第37話 ドーナツを揚げよう
朝は焼き立てスコーンをたくさん食べてしまったので、昼食は簡単にラーメンにしようと思う。
カップ麺も良いけれど、今日は袋ラーメンを選んだ。いちばん好きなのは豚骨味だが、袋ラーメンは味噌味と塩味しか選べなかったので、シンプルな塩味にする。
「野菜と肉は食わないとな。動けなくなったら困る」
魔素を体内で循環して、魔力不足に困らなくなった今、もう空腹で倒れそうになることはないけれど、トラウマになっているため、栄養たっぷりの食事は毎食きちんと摂るようにしている。
「ボア肉入りの野菜炒めを作って、塩ラーメンに載せて食おう」
懐かしの家系ラーメンを思い出しながら、黙々と野菜炒めを作る。キャベツとニンジン、食用のキノコにメインのボア肉の薄切りを投入。
風味を考えて、胡麻油で炒めていく。
キャベツは男料理には欠かせない野菜だと真剣に思う。生でもイケて、煮ても焼いても美味い。
キャンプ料理でも欠かせない。
味付けは適当だ。野菜炒めだけなら、醤油で食べることも多いが、今回はラーメンにインするので、塩胡椒だけで軽く味付けをした。
「良し、出来上がり」
夜のうちに仕込んでおいた半熟の味玉を切って添えると完成だ。見た目は『ザ・
すっかり慣れた手付きで写真を撮ると、『勇者メッセ』に送っておいた。
玉子や牛乳、バターやチーズ、ヨーグルトなどの支援物質への感謝の言葉もついでに。
すぐさまナツから返信があり、お礼はドーナツでいいよ、と告げられた。
「ドーナツ……。作ったことないけど、たしかレシピはスクショしていたはず」
後で確認することにして、野菜炒めのっけラーメンを食べることにした。
100円ショップにはラーメン用のどんぶり鉢もあるらしいが、面倒臭がりな俺は小鍋をそのまま使っている。
洗い物も減ってエコだし、何となくそのまま食った方が旨い気がして。客に出すならともかく、今はこの広大な大森林に独りぼっち生活中なのだ。
気にせず、ズボラを貫いている。
(まぁ、洗い物は
菜箸のまま、ラーメンをずるずる啜る。
野菜炒めと塩味のスープが良く合う。ボア肉も旨い。胡麻油が良いアクセントになっており、野菜と肉の旨味が染み込んだスープも美味しい。
途中からレンゲを放り出し、小鍋を傾けながら、夢中で中身を浚えたほどだった。
スープの最後の一滴まで綺麗に飲み干して、満ち足りた溜め息を吐く。
「ふは…っ……! ラーメン旨かったな。次は焼きそばにするか。野菜と肉を追加すればヘルシーだから、問題はないな!」
デザートの
ドライフルーツも美味しいけれど、瑞々しい生の果物はやっぱり満足感が違う。
ちなみに本日の野営地はリンゴの大木の根元だ。邪魔な周囲の木々は撤去済み。
美味しくポイントとして頂きました。
リンゴは大森林に入ってすぐ、小ぶりな青リンゴを見つけて採取していたが、今回は大きくて赤い実だ。もちろん大喜びで採取した。
かなり立派な大木だったので、木に登って熟した実を八割ほど
「日本のリンゴと変わらないくらい、立派だな。アップルフィリングでも作ろうかな」
砂糖とバターとレモン汁があればレンジで簡単に作れるので、日本でもたまに作っていた。
アップルフィリングをヨーグルトやバニラアイス、ホットケーキに添えて食べるのが好きなので。
「パイ生地があればアップルパイも焼けるんだろうけど」
あいにくパイ生地の作り方など知るわけもなく。冷凍パイシートは偉大だったな、としみじみ思う。
「異世界に転生して、日本の調理道具や材料もない中で、ご馳走作れるキャラ凄すぎるだろ。俺なんて
日本から持ち込んだ食料で食い繋いだとしても、二週間がいいところだろう。
魔法を使い、魔獣を倒したとしても、まずは解体で肉を用意しなくてはならない。
【鑑定】スキルで食用の植物などは見分けが付くので、食材は何とかなるが、持ち込んだ調味料が尽きたらアウトだ。
