第247話 飲み比べしましょう!
結婚式当日が来た。
とはいえ、屋敷の一室で行うパーティー形式だがな。
招待客は普段から俺に仕え、働いている私兵たちとケヴィンの他ルミエ、イナといったメイドだけだ。
外部からはユリアンヌの両親しか招待していないので、会場に並ぶ料理は高くない。
もちろん、平民からすれば豪華だと言える内容にはなっているが、貴族から見れば「この程度か」と鼻で笑われてしまうだろう。
さて、開場してからだいぶ時間がたったな。
主賓が入る頃合いである。
「そろそろ行くか」
真っ白なドレスを身につけている二人に声をかけた。
露出度は控えめで、胸元や首が隠れている。
最近は露出度の高いドレスが流行らしいのだが、目立つ傷があるユリアンヌに配慮して今のデザインになった。
アデーレも気に入っているようだし、問題はないだろう。
流行なんて王都にいる令嬢たちが気にしているだけで、俺たちには関係ないのだ。
二人と手をつないで部屋を出る。
向かう場所はみんなの待つパーティー開場だ。
* * *
黒いスーツを着た俺は、妻となる二人を連れて屋敷内のパーティー会場に入った。
立食式になっていて、丸いテーブルがいくつもある。
その上には、肉や麺、パン、野菜といった食べ物やワインなどの酒が置かれていた。
会場には、ケヴィンやルートヴィヒの他、グイントや私兵たちが集まっている。
外から来たのはユリアンヌの両親には後で文句を言われそうだが、ヨンは俺を殺しかけた前科があるので、強くは出られないだろう。
貸しはいくつもあるんだから、こういうときに返してもらわないとなッ!
ルミエからワイングラスを受け取ると掲げる。
「みんな良く来たな。今日は俺とユリアンヌ、そしてアデーレが夫婦になる特別な日だ」
左右に立つ二人を交互に見た。
「お前たち、一緒に祝えッ!」
貴族じゃなく賊っぽい言い方になってしまったが、案外好評だったようだ。
特に私兵たちは声を上げて騒いでる。
こういうノリでいいんだよ。
俺も、こいつらも上品な態度なんて取れないからな。
「旦那様、お母様がちょっと……」
気分が良いところで水を差されてしまったな。
ユリアンヌの母を見る。
こめかみがピクピクと動いていた。
俺のやり方が気に入らないのだろう。
「ユリアンヌはこういうの嫌いか?」
「私はこっちの方が好きです」
知ってて聞いた。
堅苦しい雰囲気が嫌いだもんな。
「アデーレは?」
「ジャック様と一緒なら、なんでもいいです」
「だったら周囲のことなんて無視だ。俺たちが楽しみ、周囲が祝ってくれれば、形式にこだわる必要はない」
なんせ、俺たちの結婚式だからな。
開場に集まっている人たちを見ると、みんな笑顔だ。
ケヴィンなんてハンカチを持って涙を拭いている。
体格が良いので似合ってないが。
挨拶が途中で止まっていたことを思い出し、声を張り上げる。
「今日は無礼講だ! 好きなだけ食べて、飲め! 宴の始まりだッッ!!」
荒々しい宣言をすると、招待客たちが食事を始めた。
私兵たちは肉を口いっぱいに入れるとワインで胃に流し込む。
マナーなんて存在しない。
ヨンは慣れているようだが、妻のヒルデは驚いて固まっている。
「私がフォローしてきますね」
さすがに思うところがあったようで、ユリアンヌは両親の方に行ってしまった。
結婚相手を置いていくなよと思ったのだが、マナーや常識を無視しているのは俺だ。
文句はいえんな。
「飲み比べしましょう!」
アデーレと話そうと思ったら、私兵に囲まれていた。
訓練では負けっぱなしだからといって、酒で勝とうとしているらしい。
既にジョッキ五杯ぐらいは飲んでおり、さらに私兵から酒を受け取ると、アデーレは一気に飲み干す。
顔色は変わってないし、足下がふらついているようにも見えない。
幼い見た目と違って酒は強いようだ。
俺があの中に入っていくのは少し勇気がいる。
さすがに空気ぐらいは読めるからな。
「花嫁、取られちゃいましたね」
「暇になったから、少し相手しろ」
振り返りながら返事をする。
青いドレスに身を包んだルミエがいた。
首にはサファイヤがちりばめられたネックレスがあり、髪を後ろで束ねている。
普段は隠れている耳には、ミスリル銀製のイヤリングが二つぶら下がっていた。
メイド服で出ようとした彼女に、俺がドレスやアクセサリーをプレゼントしたのだ。
結婚前に浮気しようとしたわけじゃない。
ちゃんと二人の嫁に許可は取ってある。
「素敵な物をいただいたお礼として、ジャック様のお相手をしますね」
こんなことを言っているが、渡したときは素直に受け取らなかった。
受け取らなければ結婚式はしないと強引に迫って、ようやく渡せたのだ。
「プレゼントは奥様に渡したんですか?」
「この後、披露する予定だ」
ハイナーは無茶な依頼を達成して、希望したとおりの物を用意してくれた。
既に現物は確認しているので問題はない。
後はこの場で披露すれば盛り上がるはず。
まあ、プレゼントの一つが短槍というのはちょっと変だが、二人は喜んでくれることだろう。
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【あとがき】
2巻が5/10に発売予定です。
よければ予約してもらえないでしょうか。
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