第217話 寒いねー!

 城の地下に小さな庭園があった。


 色とりどりの花が咲き乱れ、風に揺られている。


 中心には石で作られた魔方陣があり、ここに乗って移動するんだろうな、といった推測可能だ。


 上を見ると空が見えるので、城の中庭あたりに穴が空いているのだろう。


「……オマチシテ………オリ……マシ…………タ」


 声がした方を見ると、花を持ったアイアンゴーレムが立っていた。


 四角形を組み合わせて作ったフォルムで、錆が浮いている。


 体中に苔がついていることから、長い年月を過ごしてきただろうことがわかった。


「お前は誰だ?」


「カンリ……ニン」


「この場所を守っていたのか」


 アイアンゴーレムの目が点滅した。


 考え事をしているのか? それとも肯定の意思を表明しているのか? 表情がないので全くわからん。


「この場所の説明をしてくれ……って、おい!」


 自己紹介ができて満足したのか、アイアンゴーレムは無言で俺から離れていくと、花の手入れを始めた。


 近くにいたリスらしき動物が、足から背中を駆け上がって頭上まで行くと、口から木の実出して食べ始める。


 食べカスが落ちているのだが、アイアンゴーレムは気にしていない。


「あのリスは穴から落ちて、ここに住み着いた一族だね」


 後ろからセラビミアが解説してくれた。


「外敵がなく、食料の不安もないのであれば、あのリスは幸せ者だな」


「そう? 本当はもっと美味しい御飯があるかもしれないのに、一生知ることなく死ぬんだよ? 不幸でしょ」


「見解の相違だな」


 貴族らしい贅沢さえできれば、それ以上を望まない俺とは考えが違う。


 もっとよいものを! と考えるセラビミアの欲望に際限はない。


 どこかでブレーキをかけないと破滅の道を進むことになる。


「知ってる?」


「知らん」


「欠けてるものを埋めあえるから、性格は違う方が相性は良いみたいだよ!」


 色々と心情をぶちまけたセラビミアは、もう感情を隠すつもりはないらしい。


 抱き付こうとしてくる気配を感じたので数歩前に出て避けた。


「あの魔方陣に入れば空中都市に移動できるのか?」


「……教えない」


 ちッ。


 拗ねやがった。


 アデーレがやったら可愛いなと思うのだが、セラビミアでは面倒な女という感想しか出てこないから不思議だ。


「だったら、自分で確かめる」


 ゲーム通りの設定であれば即死罠はないだろう。


 初代ジラールの血族が同行しなければ誰も入れないのであれば、セラビミアが先回りして何かを仕掛けている心配もない。


 数歩進むと背中から「待ってー!」と声が聞こえた。


 当たり前のように無視する。


 石畳の上に乗って魔方陣の中心に立つ。


 何も起こらなかった。


 どういうことだ? 起動させるのに何かが足りないのだろうか。


「魔力を流し込まないとダメだよ。それで、血族だと認証するから」


 慌てて俺のそばに来たセラビミアが説明してくれた。


「そんな認証方法がるんだな」


「空中都市の入り口を管理する人として許された権限だね。ジラール家は、少しだけ特別な設定なんだよ」


「ふーん」


 ゲームの主人公であれば、特別な設定の一つや二つあっても不思議ではないので、驚きはなかった。


 管理人として生きていただろうご先祖様のことを考えながら、石畳に手を置いて魔力を流すことにした。


「光ったな。これで起動したか?」


 彫り込まれた魔方陣が青く光り、ブーンと起動音を出した。


 徐々に明るさは強くなっている。


「うん。起動したね。この後は空に行くから。気をつけね」


 セラビミアが、また抱き付いてきた。


 今度こそ、うるさいと言って振りほどこうとしたのだが、浮遊感を覚えて足元を見る。


 なんと眼下には城があった。


 転移とかじゃなく、物理的に上昇するのかッ!!


 しかも風よけみたいな機能は存在しないようで、髪が激しくなびき、顔の皮膚が強く引っ張られているように感じる。


「これから、どこにいくんだ?」


「何を言ってるの? 聞こえなーーい!」


 楽しそうに笑いがやがって。


 叩き落としたいのだが、力では勝てないのでそのままにしておく。


「クソッ!」


 制作者のくせに使えない!!


 こうなるんだったら、先に聞いておけば良かった。


 雲を突き抜けると上昇は止まり、今度は横に移動する。


 温度調整もされてないので、ものすごく寒い。


 必死に耐えていると、デカい岩のように見える浮遊物を発見した。


 あれがセラビミアの言っていた空中都市なのか?


 島が浮かび上がったような形をイメージしていたのだが、どうやら山みたいに高低差の大きい場所らしい。


 山頂部分が光っており、俺たちはそこに向かっているみたいだ。


「寒いねー!」


「勇者の力で何とかならないのか?」


「できるけど、しなーい!」


 俺の声、聞こえているじゃないか。


 さっきからテンションが上がりすぎだぞ。


 それほど、ここに来たかったのだろう。


 話が通じる状況ではないので、口を閉じて黙ることにした。


 しばらくの間、流れる景色を見ていると山頂が近づいてくる。


 地下で見た魔方陣と同じものが置かれていて、周囲には柱が数十本、規則的に並べられていた。


 そのうちのいくつかは途中で折れていて、空中都市が廃墟になっていることを物語っているようだ。


 ここが俺の祖先、初代ジラールが住んでいた場所で、セラビミアが行きたがっていた場所。


 どんなものが眠っているのか楽しみである。

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