第4話
夜中、瞳がふと目を覚ました時、剛は無防備にベッドの中でいびきをかいていた。
す、とベッドから立ち上がって、彼を見下ろす。
抱いた女に寝首をかかれるということは考えていないのだろうか――と思ったが、『信用するに足りた』という剛の言葉が瞳の脳裏を駆け巡った。
瞳は一糸まとわぬ姿のまま、もう一度ベッドに入ると、ゆるやかに目をつむった。
翌朝、どちらともなく起きた二人は、静かに後片づけを済ませてホテルを出た。
大手チェーンのファミリーレストランに入ると、また、たわいもない話をしながら食事をした。
その様子は普通のカップルのようであった。
チャットサイトで出会い、禁断といえた待ち合わせを行い、昨夜濃厚なセックスで何度も何度も達した二人とはとても見えなかった。
剛は駅まで瞳を送った。
「じゃあね、ミハル」
「はい。……」
次の言葉はなかなか出てこなかった。
「また、会えるかな?」
剛が運転席から瞳の手をつかむ。
「え……」
「ミハル。また、会いたい」
つかまれた手を通じて、心臓がどきんと跳ねる。
「はい……わたしも、会いたい……です」
こういう関係があってもいい。
瞳は自分を納得させるように心に言い聞かせると、剛に手を振ってわかれた。
すぐに、サイトに接続してメッセージを送る。
【どうもありがとうございました】
こちらこそ、という返事が剛から来る。
【次はいつ会えるかな】
わかりませんが、近いうちに必ず、と瞳はメッセージを打つ。
瞳は本当に、また剛に会いたくなっていた。
それはあの荒々しくて濃厚なセックスをもう一度味わいたいという気分だけではなかった。
ただの一回会っただけで剛に魅かれている自分がそこにいた。
それから次に会うまで、また二人はサイトでメッセージと電話の日々を送っていた。
電話を通した慰め合いではとても足りないと思ったのか、よく剛は
『ミハル、お前を抱きたい。襲いたい』
という言葉を電話口でささやいた。
それを聞くたび瞳は瞳でドキドキとし、身体中がびくびくと反応するのがわかった。
「襲って……たくさん、犯してください」
こんな言葉が自分から出るとは思わなかった。
『ミハルは淫乱だね』
また冷たい言葉が耳朶を打つ。それすらも、瞳にはもう心地の良いものになっていた。
瞳と剛はふた月に一回くらいの割合で会ってはセックスする、を繰り返していた。ときどきは水族館や映画館などに行くこともあったが、最終的にはホテルでまぐわうのが必ずといっていいほどお決まりのコースだった。
そのたびに瞳は新しい刺激を剛から受けていた。
このままでは彼から抜け出せなくなる、瞳はそういう危機感さえ抱くほどだった。
だからといって剛が結婚まで考えているかというと――――
「俺は結婚はしない」
何かの話のときに彼はそんなことを言っていた。
「じゃあ、もしわたしが誰かと結婚したら?」
瞳がベッドの中でそんなことを冗談半分につぶやくと、剛は瞳の顎をくいと持ち上げた。
「俺のことを絶対に忘れないくらいの爪痕を残してから別れる」
人妻には手を出さないのが俺のポリシーだ――そう言いながら、剛はまた瞳を抱いた。
本当なら、剛と一緒になったほうが、満たさるのかもしれない――瞳はそうとさえ思うようになっていた。
身体の関係だけではあったが、そう思わせるだけの何かが、彼にはあった。
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