第19話 吟じます!
『ありがとう皆!それじゃあな!』
戦友たちからの、ビシリ敬礼と共に贈られる手向けの言葉に、敬礼と感謝の言葉を返し、テッドの霊は、黄金色の光り輝く扉の向こうへと緩やかに歩みだす。
扉の向こうは、穏やかな黄昏色の空に幾つもの光の柱が降り注ぎ、それを縫うように青白磁の階段が、遥か天空へと伸びている。
テッドオルセンの人生の終幕を、荘厳と演出するが如く黄金色の扉はゆるりと閉じてゆく。
そして、扉の向こうに見えるテッドの背中に、トオルに何やらデジャヴが走る。
『気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!おい!おい!おい!おい!おい!おいぃ!よっしゃあああ!!』
「あんたもそれやるんかい!!死人の間で流行ってんのかそれ!?」
どうやら、死者の霊が成仏によってヘブンズゲートをくぐる際に、アニマルな掛け声を行うのは通過儀礼のデフォルトのようである?
『吟じます!……ハイぃぃっ!ポンポン スポポン!ポンポン スポポン!ポンポン スポポン!バカテンポっ!!』
「分かんねーよ! 吟じてねーし! 何んか混じってるよ それ!」
『なんだか逝けそうな気がするうぅぅぅぅぅぅ!……ありゅっあると思います!!』
「早く逝けや! 最後、噛んでんじゃねーよ!ちゃんとやれ!」
更に畳み掛けるように、珍妙な動きにリズムと、独特の節回しで何やら吟じれてないテッド。それに負けじとツッコミまくるトオル。
どうやらテッドは、当時流行っていた日本のお笑い番組を動画配信でよく見ていたようだが、色々と散らかっている。
そうしてテッドの霊は、荘厳とした神秘的な光景を台無しに、珍妙にフェードアウトをしていく。黄金光の門扉はズシリと閉じ、緩やかにその光は小さくなり消えていった。
「あーったく、成仏する奴のあの手の妙なノリはよく分からん」
そして、後ろを振り返り仲間たちを見れば、何やら一同跪き、顔の前で手を組み合わせ、この奇跡の現象を齎したトオルを崇めていた。
もちろん今の珍妙なノリも、それに対してのツッコミも全スルー。
「あーなんだこれ?」
この異様な状況に、頬をポリポリ掻きながら「どないしたらええねん?」と苦笑を零し困り果てるトオルであった。
「クレイン二等兵、少々よろしいかな?」
困惑状態のトオルにそう尋ねてきたのは、いぶし銀のナイスダンディ、基地総司令アーノルド・ボーマン大佐である。
「あ、イエッサー! ボーマン大佐!」
突然、この基地最上級司令官に声を掛けられ、慌ててビシリ敬礼するこの基地最下階級兵士のトオル。
「ああ、構わないで結構、今は敬礼は不要だ。面倒くさい!」
(はっきり面倒くさい言ったよこの人!…面倒くさいのはこっちのセリフなんだが……)
「はぁ、そうおっしゃるなら…。それで何か御用でしょうか?ボーマン大佐」
「うむ。君はなんだ…えーっとあれだ! 色々とエグいな! 長年に渡り職業軍人として合衆国に仕えているが、君のようなエグい逸材は初めてだよ!」
(言い方!エグい逸材って何だよ!?)
