第三十二話 ソミシア
あれが王都か。なんて大きなんだ……。
王都へと向かう道の途中、一つ大きな山を越え、その山頂から双眼鏡のような道具で先の景色を見渡す。
王都の大きさにひとしきり感服した後、王都から下の方へ目線をすーっと下げていくと、ある都市が顔を覗かせる。都市全体を四分割する壁に中央の高い塔。あれが噂に聞いた都市、“ソミシア”か。
王都前で栄える都市“ソミシア”。ここへと至る道で噂は
かつてこの国の栄光の象徴であった王都は、高い壁に囲まれており、唯一の出入り口である正門は十数年前より封鎖されたままだ。さらに王都周りは広範囲の厳重な警備により、今では近寄る事すら出来ない状態だ。
しかし、その正門も
テオスの日記には王都が封鎖されているといった記述はなかったため、封鎖が始まったのはおそらくテオスが追い出された後の話だ。テオスの追放と王都の封鎖に相互関係があるかどうかは定かではないが、
話を戻そう。そういった経緯から、現在王都に一般人が入ることは許されていない。そのため、封鎖の事実を知らずに王都を求め、各地から集まった商人やその家族、地方の貴族などが群を成して定住し、やがて栄えた都市がこの“ソミシア”だ。
若い都市ではあるが、元々は天下の王都で商売や生活をしようとしていた集団が固まってできたのだ、発展しないわけがない。王都の現況が一切分からない今、ヴァレアス帝国で最も活気がある都市といっても過言ではないだろう。今では地方で名を挙げた商人が、“ソミシア”を求めてやってくるという話すらあるほどだ。
「いよいよ着いたな。王都近くと言えば、もはやここしかないだろう」
「そうだね。ここも今では王都に負けず劣らずの大きさになりつつある。すぐには見つからないかもしれないけど、辛抱強く探そう。テオスとリリアはきっとこの都市のどこかにいるはず」
ローゼの情報を百パーセント信頼したわけではないが、彼女にはそれが本当だと思わせるような何かがあった。
◇◇◇
「これは……」
近くで見ると、より一層この都市の賑わいが伝わってくる。豪華な食べ物に宿はもちろん、魔法書から魔道具まで見たことのない物がずらりと並んでいる。この“ソミシア”に入ってすぐの地区は露店や商業施設がたくさんあるようだ。あらゆる店、あらゆる施設、またそれに準ずる人で
「ひ、ひとまずここは抜けようか!」
「そ、そうだな」
旅で培った体術でそのエリアをなんとか抜け、案内所にて説明を受ける。
ここソミシアは大きく分けて四つの区に分けられるようだ。北からぐるっと時計回りに富裕区、居住区、商業区、管理区だ。入ってすぐのところは商業区だったのか。どおりで人や店が多いわけだ。
ただ、四つの区に分けられているといっても居住区に店を出す者もいれば、逆に商業区に出した店にそのまま住む者もいる。あくまで大まかな区切りであって、
そして、そのルールがあるというのが富裕区。ここだけは管理区に申請の
ちなみに、商業区<管理区・居住区<富裕区のように地面が高くなっている。お金持ちがやたらと自分たちを高く見せたがるのはどこの世界も同じなのだろうか。
「ではいつも通り宿探しからだな」
「そうしよっか」
居住区をひたすら歩き、今回の宿を探す。高層ビルなどは建っていないものの、まるで前世でいう東京に来た気分だ。都市の雰囲気というか活気というか、毎日がお祭り騒ぎ! とでもいうべき賑わいだ。王都の人間にソミシアはどう映っているのだろうか。
「ここなんてよさそうだな」
「かもしれないね。一旦ここに決めてしまおう」
極端に良くもなく、悪くもなく。背伸びをしないで無難な宿に決める。そんな気を一ミリを持っていないと言えば嘘になるが、決して遊びに来たわけではないしな。
ここでテオスとリリアを見つけるんだ。
都市の雰囲気に押されてか、気分も自然とポジティブになる。良いところだな、ここは。
ーーー
フレイとセネカがソミシアに滞在して約一か月。ソミシア、ある地下施設にて。
「またやられたそうだ」
「今週に入って何人目だ」
「わからない」
ある集団が一同に会し、会議を行っている。
「……他が全滅ならば二十人だ」
(うちも人数がかなり減ってしまった。これ以上犠牲を増やしても良いものなのか……?)
肩に傷を負い、首には注射の跡が残る茶髪の女は自身の策を悔やみ、思索する。
「おいおい、やめるつもりか? ここまできて? あのバーラともあろう者がすっかり見る影もなくなっちまったんじゃねえか?」
口ではそう言いつつも男は全く浮かばない顔をしている。死んだ仲間を不憫に思っているのだ。
「
「だまれ」
「ひっ!」
女はその声に反応して、強く握りしめた手と
「すまない、頭に血が上っていたようだ」
「……」
(空気が
「報告です!」
バンッ! と大きな音を立てて会議をしている部屋の扉が開かれる。
「……なんだ」
「商業区にて、数年前抗争したフレイツェルト・ユング、並びにセネカと思わしき人物を確認しました。男の方は様相が変わっており確信は持てませんが、女の方ははまず間違いないかと」
「「!」」
(あの者たちか)
女は下方を見つめ少し考える素振り見せた後、ちらっと足を組んだ偉そうな男と視線を交わす。
「俺様は構わないぜ。どう転ぼうが、喧嘩になりゃ全員潰すだけだ」
ふぅ、と一息ついた女は何かを決心したように立ち上がり、コートを羽織る。
「フレイツェルト・ユング及びセネカに接触を図る。付いてこい」
女は近くの部下を目で指名し、部屋を後にする。
(……ガキが。随分と久しぶりじゃねえか、おい)
何を思うか、男は足を組んだまま天井を眺めニヤリと笑みを浮かべる。男が望むは復讐か、それとも――。
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