第117話 はがえーのう


「──さぁ同志たちよ、いざ尋常に参ろうぞ!!」


『『『「「「グァロロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」』』』


 虐げられていた者レネゲードたちの、誇りを賭けたリベンジ卍決戦。上演開幕。

 

 ウルフ旅団の攻勢が、佳境に入ったところでクーデター勢力が加わり、戦いの様相は混沌を極める。


「親衛隊、迎撃開始! 反抗勢力は全て容赦なく根絶やしにせよ!!」


⦅⦅⦅⦅⦅DAHHUNDARAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆⦆⦆⦆


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 親衛隊キメラの種類は全て統一され、胴体部は4mほど。頭部に湾曲した二本角付き、黒色サーベルタイガー。

 その背にはカマキリのような鎌状の爪脚が3対6本。尻尾の大ムカデ部位を含めれば、全長10mを超えるエグイ合成生命体。


 反乱勢と比較し、少数ながらも戦闘力は絶大。その全ての動きが異様、複雑かつ迅速。刀牙、背中の鎌やムカデ尾による近接攻撃に加え、二本角からは強力な黒雷を放つ。

 これらの攻撃をまともに受けた反乱勢は、噛み砕かれ、切り裂かれ、高電圧に焼かれ爆散。次々と無残に散って逝く。


「お前たちの死は決して無駄にはせぬ!!必ずしやあの外道と魔王の首をもぎ取り、その墓前に手向けとして捧げよう!! なぁ、同志ゲバル!!ゾイゼ!!」


 反乱勢も精鋭 強種揃い。サウルを筆頭とするインペリアルゴブリンたちは、各手持ち盾で防御し受け流しつつ、魔力を纏った剣技、戟槍術を振るう。


「おうよ、サウル!!はあ、こがーもう、こんなクソ生活とも終わりじゃけぇ、腐れカスどもが、盛大にぶち回したるフルボッコけぇのう!!」


 サウルにそう荒振りながら応える、エルダーオーク種では最も巨漢のリーダー

「ゲバル」。荒々しい造りの鎧の隙間から見える腕やスキンヘッドの頭部には、顔を含めて幾何学模様のタトゥのような【魔紋】が刻まれている。

 その魔紋が淡く発光し、ゲバルはオーラを纏った大金砕棒をぶん回す。それに続く他のオークたちも巨剣、大戦斧を振るいキメラを粉砕する。


「なぁ、リディ。醜鬼オークって、物語によっては豚面とか、あー云う いかつい鬼面だったりするが、あれが実際のタイプなのか」

「いえ、現存では豚型オーク。あれはその祖先である【古代醜鬼エルダーオーク】よ。古代期、神に背いて呪いにより知性を奪われ、豚のような劣化した姿に変えられたと云う説があるわ」


「コイツラ 許サナイ 全テ殺ス!」

 

古代獣鬼エルダーオーガ】種 筆頭「ゾイゼ」は、同種と比べ一際大きい二本角に鬼ゴリマッチョ。その固有ユニークスキルが発動。大角が紅く光り、全身に紅雷が迸る。

 その紅雷を纏った超剛腕と重厚鋭利な凶爪で、親衛キメラの黒雷とぶつかり、弾け合いながら切り裂き、他のオーガも負けじと、憤怒に満ちた濃密なオーラを纏い、凄まじき兇功撃を振るいまくる。

 

「古代期では寒冷な山岳地域に拠点を構えていた為、あのような銀灰色の体毛に覆われていたようね。ヒュペルボリアに現存するのは、多少毛深い程度で黒毛。体形はもっと人種に近いものよ」

「地球で云う類人猿の鬼版みてーなもんか……」 


 多種多様の魔獣種は、強靭屈強の体躯に加え、全身魔力強化された牙、爪、体当たり突進。いずれも砲弾の如き破壊力。

 更に固有魔力スキルなども行使。亜人種と協力し親衛隊の数を次々と削っていく。


 本来、キメラはこれらを陵駕させる為、屈強生物同士を合成させ、各能力を併せ持った、多用途マルチロール戦闘生命体。しかもこの場にはその上位型。

 素体とも言うべき単固体では、当然太刀打ちできるはずもなく、対抗されてしまっては本末転倒。合成させた意味が無い。普通に従え運用させた方が有用的。


「我らが日々、ただ惰性で服従し惰眠を貪っていただけだと思っていたか。この日の為に鍛錬を続け、ひたすら己を磨き牙を研いできたのだ。今や恐るるに足らん!」


 そう語るサウル。これを補足すると、これまで反乱勢力は表向きは従順に従い、裏では訓練と称した情報収集も執り行っていた。

 その情報とは、各キメラの陣容、戦闘能力及び行動パターン。それら情報交換を各種族のリーダーと日々欠かさず繰り返してきたのだ。

 

