2. 雇ってもらいます

2. 雇ってもらいます




 私はアイリーン=アドネス。22歳。幼い頃から魔法が好きだった。いつか立派な魔法使いになって世界中を旅したいと思っていた。


 そのために必死で勉強して3年前にやっとの思いで王立学院に入学した。入学式の日に私は運命的な出会いをした。それがフローレンス王国第一王女のクリスティーナ様との出会いだった。


 彼女はその時、私より3歳年下の16歳で、とても美しく可憐だった。彼女の周りには常に人が集まり、笑顔を絶やすことはなかった。まさにみんなの憧れの存在だった。そんな彼女と友人になれたことはとても誇らしく光栄なことであった。


 それからは私は彼女のために一生懸命努力した。いつしか目標が世界中の旅から、彼女の役に立ちたいに変わっていた。


 私は平民の出なのに、魔力量も高く成績優秀、王立学院も首席で卒業したのですぐに宮廷魔法士になることができた。嬉しかった。これでもっと彼女の力になれると。そう思っていたのに。結局私はただの平民に戻ってしまった。


「はぁ、これからどうしようかしら……」


 私はこの国から追放されたのだ。それから私は当てもなくさまよい歩いた。この国では魔法使いは優遇される。それが無くなった今、私には何も残らない。お金もなければ職もない。あるのはこの身一つだけ。


 もちろんお金も持ってないので宿にも泊まれないし、頼れる人もいない。そもそも今朝いきなりクビになったので実家に帰ることもできない。途方に暮れただただ歩き続ける。



 ◇◇◇



 どのくらい歩いてきただろうか。いつの間にかどこかの森の中まで来ていた。もう日が落ち始めている。


 ここなら人目もないだろうと思い、地面に座り込んで泣いた。悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。泣いていると急に目の前に影ができる。誰かきたのだろうか?


「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」


 それどんな顔?とツッコミそうになるのを抑え、声の主の方を見るとそこにはオレンジ色の髪のおさげの少女が立っていた。背中には大量の薪を背負っている。ああ、農民の子か。


 というか、ちょっと待て!初対面なのに失礼じゃない!?︎この子? すると少女は私の横に座ると、スッと手を差し伸べてくる。なんだろう?


 よく分からなかったが、とりあえず握手をしてみる。すると、ギューっと握られる。痛い!めちゃくちゃ痛いんですけど!! あまりの力の強さに思わず手を離す。


「痛い、なにするの!?」


「そのくらいで痛がるなんてお姉さん弱虫だね?こんなんじゃすぐ倒れちゃうよ?だから私が鍛えてあげる!」


「はい?何言ってるの?あなた誰よ?それに何勝手に話を進めてるのよ?」


「あ、自己紹介まだだったよね?私はエイミーっていうの!よろしく!それで、私がお姉さんを雇ってあげようと思って!!」


 え、何この子?頭大丈夫かな? 突然現れて私を雇う?魔物とか倒すつもりなの?意味わからないんだけど……。


「その格好って宮廷魔法士の制服でしょ?それにその荷物。お姉さん弱いから宮廷魔法士クビになったんじゃないの?基本、宮廷魔法士は王都の外には出れないはずだしね。」


「!?違う…弱いからじゃない…」


 確かに今の私は宮廷魔法士をクビになったけど、私は弱くなんかない。


「ふぅん、まあいいや。じゃあさ、もしよかったらうちの村にこない?そこで私の家で住み込みで働かせてあげるよ。もちろんタダではないけどね。どうする?」


 正直迷った。でもこのままだと野垂れ死にするのは目に見えている。でも頼る人もいない。私は藁にもすがる思いで彼女にお願いすることにした。こうして私はエイミーと名乗る少女に連れられ、彼女の住む村へと向かっていった。