「はぁ、まぁこちらとしては、特に変わった事をしているつもりは無いんですけどね。先ほどの現象の件についても、こちらも戸惑っているんですよ」
トオルに取って、死者の霊を見るのは日常茶飯事であり、ヘブンズゲートを見るのも初めてではないが、周囲の者全てが見えてしまう現象は初めての事であった。
「フッ。まぁ戸惑っているのはお互い様と言うことだが、君が齎した奇跡は少なくともオルセン本人も含め、この場にいる多くの者が大いに救われたのではないのかな?」
「いや、俺は何も……けど、そう思って頂けるなら、こちら側としても非常にありがたい思いですね」
「……うむ。その若さで君は実に謙虚な人格者であるな! それは日本人が持つ「オモテナシ」の心と言うものかな? まぁ、君のような貴重で優秀な人材が我が軍にいるのは、神からのオモテナシであろうな!ウワハハハハハハ!」
「……まぁ、それは俺を育ててくれた父母、祖父母からの賜物だと思っています。海兵隊のモットーは『常に忠誠を』ですが、祖父母から言われてきたのは『常に謙虚で』でしたから…」
「なるほど、君は実にいい育て方をされてきたのだな……一人犠牲は出たもの、とりあえず、アメリカ合衆国を代表して言わせてもらう! よくぞ我らが尊く貴重な兵士たちアメリカ国民を救ってくれた 感謝する! そして、大義であったぞクレイン二等兵!」
そうして、トオルはボーマン大佐から、大変お褒めと労いの言葉を授かり、手荒いサバ折り的なハグを受け賜る。
「痛い痛い!!大佐! 背骨折れますって!マジで!!力強よっ!!」
「ウアハハハハハハ!!」
「いや、ウアハハハじゃねーよっ!!」
因みに通常時のトオルの筋力は、一般的な兵士と然程変わらない為、大柄の筋骨隆々なボーマン大佐の締め技?には非常に堪えるのであった。
「おっと言い忘れた。クレイン二等兵! 現時点を持って一階級昇進し、クレイン一等兵とする!」
「はあ?」
突然告げられた昇進辞令に、意表を突かれたトオルは一時フリーズする。
古き戦では、初陣で武勲を上げ昇進した新兵がいたのであろうが、戦死した場合は別として、近代戦においては異例なことであるのは間違いないであろう。
「ええっ!? あ、ありがとうございます! 謹んでお受けいたします!」
「やったじゃねーかクレイン!! お前、色々とすげーな!!」
「初任務の新兵が初陣でいきなり昇進かよ! ありえねぇ!!」
「こうして生きて帰れたのは、お前のおかげだ! ありがとうよ! そして昇進おめでとう!!」」
「良かったわねクレイン! 今晩あたしのベットで昇進祝いよ!!」
「よくやった! 感動した!!」
「だあーっ痛い痛い! そこ怪我してるとこ!!うぉい!! 誰だ股間触った奴!?
抓るな叩くな!! 痛ぇって!! あークソっ!なんだこれ!?」」
仲間たちからも配属されたばかりの新兵の偉業と奇跡に、次々に贈られる感謝と祝福の言葉に加え、更に手荒い抱擁を受けていた。
この奇跡の功績は、基地内の海兵隊やイラク軍兵士らの間でも、尾ひれが付いて広がり、一躍有名となる切っ掛けの出来事となった。
そうして、雷光の如き速さで幾つもの戦場を駆け抜け、雷撃が如く敵陣敵兵を殲滅してゆく姿に、畏怖を込めて付いた二つ名は──
【雷神】
それも、日本語発音の「ライジン」
英語の「ライジング」の韻も踏み、次々と戦果を上げていくと言った意味合いもその中に含まれているのであろう。
それに加え、戦死者が出た際には、度々
尚、トオルの偉業とも言える功績に海軍、海兵隊で「戦闘において比類ない英雄的行為をした者」に贈られる「海軍十字勲章」を授与されることになった。
部隊全滅寸前の危機の中、単独でその中核を殲滅し、犠牲は出たものの部隊の生還及び勝利に大きく貢献したのだ。十分に受勲に値する当然の実績であろう。
初派兵、初任務で初陣である初戦闘の最年少新兵が「十字勲章」を受勲するのは、もちろん前代未聞の功績である。
同時に、敵武装勢力への情報提供者がどこぞに紛れ込んでいたのであろう、敵の間でも不倶戴天の怨敵と認識され「
新兵がいきなり、敵勢力の間で顔写真が出回るほど、重要敵認定されるのも当然、前代未聞である。
そして、トオルは幾多と大小の戦線を乗り越え、ちょいちょい暗殺者を返り討ちしつつ、無事に任期を終えるのであった。
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