第16話 お金を稼げそうです


 補給食を手に黙々と歩き続けたおかげで、その日の夕方には大森林の手前に到着することが出来た。

 暗くなってから森に入るのはどうかと思ったので、本日も草原キャンプだ。森の端、草原沿いの木々の陰にテントを設置する。


 昼食はカップ麺とカップ焼きそばを食べた。炭水化物がやたらと旨い。

 たんぱく質はドライソーセージで代用し、デザートには桃の缶詰を堪能した。

 食が細いわけではなかったが、これだけの量をぺろりと平らげられたのは驚きだ。何せ二時間前にも焼き鳥丼を食べたばかりだったので。


「エルフが大食いとは思わなかったな。ベジタリアンより、断然良いけど」


 テントの結界が届く範囲の草を黙々と刈り取っていく。もはやスキルに【草刈り】が追加されているのでは? と思うほどに手慣れた動きだ。初日は三十分かかった作業も今では十五分で済ませている。

 採取した草や薬草類はまとめてポイント化した。やはりマナ草が増えているためか、高ポイントだ。 草原で狩った魔獣たちの素材と合わせて、本日の稼ぎも約六万ポイントある。


「昨日のポイントと合わせて十万越えだな。レベルは6か」


 ステータスボードを確認すると、スキルレベルも上がっていた。【アイテムボックス】もレベル2で、鑑定すると40平方メートルまで収納容量が増えていた。一気に二倍だ。


「40平米は、うちのマンションと同じ広さだな。1LDKサイズか」


 部屋数は少ないが、寝室は12畳でゆったりしていた。ダイニングルームもそれなりの広さがあったので、従弟たちの溜まり場になっていたのだが。


「この調子でレベルが上がれば、次は80平米か? 1LDKから一気に3LDKに昇格だな」


 軽口を叩きながら、本日の夕食の食材を何にしようかと、召喚通販リストを開いてみて、その通知に気付いた。

 点滅する「NEW!」の欄をタップする。


『300円ショップが利用可能になりました。100円ショップの300円商品まで召喚可能になりました』


 スキルアップによるお知らせ機能付きらしい。

 購入できる物品が増えるのはありがたいので、さっそく確認することにした。

 まずは300円ショップの店舗名をタップして、取り扱い商品の一覧を呼び出してみる。

 

「うん、基本的には雑貨や日用品が多いな。キッチン商品はさすがに100均より品が良さそうだ」


 デザインもシンプルだが、お洒落な物が多い。ステンレスのマグボトルやタンブラーはあいにく300円以上の商品なため今はまだ購入できないが、レベルアップしたら是非とも手に入れたい品だ。

 気になる商品はお気に入り登録しながら、ざっと確認していく。


「女性用の下着にソックスやレギンス、Tシャツにルームウェアもあるな。100円の品より、こっちの方が丈夫そうだ」


 ルームウェアは1000ポイント商品なので、今は買えないが、ソックスとレギンスなら購入できる。

 五日分の着替えが入った荷物があるので、まだ必要ないかもしれないけれど、これらもお気に入り登録しておいた。


「それにしても300円ショップはアクセサリーまで扱っているのか。指輪にネックレス、バングル、イヤリングにピアス……。すごいな、全然300円には見えない。これを市場で売れないかな?」


 今のところ【召喚魔法ネット通販】のおかげで物資には困っていないけれど、こちらの世界の通貨は手に入れておきたい。


「あ、そうか。こちらから物が送れるということは、アイツらからも送れるってことだよな?」


 思い立ったら、すぐに連絡だ。

 ここは三人の中で一番冷静で頭の良いアキを交渉相手として、メールしてみる。


「ええと、100円ショップの300円までの商品と300円ショップの商品が召喚購入出来るようになったので、欲しい物があれば、この世界の通貨で買い物代行を承るぞ、っと」


