24. 後悔しなさい ~王宮side~

24. 後悔しなさい ~王宮side~





 その貴族の魔法士たちは、近くの川で無我夢中で走って来た時についた泥汚れと、魔物から受けたキズを洗い流していた。


「なんで私がこんな目に……」


「命があるだけマシだろエレイナ。」


 そう告げるのはアストン。確かに命があるだけマシ。それは間違いない。しかし、それでも全身のあちこちに擦り傷や切り傷ができており、血が滲んでいる箇所もある。服は破れているし、泥もついているためかなりみっともない姿になっている。


「もう!早くお風呂に入りたいわ!」


「そんなこと言ってもオレたちはお金がないだろ?」


「また野宿するの!?もう嫌!あの女は全然見つからないし!どこに行ったのよアイリーン=アドネス!」


 イラついた様子で悪態をつくエレイナ。それを横目で見ながら、アストンは小さく呟く。まぁでも、確かに自分たちの状況は最悪だよな……。


 自分たちが現在置かれているのは、非常に厳しい状況だった。貴族であるにも関わらず、身一つで追放され、生活に必要なお金などない。そして魔物も倒せない。助かる方法はアイリーンを探し出すことだけ。それすらもこの先どうなるかわからない状態だ。


「……とりあえず今は大人しくしていようぜ。また魔物に襲われたら大変だしな。」


「……それもそうね。はぁお腹すいたわね。」


 空を見上げれば太陽はすでに沈みかけており、夕焼けに染まっていた。今晩もまた野営になるだろう。その時に備えて、少しでも体力を回復させておかなければならない。


 そう思って2人はその場に座り込み、体力の回復に努め始めた。するとそこに1台の馬車が止まる。


「あら?もしかしてエレイナ先輩とアストン先輩では?どうしたんですかこんなところで?」


 そう言って馬車の中から顔を出したのは、金髪碧眼の少女だった。


「えっ……ネージュ?」


 その少女は以前、王立学院にいた時の後輩であり、今は聖教会に所属しているネージュ=ライラックだった。どうして彼女がここにいるのか、2人にはわからなかった。


「はい。覚えていてくれたんですね。良かったです。」


 微笑む彼女を見て、2人の頭の中には疑問符しか浮かんでいなかった。何故なら彼女は聖教会の人間だからだ。しかもその中でもエリート中のエリート、聖騎士のはずなのだ。それがなぜこの場にいるのか全く理解できなかったのだ。


「ちょっと待ってくださいね。すぐに降りますから。」


 そう言うと、ネージュは馬車から降りて2人の前に近づく。そして手を差し出した。アストンは少し躊躇したが、仕方なく彼女の手を掴んで立ち上がる。エレイナの方を見ると、まだポカンとしていた。そんな彼女に苦笑しながら、ネージュは話しかける。


「久しぶりですねエレイナ先輩。」


「あ、うん……久しぶり……じゃなくて!なんであなたがここに!?」


「ふふ、今日はたまたまこちらの教会へ用事があったんですよ。そしたら先輩方を見つけまして……お元気ですか?」


「う、うん……なんとか生きてるわ……」


 突然の出来事に頭が追いついていないエレイナ。だが無理もない話である。とりあえず2人はネージュに今起きていることを説明した。


「なるほど……つまり、あのアイリーン様を探してここまで来たということですか?」


「ああ。何か知ってるか?」


 アストンの問いかけに対して、ネージュは難しい顔をして答える。


「いえ……私も何も知らないのです。ごめんなさい。」


「……そうか。仕方ねぇさ。気にしないでくれ。」


「はい……。それでこれからどうするんですか?私は一応この先にある街ガレリアに滞在するつもりなのですが……。良かったら一緒に来ますか?先輩たちには昔お世話になりましたし。簡単な仕事くらいは紹介してあげられますよ?」


 それは願ってもいない提案だった。正直、お金もなければ住む場所もない。食事もままならないこの状況では、野垂れ死にするのは目に見えていた。


 そこでアストンはエレイナの顔を見る。彼女は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、小さくため息を吐いて、首を縦に振った。もうこの2人には王立学院時代の先輩、貴族としてのプライドなど微塵もない。ただ命だけは助かりたいという思いそれだけ。ここにクリスティーナ王女がいたならこう言っただろう。


『情けないわね?自分でやったことのツケよ。後悔しなさい!』と


 こうして2人は、聖教会の所属であるネージュと共に、ガレリアの街を目指すことになった。全てを捨てて今を生きるために。果たして、彼女たちはこの窮地を乗り切れるのだろうか……。それともアイリーンのようにやり直すべきなのか。それはこれからの彼女たちの行いによるのだった。

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