第32話 作戦フェイズ1(移動のみ)



 時刻は、2030(20時30分)初動部隊の基地出発予定時刻30分前。


「各車両と航空機の燃料の補給は済んでいるのか!?チェックは怠るなよ!!

ほら、残り30分だ!ハリアップ、ハリアップ!キリキリ動け!!」


 バグラム航空基地内の各補給倉庫、簡易格納庫前には、多くの武装した軍用車両やヘリが所狭しと並び、その周囲を作戦に参加する各兵士や技師、スタッフが慌ただしく行き来している。


 兵員輸送用ヘリ「UH-1Yヴェノム」や「CH-47チヌーク」は、作戦フェイズ3のLZポイント確保後の行動となる為、しばしの待機。

 

 それとは別に、移動中や作戦中の不測の事態に備えて、航空支援用にガンシップ「AH-1Hヴァイパー」や無人攻撃機「MQ-9リーパー」などが配備されている。

 それがいつでも稼働できるよう、銃座ターレットの「M197 20㎜機関砲」「ヘルファイア対戦車ミサイル」「多連装ハイドラ70ロケット弾」などの各兵装の搭載、点検等に余念が無い様子だ。


「何が起きるか分からんから、弾薬類は目一杯積んで置けよ!!足りなくなるより多い分には困る事は無いなからな!!状況によっては、長期戦の可能性もゼロでは無いから、食料も忘れるなよ!」


 車両は、武装した「ハンヴィ」や、兵員 物資搬送用「M1078カーゴトラック」に「LAV-25」「M1126ストライカー」などのAPC(装甲兵員輸送車)が並び、兵士らが各物資を忙しく運び込んでいる。


「LAV-25」は、米海兵隊が使用する水陸両用の8輪式の歩兵戦闘車。

 主武装は「M242 25mm機関砲」副武装に「M240 7.62mm機関銃」を搭載。乗員数は3名+兵員6名。


「M1126ストライカーICV」は、陸軍所有8輪の装輪装甲車で、主武装は「M151プロテクター」に「Mk19 40mm自動擲弾発射器」を搭載。

 副武装は「12.7mmM2重機関銃」と高火力武装だ。

 車体上面には「スラットアーマー」別名「ケージ(鳥籠)装甲」とも呼ばれるフェンス状の装甲が施されている。乗員は、2名+兵員9名。


 他にも、ストライカー「MC」「MGS」「MEV」「CV」型等、各タイプが配備され並んでいる。

「MC型」は、火力支援用。上面後部に主兵装専用ハッチがあり「M121 120mm迫撃砲」が搭載されている。乗員は5名。


「MGS型」は、直接火力支援用の装輪式自走砲。主兵装は「M68A2 105mm戦車砲」副兵装は、他と同様に「M2重機関銃」乗員は3名。


「MEV型」は、野戦救急車両。フロント右側と後部左右に十字マークのプレートが取り付けられている。「CV型」は指揮車両で、主武装は「M2搭載型のプロテクターRWS」に「スラットアーマー」付きだ。


 初動の陸上部隊は「ハンヴィ」8台「カーゴトラック」8台。

「LAV-25」6両「ストライカーICV型」6両。

「MC型」3両「MGS型」3両「MEV型」2両。

「CV型」1両の、計37車両編成。


 人員自体は、約200名の中隊規模だが、武装と各車両から見れば、この時点で大隊以上の規模。

 ヘリで合流する他海兵隊や急襲部隊を含めれば、かなりの大所帯。

 場合によっては、航空支援と増員の準備も整えており、群規模以上の大部隊となってくるだろう。


 尚「M1A2 エイブラムス戦車」の投入も思案されたが、作戦の内容と長距離移動速度、即応機動性を考慮し今作戦では見送られた。


 不測の事態と言っているが、これは保々保々、他敵拠点からの確実であろう大応援が予測されており、更なる大規模戦闘に備えた万全を期した陣営配備となっている。


 地上での大部隊を攻撃する場合は、地上機動部隊と攻撃ヘリなどによる「エアランド戦術」を用いるのが近代戦闘でのセオリーであったが、状況にもよることであり、兵器のハイテク化によって、それも変わりつつある。


