第249話 人間の子供を何回か産んでいる

 結婚式が終わった数日後。


 屋敷の地下にある宝物庫にいた。


 寝室はユリアンヌやアデーレと同室になったので、最近は一人になりたいときに使っているのだ。


 そのうち別室になるだろうが、今は子供を作れプレッシャーが強い。


 床に座って、ヴァンパイア・ソードに話しかける。


「ヴァンパイアの居場所に心当たりがある」


 スペアボディはリーム公爵の屋敷近くにあったらしく、空中都市の中心部が落ちた場所だった。


 現場は今も封鎖されていて、関係者以外は入れない。


 手に入れるのは無理だと判断してスペアの捜索はせず、ヴァンパイアの体を使って復活させる方法を選んだのだ。


 既に居場所も思い出している。


『ほう。どこにいるんだ?』


「王都だ。間違いなくいるぞ」


『お前の力だけで探せるのか?』


「当然だ。任せろ」


 広い王都で人捜しなんて、普通に考えれば難易度が高く、一週間で見つかるはずがない。


 しかし俺は違う。


 ゲームの知識がある。


 この世界に来たときに書いたメモを見返しているうちに思い出したのだが、実は『悪徳貴族の生存戦略』でヴァンパイアと戦ったことがあったのだ。


 場所は王都。


 とある子爵家の地下に監禁されて、人間とヴァンパイアのハーフを生むための道具としてイカされているのだ。


 絶望した顔をしたスチル画像もあって、当時は気分が悪くなる設定である。


 相変わらずセラビミアの趣味は悪い。


「居場所には心当たりがある。捕まえて殺すぞ」


『まてまて』


「なんだよ?」


『見た目が悪かったら私は別の体を選ぶからな』


 自分だけじゃ復活できないくせに注文が多い。


 性別も女じゃないと許さないとか、面倒なことばかりだ。


「見た目は綺麗だと思うぞ」


 貴族が代々飼っているヴァンパイアだからな。


 顔やスタイルは良いはずだし、男を長く魅了するほどの力があるだろう。


『ふむ。見た目は良いのか』


 この情報だけで納得してくれと思っていたのだが、ヴァンパイアの質問は続く。


『そいつは普通に生活しているのか?』


 貴族に捕まって子供を産み続けてます、なんて正直に言っても良いのだろうか。


 種族文化が違うので受け入れる可能性はあるが、低いだろう。


 恐らく人間ごときの子供を産んだ体なんていらん! と、拒否するだろうな。


「さあな。そこまではしらん」


『……本当か?』


 疑い深いヤツだ。


 裏切られる前提で考えていやがる。


「持ち主を信じろよ」


『なら無理だな。知っている情報を全て吐くんだ』


「ちっ」


 どうせ会ってしまえばバレてしまうんだから、先に言ってしまうか。


 ゴチャゴチャ文句を言うのであれば、俺にだって考えはある。


 わざと体探しに時間をかけてやるからな。


「人間の子供を何回か産んでいる」


『他には?』


「貴族に囚われているぐらいだな」


『なるほどな。貴族つながりで情報を仕入れたのか』


 良い具合に勘違いをしているようだ。


 田舎男爵、しかも経営破綻寸前だったジラール領に貴族のつながりなんてないぞ。


 しかもヴァンパイアの情報を提供するような関係なんて築きようがない。


「そんな感じだな。で、どうする?」


『経産婦であれば許容範囲だ。最悪、また別の体を手に入れれば良いだけだしな』


「いつでも新しい体に移行できるなら、見た目や性別なんて気にするなよ」


『そんな簡単な話じゃないのだ。死体は新鮮でなければいけないし、破損も最小限に抑える必要ある』


 今の話は最初の体を手に入れるときにも適用されるだろう。


 後出しで条件をだしやがって。


 ヴァンパイア・ソードで斬り殺せば新鮮な死体は用意できるだろうが、破損については悩ましい。


 首を切り落としたのが最小となるのか、確認が必要だ。


「傷はどこまで許容できる?」


『少なければ少ないほど良い。理想は毒殺だな』


「心臓を貫いたら?」


『回復ポーションで傷を癒やしてからなら問題ない』


 また金がかかる注文をしやがって。


 心臓の傷を癒やすだけでも四級相当のポーションが必要になるんだぞ。


 それ以上の傷なら三級もしくは二級は必要になる。


 このレベルになると金を積めば買える、という状況にはならない。


 回復ポーションを作っている錬金術師とのコネクションが必要になる。


 それも凄腕のヤツらだ。


 金だけでも頭が痛いのに錬金術師との伝手まで求められたら、今の俺じゃ手に入れるのは不可能だろう。


「ヴァンパイアは毒で殺せるのか?」


『血を吸えない状態なら可能だ』


 すると、拘束されている状態のヴァンパイアならチャンスはあるな。


 毒の入手はハイナーに依頼すれば何とかなるだろう。


 あいつなら購入ルートぐらいは持っているはず。


「毒のレベルは?」


『ひと舐めすれば人間が即死するレベル。それ以下だとヴァンパイアは死なない』


「無駄に頑丈だな」


『だから迫害された。諦めろ』


 個体として優秀であるが故に、他の種族から危険視されて敵対された。


 怖いから先に殺す。


 野蛮ではあるが、恐怖にかられた人々が狂気に飲み込まれてしまう理由としては充分だ。


 それはヴァンパイアだけに限らない。


 アラクネだって同様だ。


 あれは男を求め性癖が歪んでいることも原因だが……。


 ともかく魔族というカテゴリーに入る種族は、そういった理由から今も迫害されることがあるのだ。


「仕方がない。先ずは毒を手に入れるか」


『王都へ行く前にな』


 言われなくてもわかっている。


 ハイナーのケツを叩いて急がせるか。




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【あとがき】

悪徳貴族の生存戦略の二巻が5/10(明日!)発売します!

初速が重要と言われているため、もしよければ書籍版も購入いただけると大変助かります。

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