第30話 鹿肉ステーキ


 森林鹿フォレストディア森林猪フォレストボアを中心に狩りを続け、夕方前に切り上げた。拠点に戻り、肉以外の素材をポイント化しておく。肉はもちろん美味しく頂く予定。


「さて、漬けておいた肉を焼いていくか」


 簡易かまどにフライパンで鹿ディア肉を焼いていく。

 ヒレ部分なので、脂肪もなく赤身の綺麗な肉だ。

 ジビエ肉なため、多少の臭みや固さが気になったが、ステーキソースに漬け込んでおいたので、食べやすくなっているはず。


 油を敷いたフライパンにヒレ肉を落とし、中火で焼いていく。片面を1分半、裏返して更に1分ほど焼くと、アルミホイルで包んで5分ほど休ませる。

 鑑定で確認したので、ミディアムレアでも大丈夫そうだった。


(ジビエ肉は寄生虫が怖いイメージがあるんだよな)


 幸い、魔獣に寄生する根性のある虫はいないらしく、ローストビーフ風に調理しても安全のようでホッとする。


 ステーキ肉を休ませている間、付け合わせの野菜をソテーした。玉ねぎとアスパラはバターと塩胡椒で味付けし、ニンジンはグラッセにする。

 彩りがさみしかったので、バターで炒めたコーンを添えると華やかになった。

 サラダはパクチーとラディッシュを和風ドレッシングで和えたものを用意し、スープはインスタントにする。


「ご飯は加熱ヒートで温めて、っと。ステーキ定食の完成!」


 忘れずに写真を撮って『勇者メッセ』に投下しておく。

 ホーンラビットやアルミラージ、コッコ鳥は食べていたが、ワイルドディアの肉はボリューミーで食べ応えがありそうだった。


「これぞ肉! って感じだな」


 期待が高まる。これはもうビールを開けるしかない。【生活魔法】で冷やした缶ビールを片手にさっそく鹿肉ステーキを食べてみた。


「思ったより柔らかい。焼き加減もちょうど良かったな」


 ヒレ肉は脂肪のない部位なので、食べやすい。

 焼き過ぎると固くなって微妙な食感になるけれど、ミディアムレアで焼いたため、絶妙な柔らかさだ。赤身の味をしっかり堪能できるので、満足感も大きい。


「やっぱりヒレ肉は分厚いステーキで食べると最高に旨い」


 自動解体された鹿ディア肉は、モモ部分、後ろ足スネ部分、背ロース、バラ、前脚に首の部位などに仕分けされた塊で【アイテムボックス】に収納されている。

 今回は背ロースのヒレ部分を使ったが、バラ肉ーー骨付きのスペアリブの煮付けや照り焼きも美味そうだ。


「臭みも全然ないし、肉質も柔らかい。日本で食ったジビエ肉より、こっちの魔獣ジビエ肉の方が断然旨いな……」


 これはボア肉も期待できそうだ。

 じっくりと味わいながら、ヒレステーキを完食する。付け合わせやサラダも忘れずに。

 どれも美味しくて、満足のまま箸を置いた。

 ちびちびとビールを舐めながら、ため息を吐く。


「ワインが飲みたい……」


 冷えたビールより赤ワインの方が鹿肉ステーキには合うはずだ。あいにく持ち込んだアルコール類にワインは入っていない。


「あー…。召喚魔法ネット通販に酒屋が追加されねぇかなぁ……」


 つい、愚痴がこぼれてしまった。

 だって、この最高に美味い鹿肉には赤ワインが必要なのだ。スペアリブもワインで煮付ければ、味に深みが増す。

 猪肉には何だろう。日本酒か、焼酎か。


「ん、でも今日はかなり魔獣を狩ったから、レベルが上がっていないか……?」


 ステータスを開いて、確認する。

 【召喚魔法】のレベルは3に上がっていた。

 慌てて詳細欄をタップすると、『現在取扱い中のショップの全商品が購入可能』とあった。


「全商品……ってことは、千円のキャンプ用品も⁉︎」


 三百円商品までしか召喚購入出来なかったので、次のレベルアップで五百円までの買い物が出来るようになるのだと予想をしていたのだが、嬉しい誤算だった。

 ワインへの切ない片思いは脳裏から吹っ飛び、わくわくしながらショップの高額商品を確認していく。


「サンシェードが千ポイント、ハンモックが五百ポイントか。他の千円商品は抱き枕ぬいぐるみに敷きパッド、マットにもちもちクッションね……」


 ぬいぐるみはともかく、敷きパッドやマットはあいつらも欲しがるだろう。

 一応、新商品の案内をしておこう。

 五百円のクッションは座り心地も良さそうだ。布団カバーやシーツ類が五百円なのには驚いた。

 他にも千円商品には、フードポットや保冷リュックがあった。ステンレスのミニボトルが七百円で、これも便利そう。


「メスティンが五百ポイント? 買うだろ、これ。封筒型のシュラフも千ポイントだけど、使えるのか、これ……?」


 とりあえず、従弟たちのために、サンシェードやメスティン、シュラフにコンパクトチェアを召喚購入していく。今日はたくさん稼いだので、兄貴らしく奢ってやるつもりだ。


「……釣り竿が千円? ルアーロッドか。アイツらは要らないだろうけど、これは俺が欲しいな」


 川や湖で釣りを楽しむスローライフ。

 疲れたらハンモックに横になり、のんびりと和やかな時間を満喫したい。


「よし、買おう」


 ポチリと購入。

 その他にもアロマ用品やハンディファンなどが購入可能になっていた。


「やばい。楽しい。延々と買い物をしそうだ……」


 いくらポイントに余裕があるとは言え、散財はいけない。とりあえず、直近で必要な物だけを購入することにした。


「食品類は基本、百円のままか。バスタオルやスポーツタオルも買えるようになったのはありがたいな」


 ナツあたりが、また王女に売りつけそうだが。

 アキもクッションや寝具には金を惜しまない気がする。

 本日の買い物希望リストと合わせて、大量に召喚購入すると、アイテムボックスに送っておいた。


「次はどこの店の品が喚べるようになるかな」


 なるべくスーパーなどの取扱い商品が多彩なショップだとありがたいな、とぼんやり考えながら、さっそく召喚したハンモックの寝心地を確かめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る