 力及ばず倒れた者もいるが、どれも同胞たちをかばい、想いを未来に託した尊き自己犠牲であったもの。 

 

⦅⦅⦅⦅『『『「「「ガロォGUrUバロGyrIグオオbズオkpdjぐぁんbpべpひうHこそいんbをchhJzんkbzbkcBbずh!!」」」』』』⦆⦆⦆⦆


 壮絶、激烈、凄惨、痛烈、苛烈、熾烈、etc…。激しさの関連語を並べたらキリが無い。累々たる人外たちが血肉で描く、極限極地の煉獄絵図。


『何やら、戦の様相が変わりましたな……』


 そう語りながら、トールの影から浮き上がり現れた朔夜。邪魔な魔術防御壁ギアバリアを貼るキメラたちを粗方の排除を終えて合流。


「ああ、そのようだな。あいつら死に様が漢前すぎんだろ。つうかお疲れさん朔夜ガルム1 グッジョブだ」


 一切躊躇い無く勇烈と散り逝く戦士たちに、尊崇と畏敬の念を抱きつつ、朔夜の武勲を労い撫でてやる。


『ええ、全くそのと、ドゥフ! これは光栄たる誉れ、 恐悦至極でございます!』

 

『おとたま、アタシも撫でて撫でてー!!』


 ゴッドハンド、【英気恢復レフリヘリオ】にて英気回復、高揚とする朔夜。そして、一通り暴れ回り戻ってきたカレン。

 

「お疲れ カレン。あー、分かったから腕を甘噛むなー」


 そこに、上空から猛禽類型戦闘機 メタリカ第三形態マークドライ蒼鷹雪光ストラトヴァリウス】形態のトアが、VTOL垂直離着陸機( Vertical Take-Off and Landing Aircraft)のように垂直飛行で緩やかに降りて来た。そこから空中にて形態解除、フェンリル形態にて着陸着地。


『ボクも撫でておとたまー!褒めて褒めてー!!』


「よくやったトア お疲れさん! すげー見事──って、おま、何拾ってきたんだよ…?」


 トアが何やらな大型猛禽類?飛行生物らを引き連れてきたようで、それら2種2体ずつ4体が大狼たちの背後に優雅に降り立った。

 その体長は7から8m。一方の2体は上半身はハクトウワシ、下半身はライオン。地球に於いては空の王と百獣の王が一体化した伝説上の存在。

 もう2体は、5から6m。上半身はイヌワシ、下半身はサラブレッド馬。


「……あれは‶グリフォン〟と‶ヒッポグリフ〟ね。トアのあの飛行形態から、仲間だと思われたのかしら…」


『うん、トモダチになったんだ! あいつら大嫌いだから一緒に戦ってくれるって、ついて来てくれたんだ!」

『『『『フィィイイイイイ!! ヨロシクちゃーん!!』』』』


「……そうか。あーまぁ、制空権はこれで安泰ってことで……てか、かっけーな。後で乗せてもらおー……」

『流石トア様! 任務を完全遂行どころか、更に戦力を増強するとは畏れ極まります!』


「ゆかいな仲間たちが、更に愉快になったようで何よりね……」


 一石四鳥どころか、プラス言語も話せる高知性持ちの強力な四鳥。一石八鳥となったトアの大功績を労い、撫で撫でしていたところ、ついに‶奴〟が動く。


「あー、あの腐れ目ん玉ハゲ、やっと便所から出て来たか」

『ブハハ! 腹でも下しておったようでござるな!』

『ムハハ、キメラのフンでも拾い食いしたようでござりまするね!』

『ゲリ夫、ゲリピーだったのー!』

『ビチ夫だよ、おねたまー!』


「ガリ夫だよ! まぁ、あれはクソヤロー仕様だから、変わりねーか……」

 

