第244話 悩んでる

「おおー。もうすぐ、ぶつかりそうだね」


 山頂についてようやく空中都市周辺の状況が見えるようになった。


 地上が近づいていて、あと一分ぐらいで接触しそうである。


 しかも質が悪いことに、空中都市の至る所にヒビが入っている。


 一部は分離していた。


 細かく分かれることで被害を広げようとしているのだろう。


 セラビミアの力を借りなければ、間違いなく自爆に巻き込まれて一緒に死んでいたな。


 スタスタと一人で歩き魔方陣に触れた。


 魔力を流して起動させる。


 セラビミアの姿を見ると少し離れたところで立っていた。


「こないのか?」


 協力してもらった恩があるので、聞いてみた。


「悩んでる」


 死んでも良いと思っているのか?


 それともかまって欲しいから、ギリギリのタイミングでワガママを言っているのか?


 答えはわからんが、面倒な女だというのは変わらないな。


「生き残って俺の役に立て」


「いいの?」


「俺を罠にはめないと約束するなら」


「月一で会う約束も守ってね」


「…………わかってる」


 魔方陣の光りが強くなった。


 セラビミアが俺に抱き付くのと同時に体が宙に浮かんで空に飛んだ。


 廃墟に向かって移動を始める。


 爆発音と同時に空気が大きく揺れた。


 地上を見ると、空中都市がリーム公爵の屋敷に衝突しているところだった。


 大きなクレーターができている。


 他にも大小様々なクレーターができていて、近くにあった町は完全に崩壊している。


 避難する時間なんてなかっただろうから、生き残っている住民は少ないだろう。


 リーム公爵領は致命的なダメージを受け、復興には数年、いや十年以上はかかるだろう。


「これで敵対組織が消えたね。次はどこを潰す?」


 移動中の寒さに耐えながら、セラビミアが楽しそうに言っていた。


 俺の予想が正しければ、敵対組織なんて数年は出てこない。


 王家やリーム公爵家傘下の貴族は、今回の騒動を解決するのに金と人を使うだろうから、俺にちょっかいを出す暇なんてない。


 他の貴族は今回の騒動を使って、どうやって利益を得ようとするか考え、動くことだろう。


 目の前のチャンスを手に入れることに忙しく、田舎男爵の領地にケンカをふっかけるような余裕なんてないのだ。


「しばらくは領地発展に注力する」


「いいね。私も遊びに行くから」


 俺は嘘が嫌いだ。


 裏切りに直結するからな。


 相手が罠にはめてきたセラビミアであっても、約束は守る。


 隣領の領主でもあるので、仲良くする価値はあるからな。


「歓迎するとは約束しないぞ」


「いいよ。それも楽しいから」


* * *


 廃墟から出るとセラビミアは一人で、どこかに行ってしまった。


 服はボロボロで下着が見える状態だったが、魔力制御の首輪を外した今なら、魔物に襲われてもケガすらしないだろう。


 一方の俺は森の中を歩いていた。


 アドレナリンが切れたのか痛みが戻ってきている。


 吸血して傷を癒やそうと思っているのだが、こんな時に限って魔物や動物が見つからない。


『約束は守るんだぞ』


 つながりが強くなったからか、ヴァンパイアの声が脳内で聞こえるようになった。


「わかってる」


 ヴァンパイア・ソードは俺から離れないので、常に監視されている状況である。


 嘘なんてつけない。


 屋敷に戻ったら、本当に体を戻すために動くつもりだ。


「スペアは残っていると思うか?」


『ムリだろうな。あの質量で押しつぶされてしまえば、ヴァンパイアの体とはいえ無事では済まない』


 予想していた通りの返答だ。


 セラビミアは最後まで余計なことをしてくれたな。


 念のためスペアは探す予定だが、他の方法を考えなければいけないだろう。


「スペアを使わない復活の方法は?」


『生け贄が嫌なら、他のヴァンパイの体を使うしかないな』


 同族の肉体を使って復活するとは、なんとも物騒な話だ。


「ヴァンパイア狩りをしなければいけないのか。体は何人分、必要なんだ?」


『一人で充分だ。その代わり性別は女、美しい顔で頼むぞ』


 殺したヴァンパイアを素体として使うのではなく、乗っ取る感じか。


 魂を入れ替えて新しい肉体を手に入れると。


 奪われる方はたまったもんじゃないな。


 俺だったら死んでも死に切れん。


 なんてことを考えていたが、そもそも俺はジャックを殺して奪い取ったのだ。


 何かを言う資格はないか。


「ヴァンパイアは数が少ないんだ。女を探すだけで相当な時間がかかるぞ」


 アラクネもそうだったが、魔族とカテゴライズされる種族は人目を避ける傾向がある。


 昔、迫害されていたからと、ゲーム上で説明されていた。


 特にヴァンパイアは数が少なく秘密主義なので、貴族の力を使っても発見は容易でない。


『心配はいらない。私が教えてやる』


「随分と前の情報なんだろ? そんな古い知識は当てにならないな」


 文句をいったら手の甲に痛みが走った。


 顔が歪み、足が止まってしまう。


 こっちは全身が痛いんだぞ!


 会話が出来るようになったからか、自己主張が強くなったように感じる。


『私を昔の人扱いするな。まだまだ現役だ』


「はいはい。その通りだな」


 森の中でヴァンパイア・ソードとケンカするなんて、馬鹿らしいことはしたくない。


 適当な返事をして森から出るため、移動を再開した。

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