂れる。綺麗な鮮血は咲き乱れず、地獄のような腐臭と汚物が散乱する。


 押さえつけられていた軍人も両手首を切り落とされ蹲っている。

 気付けばすでに戦闘音は収まり軍人は血に伏している。


 呆然としていると眼前には局所をさらした死人が立っていた。


「ほれ、トドメさすんだろ?」


 当たり前のようにハンドガンを私に手渡してくる。なにも考えられず体が反応して銃のスライド引く。


「ほら、胴体押さえつけておくから何発でも撃っていいぞ? なに、俺の足に銃弾があたっても弾くからさ大丈夫大丈夫」


 なにが大丈夫なのだろう? ニコリと笑いかけられる、不意に可愛いかもと思った私は悪くない。遠慮なく撃たせてもらおう。


「まっでッ撃たないでッ! しゅいましぇんッ! ごめんざさ――」


 取り敢えずうるさかったので、脳天に銃弾ブチまけてやった。まだスッキリしないのでマガジン内の弾薬を全て打ち切る。


「お代わりのマガジンいる?」

 

 いる。すごい楽しそうにマガジンを渡してくる。もちろん全裸で。あとで一発相手してくれないかなと思う。


「スッキリした?」


 最高。ちょっと発情してるかも、濡れるわー。ちょっと下半身を撫でて悪戯してみる。あ、少ししか触れなかったわー。


「あほう。取り敢えずギルドメンバーの手当と撤退の指揮をしてくれ機体も移動させるぞ? ちゃんと向き合ってやるから楽しみは取って置け」


 はぁい。やった。言質とったぞ。さて仕事しますかー。







 源三と打ち合わせをする、防壁都市内に既に大量のゾンビが蔓延しているようだ。


「すまない。いや、ありがとう死人。なんだかすまないしか言わないギルド長だな俺も」


「まあどう出るか予測は出来るが、まさか救助活動している仲間を人質に取る外道だとは誰もが予想できまいよ。外道の事を分かるのは同じ外道だ」


「親族や知人は拠点に順次移動させている。俺らも撤退する予定だ。もう足止めの意味もないしな」


 遠目に破壊されつくした街並みがある。ゾンビが蔓延し火と煙が舞う。


「まさかこんな日が来るとはなぁ、さっさとゾンビを殲滅していけばよかったのにこの十年のツケが来たんだよ。安全圏を見つけて権力闘争に明け暮れる。生存競争は続いていたのにな」


「まあ、その話は俺が奴をぶっ殺して酒を飲みながらでもしようぜ。俺が生きていれば物資には困らねえぞ?」


「頼もしい限りだ。さっき相倉がおめえと結婚の約束をしたって吹聴してたぞ? それは良いのか?」


「………………まぁ、間違いではないが、一発約束しただけなのだがな」


「まあ人類の為にこども一杯作ってくれや。甲斐性は人類最強なのはみんなわかってるぞ?」


「わかったよ。では行ってくるわ」


 再び奴と戦いに行く。だが何かが足りない。俺の身体のスペックは高い。コアに取り込んだ機体も損失して重要部品だけだ。手に乗るこいつが訴えて来る。こんなもんじゃない、あんな量産品と一緒にするな俺は俺だと。

 そうか、お前は俺であって、俺はお前だもんな。


 ハンガーを開き入室する。視界には夥しい数の機体のキューブが積み上げられている。手当たり次第に同化。吸収。同化。吸収。を繰り返す。武器も弾薬もエネルギーキューブも何もかもを。

 

 コアの器はモノリスにより広がっている。内包世界があるようなものだ。全てが銀になる。

 マザーを倒した時に手に入れた黄色の鉱石、電核石も取り込む。核石を心臓にしコアの中で機体を再構成。戦闘データが蓄積された重要部品もドロドロに溶け混ざり合う。


「ミコト、作成中の図面を送って再構成のバックアップをお願い」


『あいあいさぁ~弟の誕生に力を貸さない姉はいなぁ〜い。ちょっとSP使っちゃうけどいいですよねぇ~?』


「SP? もちろんだ。許可する。何ならありったけのZPも突っ込んでありとあらゆる可能性を広げてくれ」


『言質とったぁ~■■■さんぁ~わたし弟がほしいでぇす~ちょっと娘のお願い聞いて欲しいな~なんて? 夫婦の営み? ちょっと目を瞑るですぅ』


「おい、いまなんて――」


 暗転。本体であるコアが弄られかき混ぜられる、保留していた三柱のリソースが使用されているのだろう。おい、今何か入れただろう? ■■■の何かが隠し味に入れられる。不安だ。


 脳内に銀色の機体が形作られていく。ZPで外殻をSPで人格を。エネルギーリアクターには電核石と名状しがたい物を。


 現実に戻り目を開くと、基本の形は空戦機に似てはいるが、副腕が四本増設され腕も足も一回り太くなり全長も伸びている。腕にしても内包された金属がどれほど圧縮され加工されているのかも想像できない。恐らく歩くだけで地面が沈むだろう。


 武装類は一切持っていない、吸収した武装は展開できるようだ。切り替えの手間が省ける。背面のスラスターも噴出孔も六つに増えている、脚部、肩部に小型のスラスターも増設されており、急制動も容易に可能となる。

 大事なツラだが横一本の蛍光色のラインがやっぱりカッコいい。顎部に小径のガトリングが仕込まれているはずだ。

 

――命名権を主張。機体固有名を【狭間ハザマ】と命名


『■■■さんがぁ~旦那が娘の名前を決めたから息子の名前は決めるっていってましたぁ~』


「お、おう。これからよろしくなハザマ」


『………………よろしく。父上』


 新しい息子は寡黙なタイプらしいぞ。

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