 当初は航空機による空爆と、強襲部隊をまとめてヘリで移動させる「ヘリボーン戦術」の案も出ていたが、過去にそれで痛手を負った旧ソのように、山岳地帯のどこぞからスティンガーでもぶち込まれたら、目も当てられない壊滅の可能性もあるので即却下だ。


 確かに「ヘリボーン戦術」は、短時間で多くの兵士が移動可能だが、その飛行音により察知されやすく、対空兵器にも脆弱。着陸時に攻撃された際の回避機動が乏しくなるというのが、ヘリボーンの最大の弱点である。

 どんなに屈強な精鋭部隊でも、飛行中のヘリ内では無力そのもの。故に高火力を揃えた地上機動部隊で敵地に進入。そこで、安全なLZポイントを確保。と言う作戦がとられることになった。

 

 それと、まだ明るいうちから別働で、哨戒航空機と精鋭の偵察、哨戒チームが出動しており、地上部隊の道中の脅威要素を排除すべく、抜かりなくその対応が行われていた。


 どこぞの大国のように、大戦時の戦術そのまま、碌に偵察部隊も出さずに数頼りで、痛手を負うようなお間抜けな事態は、絶対に避けなければならない。


 だが、その為に昼間行われた、人外同士の超絶格闘試合を見られず、各担当部隊兵士らは号泣、悲痛の思いを言葉にしていた事は、言うまでも無かろう。



 すでに、各準備を済ませ武装した、トオル改めトールたち「フォースリーコン隊」と「第75レンジャー連隊」の夜襲専門コマンド部隊は、装甲ガチガチの「ストライカーICV型」に乗り込んでいるところだ。

「フォースリーコン隊」は4人で1組の3チーム編成。レンジャーコマンド部隊も、同編成だ。


 リーコン小隊は、基本編成なら指揮班とした小隊長、小隊付き軍曹、無線通信手、特殊装備下士官、水陸両用偵察衛生兵の5人。

 そして、チームリーダー、補助リーダー、通信手、補助通信手、スラックマン(最も若手)、ポイントマン(隊先導担当)からなる3チーム編成となっている。


 だが今回は、前哨狙撃支援から偵察、急襲と役回りが多様。他コマンド部隊との連携など諸々の事情等で、各担当セクション兼用、4人の3チーム編成となっている。


 仮に2部隊に、何らかの支障が生じた場合に備えて「マリーンレイダース」1個中隊20名が後に控え、彼らも各APCに乗り込んでいる。

 

「アメリカ特殊作戦軍 USSOCOM」設立後、海兵隊での特殊作戦は「フォースリーコン」が主に担当していたが「9.11事件」以降、増大するテロへの対応に、2006年、USSOCOM海兵隊部門として創設されたのが、この「米海兵隊特殊作戦コマンドU.S.MARSOC 」通称「マリーンレイダース」である。


 レイダースは5人で1個小隊、4チームで一個中隊の編成。レイダースには、各小隊に‶最強衛生兵〟と称される「SARC(特殊水陸両用偵察衛生兵)」が含まれている。


 特殊部隊は小隊、中隊の人数編成の基準が特殊で、作戦によっても変わってくるので非常にややこしい。

 因みに小隊基準は、下に分隊を設ける場合は30から50名程度が多いが、おおむね10から50名程度の兵員を有すると、覚えておけばいいだろう。


 その特殊な兵士らは、いずれも首元に巻いたカーキ色、黒のストールやフェイスマスクなどで、目元下まで顔が覆われいる。

 通信用ヘッドセット&ACHヘルメットには、双眼型NVG(暗視装置)が取付られており、カブトムシの角のように、今は上に上げられているが、その集団の絵面は異様そのものである。


 そして、各車両に他海兵隊らも続々と乗り込み、各準備と兵員の乗車が済んだ車両から順次、基地北部の出入り口付近に集結している。


 気温は8℃と肌寒く吐く息は白い。空は分厚い雲に覆われており、今にも降り出しそうな天候だが、夜襲には好都合。

 

 

 時刻は2100。世界各地に脅威を齎した大規模テロ組織を殲滅すべく、ついに満を持して【アリの巣コロリ作戦】が開始された。


 そして、精鋭たちを乗せた各戦闘、カーゴトラック等の車両の隊列が、最初の目標地点に向け、基地を出発するのであった。


 移動速度は、時速30から50km程度。第一目標地点まで3、4時間少々の長旅である。


 

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