 などと、エンジョイ観戦モードの旅団陣営をよそに、ガリ夫は親衛隊キメラの多数損失に已む無くと言った様子で戦闘態勢に移行。

 その背から、湾曲した剣のような背びれが、翼の如く3対6本生え伸ばし変容。そして悠然、悠揚と語り出す。


「遊戯の時間は終わりです。では授業を始めましょう。ついて来れない者は、容赦なく置いて行きますから覚悟してください」


「わりゃあ、たいがいにせぇよ。そがー腐れ戯言は、はぁたいぎーもうダルいんじゃ クソボケがぁあ!!」


「兵隊どもの陰に隠れ、怯え慄いていたと思っていたら、ようやく観念し穴から這い出てきたか ガリガリ・ガリ夫!!」

「ガリ夫、殺ス 殺ス 殺ス 殺ス 殺ス 殺ス 完全抹殺!!」


『『『『「「「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」』』』


 亜人種戦士、魔獣たちは憎悪に満ちた咆哮を上げ、ガリ夫を囲い、濁流のように押し寄せ襲い掛かる。

 そんな中ガリ夫は跪き、地面に歪な掌を当てる。すると血の色ような魔法陣が現れる。


「──暮景 棘菊葬裂ガリアザミ


 ガリ夫を中心に、地面から多重円形、無数の湾曲した棘が突きだし、棘草アザミの花弁のように生え伸びる。多数の亜人種、魔獣らが、針山の如き凶花弁に無数串刺し。


 各種族リーダー、サウル、ゲバル、ゾイゼ及び精鋭らは、瞬時に危機を察知し回避できたもの、範囲内のものらは幾多と滅多めった刺し。僅かに生き残った親衛隊キメラも含め、敵味方問わず平等の災いが齎された。


 キク科アザミ属は別名「棘草」。花言葉は「独立」「報復」「厳格」そして──

‶触れるな〟だ。


「この状況で自分の直近配下まで……こやつには最早、情はおろか同胞意識とかのたぐいも一切皆無か。悍ましいな……」


「クク、王族ともあろう者が異なことを申しますね。消耗品に情が湧くなど、滑稽を通り越して哀れとしか言えませんね。余程貧相な田舎国家のようで痛み入ります」


「き、貴様……」

「サウル! こがーたいぎぃこのダルい腐れ口車に惑わされるな!ぶち回すことだけに集中せぇや!」


 ゲバルは、怒りに打ち震えるサウルを諫めながら、大金砕棒に魔力オーラの出力を上げ纏わせると紫色に発光。

 追従する、エルダーオークたちと共に、ガリ夫に向け攻め入る。その背後には魔獣たちも続く。


「怯マズ 留マラズ! 我ハ攻メルノミ!」


 ゾイゼは、自らの胸を両拳で叩きドラミング。体毛が総逆立ち硬質化、激しい紅雷オーラを放ち、銀灰毛が紅色光に染まる。

 続くエルダーオーガたちも一斉ドラミング。銀灰毛が発光し鎧装甲と化す。オーク部隊の反対側から挟撃、互いに波状攻撃態勢で攻め込む。


「やれやれ、神の眷属に触れようなど甚だ烏滸がましい。だがこれは慈悲です。盲目たる信徒たちに厳粛に教えを説かなければなりませんね。真心の愛を込めて──」


 ガリ夫の赤黒いオーラが一際大きく迸り上昇。そのオーラが六つ頭、痩せ細った獅子の上半身に変容具現化。

 歪に禍々しく花開く異形のダンディライオンタンポポ。その花弁である獅子頭が左右3、3、各顎が開き魔法陣が出現。そこから放たれるレーザーブレス6砲撃。


「──菊花痩獅子咆哮ガリレオ・ガリレイ


 直撃を受けた者は瞬時に蒸発。周囲は業火の爆炎と爆風が覆い尽くし、幾多の人外たちが粉々に燃え散り、阿鼻叫喚の地獄と煉獄コラボレーション絵図が悍ましく描かれていった。