「塩がないとな、さすがに生き抜ける気がしない。森の中に海はないだろうし、岩塩が簡単に見つかるとも思えない」
砂糖はなくても果物の甘味や蜂蜜でどうにかなりそうだが、味無しの肉を美味しく食べられる気はしない。あらためて、
「さて、昼食も済んだし、今日も稼いでくるか」
自分に課したノルマは一日最低でも十三万ポイント。三万ポイントは従弟たちの買い物で消えるため、実質は十万ポイントしか貯まらないが、そこはそれ。現地通貨の確保も大事なのだ。
もちろん、アイツらのモチベを保つために「お買い物」もサボれない。
意識を集中し、【気配察知】スキルを発動する。数百メートル離れた場所で複数の気配を感じた。
魔素の大きさから、おそらくはオーク。
「行くか、オーク狩り」
大森林の奥へ進むごとに、オークの数が増えている。【アイテムボックス】内にも、着々とオーク肉が溜まっていた。
鑑定でも食肉、美味とあったので、そろそろ覚悟を決めて食べるべきなのだろう。
「よし。今夜はオークステーキだ!」
二足歩行の魔物を食うことに、あれほど躊躇していたが、実際のところポイント化作業で自動解体されたオーク肉は、他の動物のそれと見た目は変わらない枝肉で。
綺麗なサシの入った赤身の肉を1センチほどの厚さに切って焼いたオークステーキは、控えめに言っても絶品だった。
「マジか……。こんなに旨かったのかよ、オーク。もっと早く食っておけば良かった……」
上質の黒豚のブランド肉。実家に届いたお歳暮で、前世日本で食ったことがあるが、肉質はオークと良く似ている。
味は比べようがない。たっぷりの魔素を含んだオーク肉は旨味の塊だ。筋肉質に見えた赤身だが、柔らかくてほんのり甘い。脂身とのバランスも最適で、いくらでも食べられそうだ。
「このオーク肉のラードで揚げたコロッケとか、めちゃくちゃ旨そう……」
想像しただけで、涎が溢れそうになる。
近所の肉屋で注文すると、その場でラードで揚げてくれる特製コロッケは最高のオヤツだったが、それを越えた味になるのは間違いないだろう。
「揚げ物をする量はまだないから、オークをもっと狩らなきゃな」
オーク肉の旨さを知った今、躊躇はない。
調理器具を片付けようとして、ナツに頼まれていたドーナツのことを思い出した。
慌てて材料をテーブルに並べて、ホットケーキミックスでドーナツ生地を作ることになった。
ボウルに牛乳と蜂蜜を入れて混ぜ、ホットケーキミックスを追加してザックリと合わせる。
バターを加えて混ぜた生地をラップにのせて、麺棒で薄く伸ばしていく。
大きめのまな板も麺棒も型もラップも、全部100円ショップで買えるのには驚いたものだった。
「えーと、厚さは五ミリくらいだったな。こんなに薄くしてドーナツになるのか……?」
不安になりつつも、レシピ通りに作業する。
ドーナツ用の型で生地を抜いていく。大きな丸い円形に抜き、そこから小さめの円で真ん中を型抜きしていった。
「ドーナツって型抜きするのか。ずっと細長い生地を紐みたいに繋いで揚げているもんだと思ってた……」
深めの鍋に油を入れて高温になったところで、型抜きした生地を揚げていく。
ジュワッと気泡に包まれながら、パチパチと揚がっていく様を眺めるのは意外と楽しい。
せっかくなので、砂糖をまぶしただけのシンプルなドーナツと溶かしたチョコでデコレートした物を作ることにした。
きつね色になるまで揚げるため、合間に生地を作り足し、ついでにあんドーナツも作っていく。
「こしあんが100円ショップに売っているとはなー。あんドーナツ、たまに無性に食いたくなるんだよな」
丸めた生地にあんこを詰めて揚げて、砂糖をまぶすだけなので、それほど手間でもない。
何より、一度に大量に作れるのが良い。
揚げたてのドーナツ各種は、三人の従弟たちに大絶賛され、再び食材が貢がれることになった。
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