第145話 ダンソン!
ヴィヨンヌ南部 旧都市衛兵駐屯砦 コールサイン『ロドス』。
食堂にて、宴会中であった冒険者’S &米軍戦隊イナバレンジャー36名。
時刻は深夜帯に差し掛かり、酔いつぶれ寝入っている者も大分増えだし、宴もたけなわ。そろそろ、お開きかの模様であったが──。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「また、地鳴りか。結構でかいな……これも何かの戦闘によるものなんだよな…レオバルト?」
と、冒険者レイドパーティ、総リーダー「レオバルト」に問いかける、米軍チーム指揮官の「イナバ・アキオ中尉」。
「ああ、イナバ。おそらく地下迷宮であろう、北西部の方か…割と近場だな。何かは知らんが、S級以上同士の戦いであるのは確実であろうな」
「戦術兵器の爆撃
常時戦時下、混沌たる終わりなき闘争世界‶煉獄〟。四方から響き渡る激戦の
すでに聞き慣れ、極自然の環境音と化していたが、宴会の途中から都市内の地下の方から響いていた。
昨日の超戦闘を経験し、すでに人外修羅道に足を踏み入れたイナバであるもの、この非現実的な現状に、未だ受け入れがたい思いも多々あるようだ。
「おーの、さすがは煉獄っちゅう事やき、
と、言いながらも、武人気質が故に何やらワクワクの様子。
「はぁ、全くですよねリョーガさん。単なる食料調達も、ここでは上位討伐レイドクエストと変わりないですから、今後の事を考えると嫌気が差しますねぇ……」
リョーガに共感しながらも、真逆の心情反応。しみじみとそうぼやく、リアル王子殿下兼、S級冒険者「リュミエル」。
「ふむ、リュミエルよ。ここ煉獄は、様々な世界生態系の集合体。だが、喰うか喰われるかだけの単純二極の在り様。弱者は累々と
「はぁ、まぁ……過酷な戦闘が続き、ついついネガティブになってしまいました。
肝に銘じておきますよミゼーアさん……」
かの
「まぁ、リュミエルば、そげんこきよるのも無理か無いばい。ばってん昨日の
それなりの戦闘力はあるもの、基本は生産職。ドワーフ A級「ドーレス」。
上位レイド戦はそこそこ
「確かに
そう語るは、
まだ十代半ばの少女であるも、彼らの世界では成人。故に飲酒も少々嗜み、頬を赤らめ仕上がっている様子。
「おおー!そげな最上級術式ば、クラリスは使えるとね?」
「いえ……‶教皇〟か‶聖皇〟クラスでないと無理かと思われます……」
「……」
クラリスの潜在能力は、
そうこうあーだこーだと、酔いどれ面々の談話が語られる中で。
「ん? テッドの奴がいつの間にかいないな……こそっと抜け出し、寝所で寝てんのか?」
ふと、気づき呟くは米海兵隊「ジョブス5等准尉」。宴会中混沌ボケ量産の元米海兵隊、戦死後に兎人族への転生者「テッド・オルセン」のツッコミ役に勤しんでいたが、相方ボケの不在に少々寂し気のようだ。
そんな、まったりムードの様相であったが、突如一転。
ドオオオオオオオオオン!!ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
それは、明らかな地上での爆轟音。ロドス付近では無いもの、ヴィヨンヌ都市内北部からの大音響。
「「「!!!!!!」」」
「なんや、これ!?」
「みゃー!? ドラゴンでも出たかにゃらー!?」
「ったく、
「いや、散々ガッツリ食っとったやろ!」
爆食いも程々、落ち着いたところで虚をつく大衝撃音。
揃って色めき立つ三者三様は、いかつい虎面獣人A級「ガイガー」。
ケモ耳、美少女型の猫獣人 A級「ネイリー」。
女性ながらも巨漢、巨人族の血筋、S級
この異変に、酔い潰れ寝入っていた者らは一斉に叩き起こされ、起きていた者らは当然、総員最大警戒態勢に移行。
これまでの状況を踏まえ、如何なる種の戦闘の余波なのか、各自で思考を巡らす。
考えられるのは、地下迷宮から現れた何らかの強存在。それが、都市内の主な住人である屍人、屍獣、亡者、亡獣などのアンデッド種を無双乱舞。盛大にぶちクソ回しているのではと。そして──。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!