 ステータスボードからメールして、1分も経たない間で返事がきた。しかも、銀貨が三枚添付されて。


『頼む。とりあえず一人銀貨1枚を送る。日本円に換算すると、銀貨1枚で大体1万円だ。買い物リストは後ほど送る』


 アキらしくもなく、切羽詰まった文章だ。やはり、繊細な彼にはキツい環境なのだろう。了解とだけ返信して、夕食の準備に取り掛かることにした。


 土魔法で簡易かまどを作り、網を載せる。バーベキュー用の網と炭も100円ショップで買えたのは驚きだった。おかげで多少の焦げ付きも気にせず、豪快に調理が出来る。


「お、バーベキュー用の便利シート? 網の上に載せると鉄板代わりになるのか。いいな、これ。袋入り焼きそば2個で100円も買いだな」


 ぽちぽちと必要な品を召喚購入し、準備は万端だ。かまどは少し大きめのサイズに作ってあるので、網焼きと鉄板焼きと両方同時に使うことにした。


「さて、本日のメイン食材はコレ。ホーンラビット肉!」


 収納していた肉を取り出す。綺麗なピンク色の肉。本日、水魔法で倒したホーンラビットの肉を五羽分ほどポイント化せずに確保しておいた物だ。

 鑑定によると食用可とあるし、創造神の「素材は美味しい」という発言を信じて夕食に使うことにする。


 折り畳み式の作業台でホーンラビット肉に包丁を入れる。魔獣の肉が切れるか心配だったが、そういえば日本から持ってきた荷物に関してはどれも創造神の加護付きだった。

 油断すると指先までさくっといきそうな程の切れ味で、ラビット肉が切り分けられていく。


「とりあえずは網で焼いて食ってみよう。味付けは100均のマジックソルトで」


 マジックソルトは優秀だ。

 スパイスやハーブがブレンドされた塩はフレンチを極めた有名シェフの監修らしい。

 肉や魚に振り掛けて焼くだけで、雑な男の手料理でも、あら不思議。


「うっま……! なんだ、この肉めちゃくちゃ旨いな⁉︎」


 ブレンド塩を振って網で焼いただけとは思えなかった。柔らかなウサギ肉は噛み締めると肉汁が溢れてくる。臭みは全くない。

 仄かに甘い肉はハーブやスパイスが深みを引き出し、後を引く旨さに仕上げてくれている。ほんの少しガーリックの香りがするのも良い。


「これは期待以上の肉だな。焼きそばにも使おう」


 ウサギ肉とキャベツを具材に鉄板シートの上で焼きそばを作っていく。もちろん網の上では次のウサギ肉を焼くのも忘れない。


「この肉はシチューなんかの煮込みにも合いそうだな。作るのは面倒だが、唐揚げも絶対に合う」


 ぺろりと一羽を食べ切って、残りも全部調理することにした。夕食分はマジックソルトで味付けした網焼き肉で。翌日以降の作り置きとして、100円ショップで新たに購入した鉄串を使い、串焼きにすることにした。


「味付けは色々と変えてみよう。塩、タレ、マジックソルト、レモン塩もいけるか?」


 小腹が空いた時に摘めるようにしておけば、エネルギー補給にも良さそうだ。

 せっせと焼いては皿に重ねて【アイテムボックス】に収納する。時間は停止しているので、これでいつでも焼き立てを味わえるというわけだ。


「焼きそばも美味いな。ウサギ肉、万能過ぎだろ。明日もいっぱい狩ろう」


 満たされた腹をひと撫でして、夕食の後片付けをする。

 昼間のうちに作っておいた水出しの麦茶をグラスに注ぎ、生活魔法で冷やして飲んだ。

 チェアに座り、薄暗い夜の森をぼんやりと眺める。ホーホーと低く鳴くのはフクロウか。それとも夜行性の魔獣だろうか。

 足を踏み入れてなくても、数多の気配を察知できる。恐ろしくはあったが、楽しみでもあった。


「なにせ、今の俺は森のひとエルフだからな」


 しかも、その始祖。森の暮らしでどれだけ種族補正があるのかは分からないが、パルクールの練習にもなりそうで、胸が躍る。


 ポロン、と軽やかな音が響いた。メールの返信らしい。ざっと目を通したが、購入希望のリストの長さに目眩がしそうだ。


「やっぱり食生活に苦労していたか……」


 調味料やソース類、カップ麺に菓子類の名前がずらりと並んでいる。とても切実そうな文章と共に。とりあえず分かったことは。


「こっちの通貨、大量に手に入りそうだな……」


 教会から勇者たちへの給料が出ているらしいが、100均で散財しないか、ほんの少し心配になった。

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