第116話 リベンジャーズ
「これはいい素体になりそうですね。ドゥルナス様には、良き手土産になるかと──」
自軍キメラらが無残に屠られているのにも関わらず、巨象型キメラ、背上
大狼たち戦闘騎の戦闘を、やんちゃ犬の戯れかのような感覚で愉しむガリ夫。その周囲にはガリ夫直下、数十体規模の親衛隊、精鋭キメラたちが囲っている。
ヴェルハディス所以による労力ゼロの転移捕縛であった為、その能力を見計らう機会が無かったが、想定を遥かに超えるスペックに十二分、感無量と言ったところであろう。
この間にも前線側では、敵航空兵力を潰したトア機【
6万を超えた軍勢は今や1万を下回り、大損失の戦況。しかし、ドゥルナス然り、ガリ夫に取ってもキメラはただの消耗品。減った分は再び補充すればいいだけの話。
そこに転移ガチャが大当たり、激レアカードを神ゲット。
これら超有能素材がドゥルナスの手に掛かれば、嘗てない厄災級キメラか、上位ホムンクルスが強幹部として新たに自陣営に加わることは確実。
丁度、幹部級を含めて指揮系統のホムンクルスらを大量に消失したばかりで、その穴埋めは有り余る程であろう。
などと、目下現状をどこ吹く風かと捕らぬ狸の皮算用。呑気に青写真を想描くガリ夫であったが──。
「あー、手土産? それはてめー自身のクソか?」
「!!」
「フフ、それは開ウンのお守りかしら? ご機嫌なお土産ね」
「そのウン気も垂れ流し過ぎて、御利益は屁ほども残らねーだろ」
いつの間にここまで辿り着いたのか、ガリ夫が乗る巨象型キメラ後方、親衛隊の先に黒鉄と弥宵に騎乗し、威風堂々と現れガッツリ煽りモードのトールとリディ。
その背後では焼け焦げ燻ぶる、原型を留めていない無数、屍の残骸。その奇怪オブジェ群の製作者たる大狼たちが並び、相貌に獰猛な光を妖しく灯している。
「な!? こいつは劣種人!まだ喰われず、しかも無傷でここまで!? ガリ夫様、これはいったい……」
「ふむ、すっかり忘れておりました。小虫が必死に犬どもにこびり付き紛れ込んだか。害虫は僅かな隙間があれば、際限なく湧き出しますから困ったものですね」
トールを吹けば飛ぶような
その様相に理解置いてきぼりのヤキソベンと、煽り戦に負けじと真向から応じるガリ夫。
この状況は、トアの働きによるものが大きく作用していた。トアへの単独任務作戦概要は、敵航空兵力の無力化と同時に哨戒索敵行動の阻止。その成果は制空権の確保にも繋がる。
それら仕事を、盛大ド派手に執り行う事が主な任務であった。その本意目的は、敵本営の意識を上空へと向けるミスディレクション。つまりは一石四鳥の陽動作戦。
狙いどころのタイミングは、敵が勝利を確信した瞬間。圧倒的な力の差を見せつけ標的は瀕死、虫の息の状態。後は止めを刺すだけと、大敵である油断の侵入を許した瞬間。
この間にしめしめと旅団陣営は、炎上黒煙の中に紛れ最大戦速にて敵陣後方側へと移動。段階的に重厚さが増し、壮大に演奏されるマエストロ演出と言ったところの、上空、前後方からの時間差奇襲 三次元立体挟撃。
それとは別に左右翼側では、素体のまま使役されていたと思われる敵游兵陣らの一部が、どう云う訳か、自陣同士であるキメラたちと激しい交戦を繰り広げていた。
キメラたちの
咲き乱れる「
大混戦、様々な思惑が複雑に絡み合い、混沌と渦巻く
「ガリ夫様、あやつらまで反乱を!!」
「フフ、ブラック企業の上に管理体制も
「完全洗脳された
「しかも、まだパート雇用だったようね。
「ハハ、そんなところだろうな。こんな百どころか万害しか生めねークソ汚物企業は、早々に潰れて畑の肥やしにでもした方が世の為だろう」
タイムリーでイジリ甲斐のあるネタが転がり込んだのは重畳。完全に息の合った煽りペアスケーティング。ショートプログラムにてキメるディススパイラル。
「ふん、舌に油でも塗りたくっているのか、雑種がピーピーとよく囀るものだ。あれらも無様に地べたを這いずり回っていたところ、拾ってやった恩義を仇で返されるとは甚だ心外。この雑種同様、殺処分決定事案ですね」