「「「!!!!!」」」
突如、食堂内に響き渡る何かの連続音。一同、瞬時一斉に戦闘態勢を執るも。
「ダンソン! フィーザキー! トゥーザティーザーサ コンサ!!」
募る緊迫感ぶち壊し、軽快にシリアスキリング。某バンビーノ、コントネタ風リズムステップで現れる、ドレッドヘアの黒兎人シーカーA級「テッド・オルセン」。
「やめろや!外の爆音に合わせるな!おま、悪ふざけも大概にしろよ!」
「「「………」」」
「こいつ…ホンマ喰い殺したろか……」
「ハハハ、ソーリーソーリー。ムラムラして、ついつい我慢できなくてねー」
「うるせーよ!お前の珍妙な性癖の所為で、この空気どうんすだよ!皆ドン引きで、大スベりじゃねーか!」
「ハハ、まぁまぁ、それはいいとして」
「いいのかよ!」
「それより──」
「「「?」」」
ジョブスのツッコミにも力が入り、即興コントネタが続くと思いきや、テッドの表情が一変し、何やらシリアスムード。
「皆、屋上に来てくれ。この轟音の発生源の姿が見れるぞ」
「「「!!!!」」」
「宴に参加しつつ、外の様子にも気を配っていたのか……。妙なノリは兎も角、さすがは上位級シーカー。抜け目が無いな」
感心するレオバルトにドヤ顔のテッド。その顔にイラっとするジョブス。
テッドは、表向きは混沌おちゃらけキャラであるも、内情は実にしたたか。
「先ずは一見ってところさ。果たして‶アレら〟の正体が何なのかってところだね」
その頃、旧セントラリア地下街、幻浪旅団の方では──。
『『『ワオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』』』
「「「ウワハハハハハハハハハハハハハ!!」」」
「「「うまし~~~~~~~っ!!」」」
人、鬼、獣、幾多の種族が交え共にする、混沌にして整然調和。深夜の野外大宴会パーティ。
そもそも陽の光が無い地下故に、昼夜もへったくれも無いが、感覚的にもかなり遅い開催。
旅団食材倉庫は、リディの超大容量の
散々歩き回り、戦闘に次ぐ戦闘。極限まで凝縮され高められた食欲の解放は、至上至福極まるであろう。
「おい、クレイン。実に美味いんだが、何の肉だこれ?」
「ん?ああ、ラーナー大尉。それは‶ブラキオサウルス〟の肩ロース肉だよ」
「……そうか。うん、美味いな……うんうん、そうかそうか…」
「Don't Think. Feel!」考えるな感じろ。そう内心に言い聞かせるラーナーであったそうな。
「あー、つうか、ハ=ゴスのヤロー、飯がどーのこーのとすっ飛んで‶何か〟と戦闘おっ始めたようだが、天井の岩盤をぶち抜いて、地上まで出てんじゃねーのか?」
「そのようね。楽しそうで何よりだけど、はしゃぎ過ぎも大概だわね」
「……‶好物〟とか言っていましたね。その対戦の相手は、もしや彼らが標的にしている‶ミ=ゴ〟なのでは?──団長」
「あー、その可能性は高いかもな。って、上官のあんたまで「団長」言うかのかよ。カミズル少尉」
「ここでは、あなたが最高司令。団長の呼ばれなら、そのルールに従うのは当然。
私もこの超部隊の列席に、戦力として加えさせて頂きますので階級名称は不要。
「クロエ」と呼んでください」
この異次元世界では、国の助力を得られない上に、敵の脅威にアメリカ軍部隊としての機能も不能。故に、軍規も階級もへったくれも無い。
今の状況を例えるなら、推進力を失いボロボロの沈みかけの小舟で漂流中。嵐に晒され絶体絶命の窮地に、颯爽と現れた大船どころでは無い、空母打撃群連合艦隊に救助された様なもの。その艦隊に志願入隊できるならば是非ともと言ったところ。
「あー、相当な手練れらしいから、こっちとしてもあり難いが……まぁ、よろしく頼むよ──クロエ」
「はい!以後お見知りおきを!」
これまで感情の起伏は乏しく、冷然とした印象のクロエであったが、無邪気な少女の様な満面の笑顔。そして、何やら期待に満ちたワクワクの様子。
「フフ、これで、このゆかいな仲間たちの正式一員ね クロエ。あなたなら、かなり楽しめると思うわよ。──ヒュペルボリアにいた頃よりね」
「フフフ、期待すべきは、正にそれですよ。リディさん」
「「フフフフフフフフフフ」」
「なんか、怖えーよお前ら……」
と、意味深な異次元ガールズトークに戦慄を覚えるトール。
「ワルキューレと何やら語り合っているようだが、あんな楽し気はクロエは初めて見るよな……」
「冷徹な印象だったが、気の合う女性同士で本来の性分が表立ったんだろうなブルース」
「気の合う者同士か……どちらも人智を超えた存在。ああ…正にだよなラーナー…」
そうしみじみと語り合う、ラーナーとブルース。こちらも、士官学校時代からの気の合う旧友同士。
「もう、何が何だかって感じっすね……。ってなわけで、この光景に大喜利ツッコミ一言を!」
「うるせー! こんなカオス展開、誰も処理しきれねーよ!」
「ああ……これほど鼻を自由自在に満遍なくほじれる至福高揚。ワタシが崇拝する鼻神様に極々感謝の言葉を捧げるね」
「脳がパンパン時に、こいつも欲しがるのか……よし、とりあえず一旦黙れ!」
こちらも気の合うジミー、ダフィ、ダドリーのシリアスキラートリオ。あまりの膨大な混沌情報量に触れる事すら敵わず、思考放棄の在り様。
「しかし、クレイン。何をどうすれば、短期間でこれ程の軍勢を築けるんだ?」
「確かに。それは俺も気になっていたところだよ。この世界の事もな」
「同感ですね。そろそろ、事の経緯や情報共有の程を、お聞かせ願います」
「あー、先ずはそれだよなー。ちと、長くなるぞ」
「「「オーケイ!」」」
「望むところです!」
ようやく、この未知の状況の数々を解明されるとあって、後入りの面々が集まり、焚火を囲って地べたに座り、腰を据える。
そこに、情報捕捉要員としてサウルを加え、人化したカレンとトア、朔夜、黒鉄、弥宵も参入。大狼からこの獣人への変化に、驚きの顔芸選手権を始める米兵たち。
「……で、先ずアフガンから転移して、俺が目覚めたのは──」
それから、トールたち旅団の面々から語られる壮絶極まる事の経緯に、色とりどりの顔芸を披露する傾聴者たちであったそうな。
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テッドのリズムステップですが、お笑いコンビ「バンビーノ」の「ダンスィングフィッソン族」というコントネタです。
実際に視てもらった方が分かり易いので貼って置きます。
https://www.youtube.com/watch?v=SAn2JDXZ43Y
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