 キク科タンポポ属 英名ダンディライオン。その花言葉は「真心の愛」「幸せ」

そして──‶神託〟


 その下された神託は、慈悲と称した凄惨たる‶破滅〟。歪な異形ダンディライオンの花言葉は、歪にねじれ曲がり歪に綴られた。


 その災禍の中を掻い潜り、辛くも生き残った人外戦士たちは、片腕や片足などの部位を失い血塗れ。だが動けるならばと、必死勇猛果敢にガリ夫に刃を振るう。


「──痩細波爪刃ガリ・ガリクソン


 ガリ夫の歪な両手の爪が集束し、波状に鋭利に伸びる。これは、刀身が炎のように揺らめいた波状の剣【フランベルジュ】を細剣レイピアのように細く圧縮凝縮されたニ爪剣。


 火の粉を払うかのように、ガリ夫は向かい討って来る亜人戦士、魔獣たちを二刀流超速剣技にて斬り伏せていく。

 背後から攻めるも、縦横無尽に振られる3対の背びれ剣に弾かれ斬り裂かれる。

 魔術や遠距離スキル攻撃は超速で躱しきり、ゾイゼの紅雷も濃密なオーラに遮られ体表面に届かない。


「クソー!!ここまでの力を持ち得ていたかこの外道は!!数々のふざけた戯言もその実力の表れか……」

「こがーのスペックだけは、把握できんかったけぇ、他のホムンクルスからの予測算段やったが、ぶちたがえとったか、はがえーのムカツクう……」

「全ク スキガ無イ。コノママデハ我ラガ葬リ去ラレルノモ 時間ノ問題」


 この陣営では最三強であるサウル、ゲバル、ゾイゼは、傷を負いながらも決死の覚悟で凄まじき速度と武技にてガリ夫に一矢でも報いようとするが、全方向忙しく動き回る複数眼が各攻撃を明確に捉え、対処されてしまい手傷が増えていく一方。


 戦場が違えば、無双とも言える超戦闘力を大いに披露していたことだろう。だが、ガリ夫はそれらを陵駕し、完全に子供扱いの様相。

 ドゥルナスが彼を最側近に置いたのも、他のホムンクルスらの群を抜き去り、圧倒的なユニーク仕様に仕上がったからである。

 

『私も、先ほど影蛟かげみずちで背後から忍び寄ろうとしたのでございますが、あの複数の眼で補足され近づけませんでしたね……』


 当初百を超えていた、この特攻陣営であったが、周囲を見渡せば8割以上の損失。いずれも深手の傷を負い、動ける者は極僅かな状況。


 この反乱の終止符を打つべく、痩細波爪刃ガリ・ガリクソンを掲げ、息も絶え絶え血塗れで地に伏したサウルの頭部を踏みつけ、仰々しく語るガリ夫。


「さて、もう骨の髄まで教えを悟り開いたことでしょう。さぁ懺悔しなさい、主を崇めなさい、身命を捧げ赦しを乞うのです。それが唯一の救いとな──」


 ドオン!!!


『『『「「「!!!!!」」」』』』


 響き渡る砲撃発砲音。それは強化M27 IAR アサルトレールガンの咆哮。

 その超音速の弾丸はガリ夫の頭部に向かって突き進む──が、瞬時に身体を仰け反らせ躱されるうんちょこちょこちょこぴー


「またも、雑種か……」


 再び、キメ台詞の締めのキメ部分を遮られ、怒りを露わにするガリ夫。


「あー臭ぇーな。どこのカルト宣教師だよ。てめーのクソ教えなんぞクソ喰らえだ。便所に籠って好きなだけほざいてろよ。──て、今ので弾切れかよ」

『『『団長殿!』』』

『『おとたまー!』』


「勇者か……初めて見よるけぇのう」

「アレガ 超越者カ……」

かたじけない勇者よ……勇ましく逸り、我らだけでと武功を横取りしたつもりであったが、不甲斐ない……」 


 血反吐と共に、悔し気にそう吐くサウルと、各反応意見をよそに「ま、いいか」と、弾数ゼロとなったM27をポイと放り捨て、悠々とガリ夫に歩き向かうトール。


「あー気にすんな。誰がこいつをボコろーと見れれば御の字だったからな。まぁとりあえず休んでてくれ。それと俺は勇者じゃねーよ ただの一般兵士だ」

 

 口調は軽いもの、そのオーラは超高密度で凝縮し放たれ、大気が震え出す。


「フッ、どこがただの兵士だ」



 ────△▼△▼△▼△▼△▼△▼────


 ここまで拝読ありがとうございます<m(__)m>


 ちと、オークについて説明を致します。

 オークは古英語語彙集で「地獄の悪魔」「巨人」オルクス。古英雄詩「ベーオウルフ」の「オーク骸」が原展となっており、邪悪なモンスター、悪霊の解釈です。


 そこから「指輪物語」では醜い邪悪な兵士として用いられ、鼻ぺちゃとの表現で語られております。それが後にテーブルトークRPG「D&D」では「豚頭部」イメージイラストで表現され、以後のファンタジー作品で豚頭オークとして広まったようです。

 本作では本来のタイプを古代種。豚頭を現存種として表現しております。

 映画「ロードオブザリング」ではかなり邪悪顔でしたが、本作ではいかつい強面ながらも精悍な顔立ちをイメージして頂けたら幸いです。

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