「てめーは、舌にクソでも塗りたくってんのか? 節操もねー、所かまわず垂れてっからこの在り様なんだろが。その残念な頭にひっ付けた文字通り、目一杯の目ん玉でよく見て考えろ。どんだけ単純野蛮 クソみそ脳なんだよ。無能バカが上に立つと組織が成り立たねー見本にも程度があんぞ」
「これは軍隊ごっこなのかしら? 6万越えの指揮系統のトップが、ゲームだとしてもお粗末で滑稽。親の七光りで成り上がった碌な教養もない稚拙脳、無能ボンボンがまともに組織を機能させるなど
「…………」
この対戦でガッツリ結果で示したところから、流れるような連携舌戦術。煽り文句の絨毯爆撃。ディスりまくられ、ガリ夫は身体を震わせついに無言、論破となったと思いきや、内心穏やかでは無いながらもフン張りどころを見せ、ひり出す。
「ふん! 小虫の羽音如きに私が揺らぐとでも? 図に乗るな下等種族ども!我は偉大なる神の使徒にして眷属。
最早、リディ捕縛の事も放り投げ、仰々しい舞台台詞を吐き散らすガリ夫とその背後でわたわたするヤキソベン。
「フフ、そんなお祭り
──
リディが嘲りながらそう告げると、巨象型キメラの周囲に顕現される、翡翠色光に輝く二重円形で連なる風槍の荘厳とした陣列。これは単体対象攻撃、
「!!」
「な!? こ、これは──」
ギュルルルル─シュィィィイイイイイイイイイン──
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ………。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
その円形風槍陣は、高速回転しながら次々と風槍を放ち、巨象型キメラの頑丈装甲外殻をも貫き、大量串刺しウニ状態。その僅か後に風槍は全て体内部で爆ぜ弾け、外殻ごと木っ端微塵に爆散。
瞬時に反射反応、ガリ夫は上空に退避できたもの、ヤキソベンと周囲の親衛隊数体がもろに巻き込まれて粉砕。外殻破片とドス黒い肉片と血の雨が降り注ぐ。
「うわ…えっっっぐぅ……」
「七光りの無能ボンボンでも、一応回避能力はそこそこあるようね」
スタっとヒーローモドキの着地姿勢のガリ夫。そこからジョジョ立ち、メラメラと身体から赤黒い禍々しいオーラを濃密に放つ。
「……地球産の劣等エルフかと思いきや、一応
「何を言っているのかしら? 上は空気が薄いようだから地に降りてもらったけど、中々お
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
トールとリディも黒鉄と弥宵から下乗し、ついに魔王軍総司令ガリ夫との同地、同目線での対峙となったところに近づく轟音──。
「ガリガリ・ガリ夫!! 不俱戴天の怨敵! この時は待っていたぞぉ!」
『『『「「「ガロォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」』』』
『『『『『『「「「!!!!!!」」」』』』』』』』
突如、この対峙に左右から割って入った憤怒に満ちた叫喚と、獣たちの咆哮。それは反乱した游兵軍の一部。他種族同士の百体を超える群部隊であった。
反乱を起こしていたのは、主に知性を持った種族。その一部が混戦を抜けて総本営であるここまで攻め込んできた。
その陣容は、亜人鬼族の
『これは、戦況が益々混沌模様のようでござるな……』
「ああ、何か、いかつい連中が集まったな……てか、あの甲冑かっけーな」
造りこまれた意匠のフル甲冑、剣や槍を携えたゴブリン種、一般的に知られるゴブリンとは異なり、鼻は大きめだが整った精悍な顔立ち。一般
「古文書の文献で見たことがあるわ。あれは、古代ヒュペルボリアで滅びたとされる【
「ゴブリンってちんちくりんで野蛮なイメージだったけど、お前らのいた世界じゃあんな感じなのか?」
「いえ、あれは純血種の貴族ゴブリンと言ったところね。下位種の一部が戦禍を逃れ多種の血が混じり、小型野生化したのが一般的に知られるゴブリンよ」
