第208話 失礼しま……

[書籍化]悪徳貴族の生存戦略~領地…208話目


第208話 失礼しま……

「本当に断って良いの? 私が知っている遺跡には、強力な武器もあるんだよ」


「そんなんで俺が話に乗ると思うのか?」


 と言いつつも、気になるのは事実だ。


 不気味な能力を持つレックスやセラビミアに対抗する手段は欲しいからな。


 他貴族からの嫌がらせに対抗できる力は欲しい。


 圧倒的な武力が手に入るのであれば、どんなに良いことだろうか。


 セラビミアすら俺の命令に従うしかなくなる。


 そうすれば、この国を支配したのと同じ状態になるだろうな!


「そこまで言うなら仕方がないなー。ジラール男爵を助けた報酬は、アデーレとユリアンヌからもらうことにしようかな。体で支払ってもらうのも……」


「おい! あの二人は関係ないだろ!」


「あるよ。お・お・あ・り。だって、彼女たちが私にジラール男爵を助けてって、お願いしてきたんだから」


 あいつら、俺を助けようとして動いていたのか。


 何もせずに待っているだけだと思っていたから意外だ。


 アデーレとユリアンヌが依頼してセラビミアが動いたのであれば、リーム公爵の暗殺に関与している線は薄い……ってことはないか。


 アラクネの集落にいたことだし、直接手を下すことはなかっただろうが、タイミングが良すぎるのも事実だ。


 短期間で犯人を捕まえ、王家の書状をもって来れたのだから、舞台裏で暗躍していても不思議ではないのである。


「私の言いたいことわかるでしょ?」


 気持ち悪い声を出しながら近寄ってきた。


 このの誘いは断りたいのだが、セラビミアの矛先が嫁には向いて欲しくない。


 クソ。


 これだから大切なものなんて、増やしたくはなかったんだがな。


「遺跡ツアーには参加してやる。だから、絶対にアデーレとユリアンヌには手を出すなよ? それは約束しろ」


「断ったら?」


「この場で斬る」


 魔力で身体能力を強化しながら、ヴァンパイア・ソードを抜く。


 切っ先をセラビミアの眼前に突きつけた。


「勝てると思っているのかな?」


「勝てる、勝てないじゃない。俺が俺らしく生きるためにやるんだよ」


 贅沢な生活を目指すのも、二人と結婚するのも、敵を容赦なく殺すのも、すべては俺のためだ。


 賢い人であれば、セラビミアに従って生きていくとは思うが、そんなくだらない生き方はしたくない。


 偶然手に入れた二度目の人生なんだから、邪魔なヤツらは叩き潰すつもりである。


 デュラーク男爵みたいにな。


「いいね。本当にいい。そそるよっ!」


 頬を赤くし、潤んだ瞳で見つめてきた。


 なんだこいつ、イジメられると喜ぶタイプかなのか?


「今すぐ、お前の体を斬り刻んで良いんだぞ。血を吸い尽くしてやる」


「そして、ジラール男爵と一つになるんだね」


 ダメだコイツ。


 話にならない。


 死んで一つになるなんて最後を求めるんじゃない! 俺は嫌だ!


「断る。俺はお前に興味はない」


 はっきり言っても、セラビミアは落胆していないようだ。


 むしろ、楽しんでいそうだから困る。


 歪んだ性癖を持ちやがって。


 クソゲーを作るだけはある。


「残念。でも私はあきらめないからね!」


 ヴァンパイア・ソードの刀身を素手で握ると、セラビミアの手から血が流れた。


 血を吸えと訴えかけてくるような、怪しげな笑みを向けてくる。


「手を離せ」


 しばらく見つめ合い、セラビミアが軽く息を吐いてから手をどけた。


 血がしたたり落ちてソファの染みになる。


 リーム公爵の屋敷を汚してしまったが、誰も気にはしないだろう。


 ハンカチを取り出してヴァンパイア・ソードについた血を拭い、鞘にしまう。


「俺はジラール領に戻るが、お前はどうする?」


「自分の領地に戻って様子を見てから、遊びに行くよ」


「わかった。合流したらすぐ、遺跡に案内してくれ」


「は~い」


 絶対にアデーレとユリアンヌには会わせないと決心すると、一人で部屋を出て、領地に帰る準備を始めた。


◇ ◇ ◇


 ジラール男爵が部屋から出ていった後、私は持っていた回復ポーションを手にかけて、傷を癒やした。


 立ち上がってソファを見る。


 ちゃんと血の跡が残っているので、あえて服を乱して時間を潰していると、妊娠したメイドがドアを開けた。


「失礼しま……」


 私を見て途中で言葉が止まり、ドアを閉めようとする。


「大丈夫。もう終わったから」


 安心させるように笑顔を作ってから、乱れた服を直す。


 メイドは中に入ってくると、私をチラチラと見ながらも清掃を始めた。


 テーブルの位置を直して、ソファに視線が移る。


 少しだけ動きが止まったけど、すぐにクッションを外した。


 血で汚れた変わりを持ってこようとしているのか、部屋から出ていく。


 これで、私とジラール男爵がこの部屋で何をしていのか、色んな噂が飛び交うはず。


 関係を持ってしまった、なんて想像してくれれば、私を逃がさないように責任を取らせようとするでしょう。


 周囲の圧力から逃げられるかな?


「絶対に逃がさないからね」


 この世界で女が独身を貫くのは難しい。


 周囲からの圧力や小言が多いのから、嫌になってくる。


 黙らすために結婚するのであれば、私が作ったキャラクターではなく、本物の人間――ジラール男爵となら結婚してあげてもいい。


 ジラール男爵だって元勇者の力を使えるようになるんだし、悪い考えではないと思うんだけどな。


 ジラール男爵が遺跡で手に入れた物を使えば、いろんな未来がつかみ取れる。


 いったいどんな結論を出すのか楽しみだなぁ。

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