第6話

 それから瞳はほどなくして、見合い相手と結婚した。

 夫となったひとは瞳の男性遍歴や経験などを一切聞くことなく、ただただ見合いで嫁いでくれた瞳に尽くした。

 会社でもそれなりの地位についており、収入もほどほどにある。

 瞳は会社を辞め、専業主婦として生活していくことになった。

 しあわせで、不満のない生活。

 しいて不満だったことがあるとすれば、まぐわいが淡泊だったことくらいだった。そればかりはつい、剛のそれと比べてしまい、時折瞳はひとりで慰めたりもしていた。

 やがて子どもが生まれた。

 夫も、そしてもちろん瞳自身も、この一粒種を大変に可愛がった。

「ありがとう、瞳」

 夫から述べられる感謝を正直に受け止めつつも、瞳は心のどこかにぽっかりとした穴が開いているのを自覚せずにはいられなかった。

 もしこれが剛だったならどうだったろうか。

 なにを考えるにも、剛の影はついて回る。

『俺のことは忘れて、しあわせになれ』

 そうは言われたし、瞳も一度はうなずいたけれど――――

 爪痕は深すぎた。

 だが連絡先も知らない状態でどうすることもできず、また『人妻には手を出さない』という彼のポリシーを思い出して、ひとり悶々とする日々が続いた。


 だが――――


「瞳、ごめんね」

 ある日瞳は、突然夫からそういうふうに謝られた。

 浮気か何かしたのか、と思ったが、そうではなかった。

 聞けば会社の業績が少し下がったため、収入がやや落ち込むという。

「そんなに急に生活に影響が出るものではないのだけど」

 言われて、瞳はすこし考えた。

「わたしも、パートかなにか、出たほうがいいでしょうか」

「いや、そこまでのことはないと思うよ。ただ、いつもより給料が少し下がるかもしれないから、ってことだけ」

 本当にどこまでも夫は優しい。

 瞳に要らぬ心配と負担をかけないようにしているのが、彼女には肌で分かった。

 しかし子どもも小学校に上がったわけだし、これからどんどんと先立つものは増えていくばかりだ。

 瞳は、一度自分のスマホから消したアプリを探した。

 もう一度――ミハルとして、あのサイトに登録するために。

 一度辞めたサイトだったからか、再登録は実にスムーズにできた。

 今度は人妻としての登録になるわけだが、なかなかどうして人妻にもニーズはある。

 アピールのための写真も撮り直し、瞳がこっそりと活動を始めて、一ヶ月になるころだった。

 一通のメッセージが瞳のもとに舞い込んできた。

【もしかして……あの、ミハル……?】


 剛だった。

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