オーク種は、魔獣の骨や皮、体毛を組み合わせ造られたいかつい甲冑姿。白タトゥで飾された赤肌、スキンヘッドの凶面巨漢のゴリマッチョ。角無し鬼と言ったところだろう。
オーガ種は、オークより更に巨漢の鬼マッチョ。極太の両椀に脚は短め。頭部には湾曲した大きな二本角。全身毛深く銀色の剛毛に覆われている。
「あのオークたちの体色と模様…オーガの体毛色と角の形状…あれらも古代種ね。【エルダーオーク】と【エルダーオーガ】だわ。魔獣種らもヒュペルボリアには現存しない古代種たちのようね」
「そうか……【アンドリューサルクス】とかもいるし、遠くで暴れている中に【Tレックス】や【スピノサウルス】とか色々と恐竜も混じってるしで、この世界では絶滅種が多数生息してるみてーだな……」
游兵陣は、どうやらファンタジーモンスター勢と地球太古の浪漫生物等で構成されていたようだ。
尚、一部では昆虫種やよく分からん奇妙な種も混じっており、肉食恐竜種も含め、それらは敵勢に
そんな中、右翼側から攻め入って来たインペリアルゴブリンの一人が、憤怒極まる様相でガリ夫に剣の切先を向ける。
「おやおや、雑兵風情らが何の珍騒動でしょう? あなたは、確か下等矮小ゴブリンの王族‶サル〟殿下でしたかな? 誰に剣先を向けているのか理解しているのでしょうか?」
「‶サウル〟だ!!この外道め!! ただ戯れで命を
『『『『『「「「グワロォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」』』』』』
インペリアルゴブリン帝国の王子サウルを始め、余程、凄惨なものを目にし、想像も
「やれやれ、
その言葉の意味を紐解くと、魔王ドゥルナス主導の下、教育と言う名の見せしめ。拷問たる所業の数々実行、指導を行っていたのがガリ夫のようだ。中には死に至ったものも数知れず。
支配下に置いたのも圧倒的な数の戦力差を見せつけ、残虐非道、恐怖による強制、強引な手段で従わせていたことが想像できる。
「まだそんな気狂いな戯言をほざくか!! 未発達な子供らにまで手を掛け無残に……。悍ましい姿に変えられた幾多の同胞たち……もうこれ以上の問答は無意味!
貴様を
忠誠心は毛ほども皆無。苦渋極まる服従の日々。思い返すと怒りで我を忘れそうになる自身をねじ伏せ、多く散った無念の想いを払拭するべく、サウルは反旗を
「そして──そこの
「ん?」
『『『『『???』』』』』
「その僅かな数で、何たる凄まじき戦略戦術。この大軍勢をここまで攻め尽くすとは驚嘆の極み、誠に畏れ入るぞ! 横入りで心苦しいがこの悪逆外道の首は我々に譲ってもらおう!!」
「……あーまぁ、それは構わねーが、気を付けろよ。そいつ、ただで首を取らせるような殊勝なタマじゃねーからよ」
長きに渡る余程の恨みつらみが凝縮されているのだろう。サウルら反乱陣営、その激しい想いを汲み取り、素直にその申し出を受け入れるトール。
大狼たちも怒り心頭であったが、状況を理解し団長の判断に委ね総意した。
誰が討ち取ろうが結果が同様なら何ら問題は無い。要はこのイキり散らした腐れクソ外道の万々歳な死に様が見れれば御の字なのだ。
「フッ、それは重々身に染みて分かっておるよ。その気遣い感謝する!!」
一時は恐怖に奪われた王族たる自尊心と武人としての誇り。それらを見事に奪い返したサウルは、晴れやかな表情で勇ましくトールにそう応える。
「やれやれ、少々面倒ですが再教育が必要のようですね。いいでしょう、久々に厳格毅然と容赦無く教鞭を振るって挙げましょう」
「ふん!その思い上がり、歪み腐った思考を叩き伏せ一から教えてやろう!地獄で朽ち果てるまで悔い改めよ!!──さぁ同志たちよ、いざ尋常に参ろうぞ!!」
『『『「「「グァロロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」』』』
そして始まった、
日和っている者など、当然皆無。
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