第218話 眠っている数千の魔物のことか?

 空中都市の山頂に降り立った。


 先ほどまで強かった風は穏やかになっており、周囲に防風の魔法がかけられていることがわかる。


 過ごしやすい気温なので、温度調節機能も使われているかもしれない。


「ようこそ! 空中都市へ!」


 両手を広げて、とっておきのオモチャを自慢するように、セラビミアが言った。


 実は大きな目的なんてなく、俺を連れてきたいから今までちょっかいを出してきた、なんて想像してしまうほど純粋な感情をぶつけられている。


 これがゲーム制作者の性……なのか?


「ジラール家最大の秘密、それは過去、地上と空中都市の出入り口を管理していた一族だったんだ。驚いた?」


「ああ。驚いたよ。そんな偉大な人物だったとは、思いもしなかった」


「でしょー。だから連れてきたかったんだよね」


 楽しそうにしながら、セラビミアは話を続ける。


「ねぇ、知っている? この空中都市が廃墟になった原因に初代ジラールも絡んでるんだよ」


 知らねぇよ。


 実家にも伝わってない話だし、初耳だ。


「いや。知らない。何で滅んだんだ?」


「街を見学してから教えてあげるよ」


 だったら、そんな話題を振るなよ。


 セラビミアのテンションが高いせいか、今まで以上に振り回されているように感じる。


 どっと、疲れが出てきた。


「うふふ。ごめんね。その代わりと言ったらなんだけどさ」


「ん? なんだ?」


「空中都市で眠っている魔物を解放してみない?」


 たしか地上で廃墟を見たとき、空中都市に魔物がいると言っていたな。


 魔物すらコントロールして世界を支配していたようだ。


 今の世界より技術が進んでいる。


 ロストテクノロジーってヤツなんだろう。


 俺も手にい入れたいなと、思ってしまうほど羨ましい話である。


「魔物を解放してどうするんだよ。国でも滅ぼすのか?」


「レックスが抹殺できるなら、後はジラール男爵の好きにしていいよ。私は特等席で見守っててあげる」


 その言葉を聞いて強い違和感を覚えた。


 神として、セラビミアは世界を自由にイジりたいはずなのに、なぜ俺に任せようとしているのだ。


 今後、敵対するにしても、狙いを知っておきたい。


「俺が好き放題に動いて、お前の目指す完璧な世界ってのに近づくのか? この世界をどうしたいんだ?」


「私の考えたキャラクターが設定通りに生きて、死ぬこと……だったけど、ジラール男爵と会って少しだけ考えが変わった」


「どう変わったんだ?」


 見間違えだったかもしれないが、一瞬だけセラビミアは悲しい顔をしたように思えた。


「ジラール男爵が作る続編後の世界、それを体験したい」


 セラビミアは近くで見て、ゲームを作っている感覚を味わいたい。


 主人公にはなれないからこそ、そいういう立ち位置を選んだのだろうか。


 もしそうなら、ジャック・ジラールが変えていく世界そのものが、彼女にとっての完璧な世界につながるのだろう。


「俺は男爵領で贅沢な暮らしをしたいだけだ。お前の考えには賛同できん」


「いいよ。私と一緒に行動したくなるようにするだけだから」


 リーム公爵を暗殺したときのように、罠にはめるつもりだろう。


 もうネタが割れてるんだから対策するに決まってる。


「勝手にそう思ってろ」


 空中都市を探索するために歩き出した。


 人が住んでいた場所なので罠はないだろうが、慎重に進む。


 ここにグイントがいたら楽が出来たんだがな。


 あいつ、アラクネの集落で上手くやっているだろうか。


 一緒に連れて行った男どもに、けつの穴を掘られてなければ良いのだが。


「ねー。私も連れて行ってよ」


 立ち止まって振り返る。


 頬を膨らましているセラビミアがいた。


 見た目は可愛らしいので色んな男を騙してきただろうが、俺にはきかんぞ。


 便利な知恵袋として徹底的に利用し、最後は捨ててやる。


「一緒にいたいなら俺の役に立て」


「もちろんだよ。ジラール男爵のために頑張るね」


 俺の手を握ろうとしてきたので、さっと腕を引く。


 首を動かして先に行けとジェスチャーした。


「冷たいところも良いよね。あとは野心を持てば、理想的なジラール男爵になるよ」


 まったく役に立たないアドバイスをすると、セラビミアは先に行った。


 置いて行かれないように後を付いていく。


 空中都市は山のような形になっていて、下に行くには大変だと思っていたのだが、なんとエスカレーターが存在していた。


 ゆっくりとだが下に向かって移動している。


「中腹は市街地になっていて、さらに下へ行くと眠っている魔物や古代の兵器があるよ。どこから見る?」


 空中都市に眠っているだろう、魔力封印の首輪を手に入れたい。


 どこにある?


 俺なら奴隷や捕虜、あとは犯罪者に使う。


 古代に生きていた人だとしても、似たような考えに至るだろう。


 兵器保管庫にもありそうだが、都市の牢獄や奴隷商の方が可能性は高いかもしれない。


「市街地を見たい」


「おっけー。じゃぁ遺跡探検ツアー開始だ!」


 早く行きたいのか、エスカレーターを一段飛ばしでおりはじめた。


 途中で足を踏み外し、ゴロゴロと転がっていく。


 止まる気配はなく都市の入り口まで、そのまま行ってしまいそうだ。


「勇者は体も頑丈だったから生きているだろう」


 怪我ぐらいはしているかもしれないが、別に俺は困らない。


 むしろ瀕死になっていた方が都合は良いぐらいだ。


 だから助けに行くことなんてしない。


 流れる景色を見ながら、ゆっくりと進んでいこう。

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