第4章 反転攻勢

21.〝王都〟の焦り

 影の軍勢の皆さんにも定住してもらい神樹の里はますます活気を増します。


 ディーヴァの歌も大人気で幼い影の幻獣たちもよく聴きに来ていますしね。


 僕たちはミンストレルの様子をあまり見ていないのでディーヴァ経由になりますが、ミンストレルの歌の練習にも幼い影の幻獣たちはよく集まっているそうです。


 トライやオニキスに言わせれば「娯楽に飢えていたのだろう」とのことでした。


 ともかく、幼い幻獣も仲良くしてくれているようでいいことです。


 そして、大人の、力ある影の軍勢たちは僕たち神樹の里の諜報活動を手伝ってくれています。


〝王都〟の場所も知っているようで、そこから〝狩り〟の部隊が出発するとどの方面にどれだけの数がどのような装備を持って出ていったかを教えてくれました。


 これにより、僕たちは〝狩り〟の部隊の先手を打つことができるようになり、幻獣や精霊、妖精を説得して神樹の里に避難させることができるようになりました。


 ただ、避難させたあと元の住処に戻そうとすると徹底的に荒らされてしまっており、森や花畑は焼き払われ泉や湖は猛毒を流し込まれてしまっています。


 避難してくれていたみんなもこれでは元の住処を利用できないということで、とりあえず神樹の里に留まり〝王都〟の様子を見て新しい居住地を探しに行くとのことでした。


「許せないね、〝王都〟の連中! 幻獣や精霊、妖精がいないからって住処を破壊して回るだなんて!」


「リン、落ち着いて。許せないのは僕も一緒ですがそれを言い出しても始まりません」


「……そうだよね。ごめん」


『リンも落ち着いてくれたことだし今後の相談よ。トライ、オニキス、〝王都〟の様子はどうなの?』


『庶民、と言うのか? 普通の市街地で暮らしている者たちは特に変わりがなかったな』


『だが、裕福そうな家々が立ち並ぶ地域ではそうではない。俺も直接確認に行ったが、かなり色濃い怒りを露わにしていた。調べさせていた配下によると〝狩り〟の成果が出なくなってきたことが不満らしい』


「〝狩り〟の成果が出ないことが不満?」


「それってどういうこと?」


『貴族、と言うのか? 〝狩り〟の部隊にはそいつらが金を出し合っているようなのだ。我々が加わる前は〝狩り〟はうまくいっていた。それこそ〝幻獣狩り〟すらできるほどにな。だが、我ら影の軍勢が加わってからは居住地に行ってもどこもかしこももぬけの殻。『遠征費用や対抗装備を集める代金も回収できん』そうだぞ?』


『ふむ。『代金を回収』ねえ……』


『我々、影の軍勢は人の暮らしの中に潜むことも多い。『代金が回収できない』と言うことはいままで捕らえられてきた幻獣たちはどこかに売られていたのだろう』


「そんな!?」


『だから、リン、落ち着きなさい。いまは影の軍勢が集めてきてくれた情報を精査することが先決よ』


「は、はい。申し訳ありません、メイヤ様」


 リンではありませんが僕も内心では相当いらだってきています。


 幻獣や精霊、妖精たちを売り払っていたとは!


『それで、売り先はわかるの?』


『すまない。そこまではまだつかめていない』


『影の軍勢で調べられることは見聞きしたことがほとんど。証拠となるような資料を盗み出すことができれば俺が運んでこよう。だが、そんな代物を早々取り出すとは考えられないし、残しているかどうかもわからん』


『なるほど。ここで手詰まりね』


「いえ、かなり前進しましたよ。少なくとも被害は防げるようになったんですから」


「そうだね。影の軍勢のみんなが来てくれたあとは助けることができているもんね」


『この程度の役に立てないようでは影の軍勢の名が廃る』


『まったくだ。可能であれば、いままで捕まえられた者たちの行方も調べたいのだが……』


『そこは焦らずに行きましょう。このまま〝狩り〟を阻止し続ければ必ずなにかが変わるはずよ』


「それを願いましょう」


「はい、メイヤ様」


『では我々は監視に戻ろう』


『なにかわかればすぐに報告に来る』


「二匹も無理はしないでくださいね」


『当然だ。監視をしている者が捕まっては笑い話にもならん』


『安全は確保して行っている。気にするな』


 また影の中へと消え去っていった二匹を見送り、僕たち3人は頭を抱えます。


 この先、どのように戦えばいいのか……。


「メイヤ様。〝王都〟に直接乗り込むのはだめでしょうか?」


『許可できないわ。連れ去られた者たちの行方がわからない以上、〝王都〟に行っても意味がない可能性があるし、人間の兵士も多いのよ。あなた方が強くても理由がなければ許可できない』


「理由があれば許可してくださると?」


『相応の理由があればね。捕らえられたみんなが〝王都〟にいて助ける算段ができているとかなら』


「……それまではなにもできないんですね」


『リンは悔しいでしょうけど神域の守護者だって限界はあるの。それにあなた方は神域の関係者になって一年も経っていないわ。それではそこらの大魔導師や賢者、聖騎士と呼ばれる人間よりも強い程度、物量で押されてしまうと息切れしかねないもの。いまは我慢の時よ』


「リン、悔しいでしょうがいまは僕たちができることをやり続けましょう」


「……そうだね。まずはトレーニングと〝狩り〟で狙われそうになっているみんなの保護!」


『そうしなさい。影の軍勢が来てくれたことで〝王都〟との戦いも長期戦になりそうだわ。準備時間が長ければ長いほどこちらが有利になる。いまは基礎能力の向上とそれを存分に振るえるだけのトレーニング、〝狩り〟が行われる際に先回りして狙われている対象の保護よ』


「はい! そうと決まればすぐにでも! メイヤ様、失礼いたします!」


 リンは訓練設備を置いてある方へ駆け出していきました。


 ……相当鬱憤を貯め込んでいるみたいです。


『シント、あなたは大丈夫?』


「僕も〝王都〟のやり方は許せませんが……いま焦っても仕方がないこともわかっています。いつか反撃できるときに備えて準備をしておくべきですね」


『そうするべきね。ポーションなどの準備は大丈夫? もちろんリンに渡してある分も含めて』


「……少し不安になってきました。作り足します」


『わかったわ。これ、回復薬用の実よ』


「ありがとうございます、メイヤ。それでは僕もこれで」


 僕は錬金術設備が置いてある家へと歩き始めました。


 回復薬はかなりあるのですが、多くて困ることも無いでしょう。


 どうせ、時空魔法で収納しているのですから大量に保管しておかなくては。


 僕も訓練が必要ですがまずはこちらが先です。



********************



『ふたりとも一応落ち着いてくれているようでなによりね。あとは〝王都〟の出方待ちなのだけど……あまり早く動かれるとふたりの強化が間に合わない、遅すぎるとふたりの不満が爆発する。ままならないわ』

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