 しばらく歩くと小さな農村が見えてきた。ここは王都フローレンスから北に行ったところにある山奥の農村だ。名前は「ピースフル」らしい。聞いたことなかったけど。


 エイミーは村の村長さんを紹介してくれた。そして私を連れてきた経緯を説明すると村長は快く受け入れてくれた。しかも私に畑仕事や家畜の世話などを教えてくれると言ってくれた。ありがたいことだ。


 しかし、さっき会ったばかりの私にそこまでしてくれるなんて、ここの村の人たちはきっと良い人ばかりなのだろう。あんな思いをするくらいなら、この村でひっそりと暮らしていくのもいいかもしれないな。


「いやあ良かったね。村長に許可をもらえて。」


「ええ、ありがとう。あのところで、雇うって言ってたけどエイミーの雇うってなんなのかしら?私は何をすればいいの?」


「え?決まってるじゃん。『なんでも屋』だよ?お姉さんは魔法使えるんでしょ?」


 はい?『なんでも屋』って魔法関係ありますか?疑問に思ったので詳しく聞いてみると、何でも屋とはその名の通り様々な依頼をこなす便利屋のようだ。例えば庭掃除とか、買い出し、荷物運びなどの雑用から、護衛の仕事までこなすらしい。


「そういえば、お姉さんの名前聞いてなかったよね?あといくつなの?」


「アイリーン=アドネス。年齢は22。」


「おぉ!私より6つも上だぁ!それならルーシーと同い年か。」


 ルーシー?誰?エイミーの仲間は何人かいるのかしら? すると急に彼女は目を輝かせながら私の顔を覗き込んでくる。近い!それになんだか嫌な予感がする……。


「アイリーンは改めてよく見ても、やっぱりラディッシュだね!」


 ラディッシュ!?︎なんだこの子は!?


「ラディッシュは美味しいよね!サラダにしてもよし!煮ても焼いても生でも食べれる万能野菜!見た目は悪いけど味は最高!まさにラディッシュ!」


「ちょっと!それどういう意味よ!?︎」


「だってそうでしょ?今朝いきなり宮廷魔法士クビになって路頭に迷っていたんだから。ラディッシュみたいにひょろっとしていて頼りなさそうだもんね。」


 ぐぬぬ……言い返せない。悔しいけど全くその通りだ。でもこの子何者なんだろう? こんな失礼なこと言う子初めて見たわよ……?


 私はその後、エイミーの家に行くことにする。中に入ると、明るい美人のお姉さんが迎えてくれた。


「いらっしゃいませ!あれエイミー?」


「ただいま。久しぶりの収穫だよ!ラディッシュみたいな元宮廷魔法士さん!」


 私の事をそう紹介すると奥から他にも3人やってくる。見た目大柄な男性と小柄な女の子、それと気弱そうな男の子。皆優しそうな人たちだった。そして自己紹介が始まる。


「おお新入りか?オレはレイダー。一応、この『なんでも屋』じゃ、力仕事はオレが担当だ。よろしくな。」


「はじめましてー!あたしはミリーナ。治癒魔法士だよ。よろしくね!」


「ぼ、ボクはロイドと言います。魔法錬金ができます。よろしくお願いします……」


「そして私はルーシーよ。この『なんでも屋』の看板娘。よろしく。」


「そして私がエイミー。この『なんでも屋』の代表で野菜を作ってるの!凄いでしょ!」


 ………そうよね。なんとなくそんな気はしていたわよエイミー。


 なるほど、みんな仲が良いのね。なんか幸せそうでいいな。色んなしがらみとか気にせず仲良くできるって素敵だと思う。だから私はここで生きていこう。もう身分の差とか、偏見とかそんなのはもう沢山だ!私は改めて自己紹介をする。


「私はアイリーン=アドネス。元宮廷魔法士。今朝、訳あってフローレンス王宮の宮廷魔法士をクビになりました。それをエイミーが拾ってくれて。あの頑張りますのでよろしくお願いします。」


 こうして私は、この村で暮らすことになった。これからどんな生活になるのかな?楽しみね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る