第7話 スキル
「聖獣や神獣を召喚できる魔法って、相当レアで強い魔法だったんじゃないのか」
『当然だよ! お詫びのための固有ギフトだからね、張り切って授けた魔法だ。何せ、この世界でも大聖女しか使えない強力な──あれ?』
「あれ、じゃねぇよ! その魔法はもしかしなくても、この世界で俺を守ってくれる大事な切り札だったんじゃないのか? それを書き換えただと?」
ようやく、ちょっと不味いかな、と気付いたらしい毛玉──もう毛玉でいい、どこが神だ!
ふわふわの毛がぶわわっと膨れ上がって、モフ度が更に上がっている。
あれは焦っているのだろうか。今更だが。
「ちなみに召喚した聖獣や神獣たちは何が出来る存在だったんだ?」
『絶対防御の結界を張ったり、どんな怪我や病気でも治せる完全回復魔法が使える、とっても有能な召喚獣……かな?』
「有能だな。レベル1のよわよわな俺には絶対に必要な召喚獣だった」
ステータスボードの固有スキル欄にある【召喚魔法】をタップする。
【召喚魔法】…自力で得た素材類をポイント化し、そのポイントを消費して『地球産の物品』を召喚できる。レベルに応じた物品しか召喚はできない。
「ポイント……?」
『ええと、試してみようか。ちょうど足元に生えている草を採取してポイント変換してみて』
促されるまま、しゃがんで草を眺める。
じっと見つめると【鑑定】スキルが発動した。
ありふれた草の名前は「ヒメシバ」というらしい。乾燥させて火にくべれば虫除けの効果ありと説明文が続く。
とりあえず一本だけ千切り、毛玉の指示通りに【アイテムボックス】に収納する。
収納する際に念じるだけで、触れた物は亜空間に送ることが出来た。
『ステータスボードで採取した草をポイント化するんだ』
アイテムボックスの中身を見たいと念じれば、収納リストが現れた。
毛玉が言っていた通り、リストには事故で無くしたと思っていた自分たちの荷物が収納されている。なぜか、従弟たちの分まで収納されていたが。
『草のフォルダをタップして』
「ん、ポイント化するか、って選択肢が出たな。とりあえず、YESで」
あんまりファンタジーぽくないな、とぼんやり考えながらタップすると、草の画像が消えて「1
心許ない数字だが、これで何を召喚出来るのだろう?
ステータスボードの【召喚魔法】欄をタップすると、オンラインショップに似た画面が表示された。
物凄く見覚えがある。よく利用していた某大手ECサイトととても似ていた。
カテゴリー別に商品が並び、検索も可能。
扱う商品は多岐にわたっている。
「食品、飲料、雑貨に本、衣料品、その他……うん、あのオンラインショップ、そのままだな。分かりやすいけど」
試しに飲料の欄をタップしてみる。
見慣れたペットボトル飲料の名前がずらりと並んでいた。よく飲んでいた緑茶のボトルをタップすると、ポイントが足りませんと表示される。
「ん……? 緑茶に必要なポイントは100P。全然足りないじゃないか」
『等価交換だよ、等価交換! まさか、草一本でお茶が貰えるわけないでしょ?』
「理解は出来るが、ケサランパサランに言われると無性に腹が立つな……」
『だから僕はケサランパサランじゃないってば!』
無心で足元のヒメシバを
小さな草の山が築けたところで、まとめて【アイテムボックス】に収納する。
ポイント化すると173
先程の画面を開き、あらためて『召喚』をタップすると、足元に小さな魔法陣が現れた。
魔法陣の中央に、日本でよく買っていたペットボトルが置かれている。
「おお…。成功、か?」
手に取って鑑定してみるが、本物の緑茶のペットボトルだ。キャップを捻じ切り、中身を一口飲んでみるが、馴染んだ味だ。
緊張していた身には沁みるほどに美味しい。
(さっきは勝手に魔法を書き換えられて怒ったけれど、これは悪くないスキルかもな。日本の物が購入、じゃなくて召喚か。手に入るのなら、不自由はしないだろう)
ただし、身を守る
じっと毛玉を見詰めていると、視線に気付いたのか、ふわりと舞って肩に降りてくる。頬に当たる綿毛のような感触が少しだけくすぐったい。
『なかなか良い魔法でしょ? 日本の神々がこっちの世界の素材を買い取ってくれて、代わりに品物を送ってくれているんだ』
買い物って言ったぞ、この毛玉。やっぱりマトモな召喚じゃなくて、ネット通販じゃないか。
じっとりと横目で見ると、申し訳なさそうに毛玉をすぼませた。器用だな。
「召喚魔法が便利な物だとは理解した。だけど、このままじゃ俺はすぐに死ぬぞ? 身を守る力が欲しい。あと、回復魔法? 魔法がないなら、ポーションとか、そういう薬で良いから用意してくれないか」
俺が死んだら困るのは、この世界。
召喚勇者である従弟たちに邪竜を討ってもらうには、俺がこの世界でちゃんと生きていなければいけない。だから、これは正当な要求のはず。
『君が死ぬのは困る。聖獣と神獣の守りの代わりに、僕の加護を強くしてあげよう。君の周囲、そうだね…半径2メートルくらいかな? 魔獣や魔物の攻撃を無効化する不可視の盾を授けるよ。どんなに強い魔物の攻撃もこれで防げるようになる』
「勝手に展開されるのか?」
『そうだね。君が眠っていても、その身を守ってくれる結界のような物だと理解すれば良い』
意識がない時でも自動で展開してくれる結界はありがたい。これは回復魔法も期待出来るのでは、と目を輝かせながら肩に座る毛玉を見詰める。
『回復魔法については、ハイエルフの君なら自力で習得できる。この魔法の書をあげよう。僕もずっと君のちゅーとりあるには付き合えないから、この世界のあらゆる事を学べる魔法書で調べてね』
そこまで甘くはなかったか。
残念だが、魔法の書は興味深い。
創造神の加護のおかげで、少なくとも魔物や魔獣に襲われる心配はなくなったので、どうにか生きていけそうではある。
『ポーションはとりあえず30本ほど、アイテムボックスに送っておいたよ。大事に使ってね? さて、あとは召喚勇者たちに君の無事を伝えたいんだけど……』
「ああ、頼む。直筆の手紙でも渡すか?」
言葉で生き返ったと伝えただけでは信じきれないだろう。どうするのか見守っていると、宙に浮いたままだった、ステータス画面がふいに切り替わった。動画か?
そこにはずっと案じていた、三人の従弟たちの姿が映っていた。
『トーマ、か?』
『え、マジ? ほんとだ、トーマ
『生きて、る……? ほんとに……?』
リアルタイムで繋がっているらしい。
俺は涙目で駆け寄ってくる彼らに、にっと笑みを向けた。
「よぉ、無事みたいだな。良かった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。