第36話 スコーンを焼こう


 夕食も堪能し、テントの中でのんびり過ごす夜──『勇者の餌』としての仕事時間だ。  

 ハンバーグランチの写真は好評で、特にナツが羨ましそうにしていたので、『ハンバーグの素』を送っておいた。作り方は箱の裏に書いてあるので、厨房で作ってもらえるだろう。

 ついでにプリンの素やら牛乳で作れるヨーグルト風のデザートの素もおまけで送る。


「さて、まずはハルの買い物リストっと。んー? またカップ麺やらカップ焼きそばが増えたな。夜食用か?」


 相変わらず、ポテチ類は多めで。菓子パンの注文もあった。鯖の味噌煮缶も五個。

 買い物リストの最後に、戦闘訓練中にデンカと親しくなって、カップ麺仲間になったと説明されていた。


「デンカ……? もしかして殿下、か? 大丈夫か、アイツ。敬語なんて喋れないだろうし、不敬罪とか平気か?」


 カップ麺仲間になったのなら、大丈夫だろうが、ヘタな真似をしないか不安だ。

 後でアキに確認しておこう。


「鯖の味噌煮缶は仲良くなった兵士へのプレゼント用か。調理要らずだから、独身には嬉しいかもな」


 海に面していない都市だと、珍しい魚料理は喜ばれることだろう。異世界人に味噌味が受け入れられるのかは、少し不安だが。


「ナツは甘味再びだな。蜂蜜にジャム、ピーナツクリーム、チョコレート。飴にクッキー、ホットケーキミックスか」


 ホットケーキミックスは便利だからな。パンケーキはもちろん、クッキーやケーキなどの焼き菓子もアレンジできる、最高の粉。

 砂糖やベーキングパウダーや油も最初からミックスされた小麦粉なので、卵と牛乳があれば、割りと色々な菓子が作れてしまう。


「たしか、ドーナツやメロンパン、ガトーショコラやパウンドケーキのレシピをスクショしたやつがあったな」


 スクショした画像もあとで送ってやろう。

 ナツも色々と菓子を作るつもりらしく、ケーキの型や泡立て器なども注文されていたので、リスト通りにカートに放り込んでいく。


「100円ショップの菓子やパンだけじゃ、物足りなくなるよな。俺も久々に甘い焼き菓子が食いたくなってきた」


 スコーンやマフィンのレシピもあったので、明日の朝食代わりに作ってみようか。


「アキの買い物リストは今回も文房具が多いな。コピー用紙が五セットか。ボールペンとノートも各十ずつ」


 おそらくは国王夫妻に売り付ける品なのだろう。その他は二人と同じく食品、調味料に菓子がリストに続く。

 珍しいところでは、スリッパと靴下、下着にタオル類の注文くらいか。こちらは自分用だな。

 繊細なお坊ちゃんのアキが、果たして100円ショップの下着や靴下を我慢出来るのかは謎だが、なるべく質の良さそうなシンプルな物を送っておいた。


 コットに寝転がって、もちもちクッションを枕にステータスボードをぼんやり眺める。

 ポイントは既に100万以上貯まっていて順調だ。レベルも60を越えたし、スキルレベルも地道に上がっている。

 特に魔力量はかなり増えており、レベル1の時の十倍以上だ。つまりは10万以上。おかげで、今では滅多なことで魔力切れ状態にはならない。


 魔法書を読み込み、地道に習得した魔法も多彩だ。水火風土光魔法はどれも中級魔法まで使えるようになった。

 光魔法は【生活魔法】の浄化クリーンを頻繁に使っていたおかげで飛躍的にレベルが上がっていたようで、【治癒魔法】に【解毒魔法】【解呪魔法】まで覚えてしまった。


「治癒魔法はありがたい。創造神が譲ってくれたポーションはあるけど、使い切ったら終わりだもんな。怪我も病気も治る中級までは覚えたから、できれば上級の治癒魔法も覚えたい」


 上級の治癒魔法ともなれば、失った身体の一部まで復活させる効果があるらしい。

 流石に死者を生き返らせることは無理のようだが、生きてさえいれば、治すことはできる。


「アイテムボックスの収納量もレベルMAXになったしな。生き物は無理だけど、植物や玉子は収納できるのが謎すぎる」


 空間魔法はかなり難しい。空間移動テレポートに憧れがあるが、下手に空間を弄ると、それこそ宇宙の狭間に放り出される可能性があるとかで、魔法書では教えてもらえなかった。

