第32話 鹿肉ハンバーグ


 ぼたん鍋の写真を送ったら、ハルに羨ましがられた。あんまり煩いので100円ショップに鍋の素のキューブや鍋のスープがパウチで売っていることを教えておいた。


 その夜、当然のごとく、出汁の素と味噌、鍋の素キューブと鍋用スープのパウチを数種類注文してきたので、ちょっと笑ってしまった。

 そんなに鍋が食いたかったのか。

 おまけで土鍋とレンゲ、深皿三人分も追加で奢ってやった。

 野営時に温かい鍋を食べると元気が出るだろうし、これは餌としてのサービスだ、うん。


「お、レトルトカレー各種の注文か。パック飯も10個。そういや、この世界に米はないのか?」


 後で調べておくことにして、注文された買い物を続けていく。相変わらず、ハルは食欲に忠実だ。

 カップ麺に袋麺、スナック菓子にチョコレート、クッキー。懐かしの駄菓子も注文された。これは三個で百円らしい。

 

 ナツは今回、食品はなしで、雑貨に衣料品、美容系の注文が中心だ。

 300円ショップの品の注文も多い。

 日中に送られていたメッセにあった、千円のルームウェアは2セット頼まれていたので、やはり王女に売りつける分だろう。フリーサイズだったので、せめて色違いで買っておいた。


「ブラシにコーム、手鏡、カーラーにクリップ? 縦ロールでも作るのか? オイルトリートメントまであるんだな」


 前回の基礎化粧品諸々とあわせて、エステでもするのだろうか。リップクリームにベビーオイル、保湿用のクリームもある。ハンドクリームが多めなのは、自分と王女用以外にも、仲良くなった女官さんにプレゼントするらしい。

 女子は友達を作るのが上手いなと、感心する。水仕事が多い女性は手荒れを気にしているのだろう。

 そういうところ、ナツは目敏いのだ。

 あとは百円の髪ゴムやシュシュ、アクセサリー類をいくつかカートに突っ込んで予算を使い切った。

 ここらへんも転売するのか。

 

「色々考えてるんだろうなぁ。お疲れのナツにサプリと乳酸菌飲料を送っておこう。奢りだから、気兼ねなく飲むんだぞ、っと」


 メッセージと共に召喚購入した品をアイテムボックスに送っておく。

 さて、本日のアキのリクエストは何だろう? 

 今度は国王夫妻に何を売り付けるのか、ちょっと楽しみだったりする。


「ん、さすがに紅茶シリーズは打ち止めか? 次は香辛料と油、コーヒーも試すのか。冒険するねー。ココアの方が最初は飲みやすいんじゃないか?」


 とは言え、彼も考えあってのことだろう。リクエスト通りにカートに入れていく。

 相変わらず砂糖は売りつけるようで、そこまで高値なのだなと勉強になった。


「他は自分用の食品、調味料、ソース類か。アキもレトルトカレーに釣られたか。どうせハルの奴がカレーが食いたいと連呼して、自分も食べたくなったんだろうな」


 その光景が容易に思い浮かんで、つい笑ってしまう。そう言えば、理屈くさいアキだったが、意外とハルの勢いに流されたり、釣られて行動することがあったな。

 そんな二人をナツは冷ややかに観察していたことも、ついでに思い出す。

(女子は早々に大人になるよな……)


 食品の他は、ノートと鉛筆、消しゴムが各十個ずつ。筆記用具か! なるほどコレは羊皮紙しかない世界には画期的な品かもしれない。賢明な国王夫妻なら、言い値で手に入れたくなるだろう。


「でも、アキ。どうせなら、知識を売り付けてやれば良いのに」


 品物は使えば無くなる。いずれ朽ちてしまう。

 だけど、知識を伝えれば、自分たちで作り上げることが可能なのだ。

 文化侵略的なことを、あの毛玉ケサランパサランは心配していなかった。むしろ、文化を広めたがっている様子さえあったように思う。

 なら、自分たちも快適に生きれるように、いきなり産業革命になるような発明以外は避けて、知恵を授けても良いだろう。

 

「アキにはメッセージもちゃんと送っておこう。アイツはたしか、電子書籍に図鑑系のデータを落としていたはず」


 キャンプで暇な時間、読書を進めると言っていたので、色々と買い込んでいたのを知っている。

 簡単な知識でもいい。それを起点にこっちの職人や責任者が完成させれば。


「この世界には魔道具職人とやらがいるらしいし、アイデアだけでも売り込んで、便利な道具を作ってもらえばいい」


 専門家に丸投げする方が、巧くいく。

 自分たちで抱え込んで自滅するくらいなら、潔く押し付けるのも手だ。


「アイツらの本職はなにせ、勇者だからな」


 日課の通販もどき作業を終わらせると、疲れがドッと押し寄せてくる。

 逆らうことなく、愛用のシュラフに潜り込んで、朝までぐっすり眠った。




 朝食は鹿肉ハンバーグを挟んだ、サンドイッチにした。

 送ってもらったレタスを挟み、ハンバーグにはオーロラソースを塗りつける。

 肉の味が濃く、ソースに負けていない、ガッツリとしたサンドイッチだ。

 食べ応えがあり、とても美味しい。


「うん、ハンバーグは大量に作り置きしておこう」


 試しに作ってみたのだが、肉汁たっぷりでパンにも米にも合うオカズになった。

 和風ソースと米で定食風メニューにしても良いし、カレーライスにえいやと載っけても良い。豪華で美味しいのは確実だ。

 鹿肉は煮込みハンバーグにしても合いそうだと思う。


「これ、ミートボールの作り置きにしても良いな? パスタや鍋にも使えるし」


 少し筋肉質な鹿肉だが、ミンチ肉にすれば食べやすくなる。

 鹿肉だと赤身だけになるので、猪肉と混ぜて合い挽き肉にしても美味しいはず。


「色々作ってみるか」


 大学に通っていた四年の間に、そこそこ炊事の腕は上がったと思う。

 美味しい賄い目当てでバイト先に選んだ居酒屋で幾つか簡単なレシピも教えてもらったので、そこそこアレンジもきく。

 なにせ、器用貧乏。スキルの影響もあってか、調理を重ねるごとに料理の腕が上がっていくのが分かった。


 トマトソースで煮込んだハンバーグ。絶対美味しいに決まっているそれを楽しみに、今日も一日頑張ろうと思った。

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