第258話 で、話の続きは?
「秘密の話、興味ないの?」
「どっちでもいい。話したいなら勝手にしろ」
どうせ俺に話したくて仕方ないんだろ。
断っても言ってくるのだから、優しくなんてしてやるか。
「そういうところもいいね。やっぱり私のジラール男爵だ」
意味の分からないことを言っているが無視である。
俺は誰のものではない。
都合よく利用されていると気づくまで、ずっと勘違いしていろ。
「地下にとらわれているヴァンパイアに裏事情があるんだよ」
公開されてない情報か。
興味はあるのでセラビミアの顔を見た。
「やっと私を見てくれたね」
好意がなくても興味を持ってもらえるだけで嬉しそうにするとは。
危険だな。
空中都市での出来事を踏まえれば、どんなに冷たくしても俺への執着はなくなりそうにない。
別の生け贄が必要なのだが、セラビミアはこの世界の住民をゲームのキャラとして見ているところがある。
俺みたいに憑依した人を見つけない限りは難しいだろう。
「で、話の続きは?」
「強力なヴァンパイアが長年おとなしくしている理由は二つあるんだ。一つは魔力を封じる首輪をつけられていること」
「ヴァンパイアの力を封じるほど強力ということは、古代に作られた魔道具か?」
「うん。その考えて間違いないよ」
現代では再現できない高度な技術が使っている魔道具あれば、力を封じ続けているのも納得だ。
空中都市ではセラビミアの力を封じていたし説明に嘘は感じないが、ゲーム内だと魔道具で弱体化させていると表現されていた。
この情報が裏事情だとは思えない。
もう一つの理由の方が重要なのだろう。
「彼女――メルートは、無理やり人間の子供を産まされているんだけど、すべての子供を愛しているんだ。深くね」
ゲームでは暴れるだけの存在だったので、この情報はなかった。
長く続く凌辱によって精神が摩耗しておかしくなっているのかも。
セラビミアの顔をじっと見る。
こいつと同等か、それ以上に歪んだ愛情を持っているのであれば、子供たちの末路を知ったときが恐ろしい。
「だったら、ハーフヴァンパイアが使い捨ての道具として利用されていることは、絶対に教えられないな」
「そう思うよね。実際ゲームだと、パウアル子爵のイングリット令嬢がヴァンパイアに取引を持ち掛けたとき、子供を殺したこと伝えたから暴れまわってしまったんだよね」
確か愛する王子様を手に入れるため、婚約者を殺すためにヴァンパイアを利用する計画だったな。
「現実は違う。きっとヴァンパイアは暴れないよ」
子爵家及び人間に対して強い恨みを持ったヴァンパイアは、王都で暴れまわるルートしかなかった。
救済処置なんてなかったはずだぞ。
「イングリット令嬢を心配した執事が、子供を人質にとればヴァンパイアは絶対に言うことを聞くって、話しちゃったんだ」
セラビミアは静かに狂気を孕んだ笑みであった。
「なぜ、お前がそれを知っている」
この世界の住人がゲーム内とは異なる動きをしても不思議ではない。
セラビミアは隠し事があっても嘘は言わないので、信じても良いだろう。
だからこそ、なぜ細かい動きまで把握しているのかが気になる。
まさか裏で動いて執事をそそのかしたんじゃないだろうな?
「勘違いしないで欲しいんだけど、私はパウアル子爵の情報を集めていただけで、直接は動いてないよ」
「子爵家の情報を集める理由は?」
「ジラール男爵の動きをいくつか予想しててね。先回りしているだけだよ」
当然だよね、みたいな顔をしながら言うなよッ! 怖い!
「どんな予想をしていた」
「領地の開拓、私兵の強化、呪いの解除、かな。その中で一番可能性が高いと思っていたのは呪いの解除だったから、当たりだったよ」
小さく手を合わせながら喜んでいた。
俺がわかりやすいだけなのかもしれないが、行動が完全に読まれている。
先ほどあげられた三つの選択肢は、どれも俺の中で優先度は高い。
ヴァンパイア・ソードの件がなければ私兵の強化もしていただろう。
「私はジラール男爵のすべてを知りたくなったから、情報を集めてただけ。ね、役に立つ女でしょ?」
即座に否定しようと思って中断した。
目がマジなのだ。
拒否すれば思い通りにいかないと癇癪を起こす未来が見える。
空中都市では大変な目に合ったので、ここは機嫌を取っておくべきか。
「そうだな」
なぜ妻でもない女に気を使わなければいけないんだと思いつつ短く返事をした。
「でしょ! パウアル子爵の執事はイングリット令嬢に淡い恋心を抱いていて、なんとしてでも計画を成功させようって動いているんだよ。健気だよねぇ~~」
チラチラと俺を見ながら言うなッ!
まさかじゃないが、健気な女アピールでもしているつもりか!?
何度も俺の邪魔をした上にマッチポンプまでかましてきたのだから、そんな感情を抱くはずないだろ。
人の心というのを分かっていない。
「実らない恋心なんて、さっさと捨てれば良いのに」
「ふーん。ジラール男爵はそう思うんだ。意外と冷たいね」
「意外は余計だ。俺は冷たいんだよ」
特にセラビミアにはな。
優しくしてもらおうなんて甘い考えはさっさと捨てて、別の男を探せ。
憑依者が二人もいるのだから、三人目、四人目もどこかにいることだろう。
そいつらと未来永劫、仲良く過ごしてくれ。
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