 なので、今は闇魔法を勉強中だ。


「とは言っても、闇魔法は使えそうな物が少ないんだよな。相手の視界を闇で塞ぐのは便利そうだけど……夜間、闇にまぎれて行動できるとか、夜目がきくとか、意外と地味? ああ、眠りの魔法も闇属性なのか。これは良いよな。敵を眠らせるのも有りだけど、自分に使えば熟睡できる」


 ただし、闇属性の魔法は上級になると、一気に攻撃力が増すらしい。物騒な名前の魔法が多いので、よく考えて習得しようと思う。

 ランタンの灯りを消して、シュラフに潜り込む。闇魔法はまだ覚えていないけれど、寝落ちが早いのだけは自慢だ。

 夢も見ない眠りにすとんと落ちた。



 朝、本日も快晴。

 今のところ、大森林で雨が降ったことはないが、本当に梅雨があるのだろうか。

 何にせよ、晴れている方がありがたいので、今日も元気に朝食を作ろう。


「ホットケーキミックスを使ったスコーンを焼くぞ!」


 気合いを入れて、材料を用意する。

 魔法の粉ホットケーキミックスとバターと牛乳、あとドライフルーツ、以上!

 

「ドライフルーツは100円ショップでも買えるけど、どうせなら自分で作ろう」


 収納から取り出したのは、ブルーベリーと無花果いちじくだ。【生活魔法】の乾燥ドライを使えば、瑞々しい果実があっという間にドライフルーツに変化する。

 味見をしてみるが、どちらも美味しい。

 乾燥させると、甘みが増えるのが不思議だ。

 ドライフルーツは栄養もたっぷりで、オヤツにちょうど良い。暇な時間にたくさん作っておこう。


「さて、レシピっと」


 ボウルにバターとホットケーキミックスを入れて混ぜ合わせ、牛乳とドライフルーツを放り込む。

 無花果いちじくはみじん切りにしたものを使い、よく混ぜて生地を作る。

 あとは食べやすい大きさに切って焼くだけだ。あいにくオーブンはないので、フライパンになるが。


「クッキングシートを敷いて焼けば焦げ付かないか……?」


 とりあえずのお試しで、フライパンで焼くことにした。トースターがあればなー。さすがにキャンプに持ち込む物ではないので諦めるしかないが。


「ん? でも、良い匂いがしてきたぞ。フライパンでも焼けるっぽいな」


 ちょっと楽しくなってきた。

 無花果スコーンが焼けるのを待つ間、ブルーベリースコーンの生地をせっせと捏ねていく。板チョコもあったので、チョコ味のスコーンも焼こう。

 フライパンに蓋をして、弱火で片面五分ずつ、両面を焼くと、スコーンは完成した。


「見た目は良くないけど、匂いはちゃんとスコーンっぽい。さて、味は?」


 あつあつのスコーンに齧り付く。

 焼き立てはしっとりとして柔らかかった。

 生焼けが心配だったが、ちゃんと中まで火が通っている。ドライ無花果入りのスコーンはとても美味しかった。


「うん、いいな。バターのおかげで、結構腹に溜まる。他のも焼いてみよう」


 スコーン作りは、混ぜ過ぎと焼き過ぎに気を付けろとレシピには注意書きがあった。

 ざっくり適当に作った方が意外と美味しい、とまである。なるほど、俺向きだ。

 ドライブルーベリー入りのスコーンは甘酸っぱくて、いくらでも食べられそうだった。

 チョコ入りのスコーンは文句なしに美味い。チョコレートは小さく刻むより、ざっくりと大きめな塊の方が食べ応えがありそうだ。

 

「朝食やオヤツにちょうど良いな。焼き立てを【アイテムボックス】に確保しておこう」


 調子に乗って、バターを使い切ってしまったので、後でアイツらに送ってもらおう。

 物々交換用に千円の低反発クッションをそれぞれ送っておく。

 ついでに焼き立てスコーンも三人分。ブルーベリーとチョコと無花果味、どれが人気かな。


 朝食の後片付けをして、荷物を収納。

 今日もさくさく進んで行こう。


 昼休憩時にスマホをチェックして、大量にバターと牛乳、玉子がアイテムボックス送りにされていることに驚くことになるのだが。


 今は、この広大な大森林を駆け抜けるのを楽しむことにした。

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