独占欲 事後編

どうやら昨日は二人揃ってあのまま疲れ果てて寝てしまったらしい。

普段なら目が覚めると清拭されているが、今日は珍しくそのままで、乾いた残滓が肌に張り付き、昨晩の残り香が獣の番がお互いにそうし合うように濃厚にその身に刻まれていた。

昨日の熱も冷めやらず横に身体を向けると、ランスが笑みを浮かべてアレックスを見つめていた。


「おはよう」


ちゅっと音を立てて口付けられ、手櫛で髪を愛情に満ちた仕草で漉かれた。


「ああ、おはよう」


「今日は一日寝ててくれ」


「言われなくても、足腰が立たない。だが風呂には入りたい」


「わかってる。さっき風呂の支度を頼むのに人を呼んだ」


耳朶を揉まれて顔を撫でられ、サイドテーブルの水を取って口移しで飲ませてくる。

普通にグラスから飲ませてくれれば良い話だが、二人とも昨日の熱の続きにうかされているから、それが甘くて心地いい。うっとりと受け入れていると、ノックの音が部屋に響いた。

風呂の湯を持ってきた従業員だろうと、入るように言う。だが部屋に入ってきたのは、奴隷島のノアだった。


「帰るご挨拶にと……って、アレックス」


「ランス!!! お前!!」


化け物級の体力を持ち、気遣いが出来てまめな男が自分と一緒に寝落ちてしまうなんて珍しいと思ったのだ。この独占欲の塊はわざわざ、見せつける為にその状態で放置してノアを呼んだ。

昨日自分が部屋を出た後に残っていたから、釘をさしたのだろうに、この男、ご丁寧に死体蹴りまで入れる心持ちのようだ。

慌てて起き上がってガウンでも羽織ろうかと思ったが、全く起き上がれない。

そう思ったらランスが身を起こして、アレックスの背中の下に枕を入れた。

上掛けが滑り落ちてあられもない姿をノアに晒してしまう。


「あー、すまない……。昨晩は楽しんでもらえたか? 仕事の話は後日また、前向きに検討させてもらいたい」


「ええ、まあ。今も手は届きませんが楽しませて……! いえ、なんでも……パルレ島の件、ぜひよろしくお願いします!」


ぺこぺこと頭を下げて部屋を辞したノアの背をベッドの上から見送って、アレックスはランスを睨みつけた。


「俺は情交の跡を人に見せつける趣味はないんだが」


「だけど、気にするわけでもないでしょう」


「……まあな」


王宮でも娼館でも清拭は使用人にやらせるか、風呂に入るかだった。

身請けされた後はさすがに一人で風呂には入れるようになったが、そこまでは人にやってもらっていたから、赤の他人に見られる事に恥じらいはない。

そして、この男が独占欲を見せる事に溟い悦びを覚える自分も存在するのだ。

アレックスは小さくため息をついて、男の肩に頭を凭れかけた。

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