7. お薬作ります

7. お薬作ります




 私は今、朝早くから家の裏手にある畑に来ている。それはもちろんあの野菜娘のお手伝いだ。あとは朝食のサラダにする野菜を収穫するためにでもある。ここなら最近朝の日課になっている。


「ねぇアイリーン!バケツに水汲んできて!」


「ふわぁぁ。はいはい。」


 私はバケツを両手に持ち、近くの水路へ行くふりをして水魔法で水をためる。この程度の量ならすぐたまるからね。ちなみにこれはズルとかじゃない。私の特技なんだから魔法は。効率良く仕事をしているだけだ。そこへミリーナとロイドがやってくる。


「おはよー……」


「おはようございます。エイミーさん。アイリーンさん。」


「おはよ!ほらほらミリーナ元気だそう!萎れかけのキャベツみたいな目してないでさ!2人ともこっちだよ!」


 萎れかけのキャベツみたいな目ってどんな目よ?と思うかもしれないけど私もわからない。でもそんな感じの目なんだと思う。そして二人はそれぞれ畑から野菜を収穫するエイミーのお手伝いをしている。


「そうだ!アイリーンはそろそろ畑仕事慣れてきた?」


「まあ。だいぶ。それにしてもこんなに沢山の種類を育てているなんて驚きね?しかも凄く美味しいし。」


「誉めても高級ラディッシュにはなれないぞ?アイリーン。まだまだエイミーのお手伝い歴は浅い。頑張りたまえ!はっはっは!あっあっちの畑も見てこないと!」


 誰も高級ラディッシュになんかなりたいと思ってないのだけどね。でも畑仕事は意外に楽しい。身体を動かした後の疲労感もまたいいのよね。王宮の宮廷魔法士の時は、こんなに身体を動かすことも今まではなかったし。


「あーっ!また枯れてるよぉ……」


 そんな事を考えているとあの野菜娘の悲痛な叫びが私に聞こえてくる。枯れてる?ああ、あそこの野菜は確かレッドオニオンの苗が植えられているところか。


「どうしたのエイミー?」


「あっ!アイリーン……それがね。昨日の雨のせい。植えた場所に水が溜まってたみたいで。それで根っこまで腐っちゃったのかなって……。可哀想だよ……。」


 なるほど。そういう事だったのか。私が確認すると確かに土の表面だけじゃなく、葉っぱにも所々茶色くなっている部分がある。これは病気かしら?確か前に本で見たことあるわね。私はその畑の土に手を当てる。うーん。これはなんとか出来そうだな。あっ確かミリーナは治癒魔法士だったよね?


「ねぇミリーナ。ちょっとお願いしたいんだけど。この土、ミリーナの治癒魔法で何とかならないかしら?おそらくこれは水が原因じゃなくて、この土よ。栄養がほとんど消えてるわ。」


「えっ?うん。やってみるね。」


 ミリーナは目を閉じて何かに集中し始める。しばらくすると彼女の手が淡く光り始めた。あれが治癒魔法か。これでとりあえず大丈夫だろう。


「終わったよ。アイリーンちゃん。多分もう大丈夫だと思うよ。」


「ありがとうミリーナ。エイミー、これでレッドオニオンは大丈夫だと思うわよ。」


 そう言うと彼女はパァッっと明るい笑顔になる。ほんと表情豊かよね。それから家に戻り私たちは朝食の準備を始めた。もちろん今日も野菜たっぷりメニューである。今朝の献立はサラダにスクランブルエッグ、それとパンとスープといったところだ。食事をとっているとミリーナが私に聞いてくる。


「あのさアイリーンちゃん。なんで土が原因だってわかったの?」


「葉っぱが茶色に変化してたから。あれは水ではなく土が原因だと見て分かるサインなの。それに私はマナの感知もできるし、あの時一応土のマナを確認したからね。」


「へぇー。そうなんだぁ。やっぱりすごいねアイリーンちゃんは!」


「別にすごくはないよ。それより食べないと冷めちゃうわよ?」


 そう言って私たちは食事を再開させていく。そういえばあれが治癒魔法か。間近で見るのは初めてだったけど、手に魔力をためるのか……。そしてそれを対象者に流すことで治すことができる。私が使うような精霊魔法とは違って、結構繊細な作業だし難しいと思う。でもミリーナはそれを簡単にやって見せた。こんなに若いのにすごいわね。


「ごちそうさま。美味しかったわ。ねぇミリーナ。後で時間があったら教えてほしいことがあるんだけどいい?」


「えっ?あたしに?アイリーンちゃんが?」


「そうよ。あなたによ。ダメかしら?」


「全然!むしろ大歓迎だよ!あたしもアイリーンちゃんに聞きたいことがあったし!それじゃあさ、今日はあたしに付き合ってくれない?いいよね?」


 私は了承する。お店はどうせ誰も来ないし、いつもルーシーが昼寝してるくらいだし任せておいても大丈夫だろ。というか他のみんなはいつもお店にいないし。


 そして準備を済ませ、ミリーナの元に向かう。向かった先は山を下って南にあるリストと呼ばれる街の市場だった。私は正直王都以外の場所に行ったことはほとんどない。少し楽しみにしている私がいる。すると気を使ってミリーナが私に伝えてくれる。


「あっそうだ。ここは王都の反対側だから誰とも会わないと思うから安心してアイリーンちゃん。」


「ありがとう。」


 本当に気の利く子だなと思った。それから二人で歩きながら話をしていく。


「それであたしに教えて欲しいことって?」


「いやミリーナはいつも何してるのかなって思って?」


「あたし?あたしは『なんでも屋』の仕事がないときは村の人とお喋りしてるよ。楽しいよね!」


 お喋り?ならお店を手伝って欲しいのだが。でもやることもないか。そんな話をしながら歩いていると市場にたどり着く。ここは凄く賑やかなところだ。色々な露店が並び、人も多く活気がある。そんなことを思いながらミリーナについていくと、彼女は一つの店で足を止める。


「ここだよ。うわあ…相変わらずボロボロだなぁ?仕方ないけど、さっ入ろうアイリーンちゃん!」


「え?ここお店なの!?」


 私は驚いた。そこには今にも崩れ落ちそうな壁があるだけだからだ。こんなところで商売なんて成り立つんだろうか?ミリーナは私の背中を押してそのお店に入るのだった。

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