第200話 別の人を頼ってください

「私が見つけた遺跡に、ジラール男爵と二人で探索したいんです。それを許してくれるのであれば協力しましょう」


「その遺跡は危険なんですか?」


「誰も入ったことがないのでわかりません」


 要望を伝え終わると二人とも黙ってしまった。


 私以外に助けられる人なんていないんだから、悩めるほど余裕があるとは思えないんだけど。


 しかたがないけど、現実というのをもう少し教えてあげようかな。


「今回の事件は大きな騒ぎになっています。貴族は、ジラール男爵と関係を切るために動いていることでしょう。味方として動いてくれる人は私以外にいると思いますか?」


 元々、ジラール家は他貴族との交流が薄かった。


 さらに今回の事件が起こったのだから、助けようと思うお仲間はいないんですよ。


 そのぐらい、二人だって分かってるから、


「……セラビミア様だけです」


 認めたくないだろうけど、認めるしかないんだよね。


 ちゃんと私の思い通りに動いて偉い。


「だったら悩む必要はあります? 正直なところ、私だって今回は手を引きたいと思っているほどですよ」


 ちょっと脅しただけで二人の顔色がさーっと青くなった。


 わかりやすくて可愛い。


 君たちは素敵なキャラだよ。


 首や色んな所を舐めてあげたい……って、油断してたら体の方に気持ちが引っ張られてしまったみたい。


 ヒロインを寝取るために女好きな設定にしたんだけど、クセが強すぎたかなぁ。


 まぁ、女の子は大好きだから問題ではないんだけどね。


 早く二人を手に入れたいな。


「セラビミア様でも助けられないのですか?」


 アデーレにしては珍しく、絞り出すような声だった。


 犬耳がぺたっと頭について元気なさそうなところが可愛い。


 縋ってくるような顔をされたら、イジメたくなっちゃう。


「勇者であっても公爵家当主の殺人をなかったことにはできません。私にできることは、ジラール男爵の代わりになる容疑者を用意するぐらいですね」


「それは、どいうことですか」


 わかっててアデーレが聞いてきたので、ちゃんと説明してあげるね。


「ジラール男爵の代わりに死んでくれる人を用意する、という意味ですよ」


 あえて悪く見えるように嗤ってみせると、二人は同時に頬を引きつらせた。


 汚い手を使わないとジラール男爵は助けられないと知って、どんな決断をするのかな。


「私は、どんな手を使っても旦那様を助けるべきだと思います」


 予想できたことだけど、ヒルデから教育を受けたユリアンヌは、貴族の汚い部分も受け止める覚悟はできていたみたい。


 力強い目で言い切った。


「アデーレはどうかな?」


 私が聞いてみても黙ったまま。


 ずっと考え込んでいる。


「誰かを犠牲にしないと、ジャック様は助けられないんですよね?」


「ここまで事件が大きくなってしまったのであれば、王家の面子を保つためにも犯人は絶対に必要です」


「だったら私が――」


「自己犠牲の精神は嫌いじゃありませんが、アデーレさんではダメです」


「どうしてですか?」


 一途な想いが伝わってくる純粋な目で、ぐちゃぐちゃに犯したくなってしまう。


 他人のものを奪い取るのが好きだったから、『悪徳貴族の生存戦略』では寝取られ展開をたくさん作ったんだよね。


 ジラール男爵を奪ってアデーレやユリアンヌを絶望させるのもいいなぁ……!


 しかもその後、ポイ捨てしたらどんなに楽しいことか!


 想像したら色々と濡れてきちゃった。


 選択肢がいっぱいあって困っちゃう!


「婚約者がリーム公爵を暗殺したとなれば、ジラール家も制裁されるからです。それほど婚姻というのは、重いものなんです」


「だったら、私とジャック様が結婚することを隠せば……」


「アデーレさんがジラール男爵と結婚する話は、私の耳にまで届いています。いまさら隠し事はできません」


 考えが甘い。


 側室とはいえ貴族の一員になるのだから、家を背負っている意識を持たなきゃ。


「提案を受け入れられないなら、別の人を頼ってください」


 もう逃げ道はない。


 さ、早く決断しよっ!


 ちょっと機嫌悪そうな顔でもすれば、さらに追い詰められるかな。


「ま、まってください!」


 引いてみるとユリアンヌが慌てて叫び、アデーレの肩に手を置いた。


「旦那様と見知らぬ人、どっちが大事だなの?」


「ジャック様に決まっています」


「だったら答えは決まってるよね?」


 お互いの目をじっと見て黙った。


 正妻と側室のケンカが見られるかな?


 結婚前に亀裂が走ったら楽しそう!


 リーム公爵を殺して良かったなぁ。


 設定が暴走したのは許せないけど、あの豚は良い仕事をいっぱいしてくれて嬉しいよ。


「……はい」


「ありがとう」


 ユリアンヌは優しくアデーレを抱きしめると、私を見た。


「旦那様が助けられるのであれば、私たちと関係のない人が犠牲になってもかまいません。どうか助けていもらえないでしょうか」


「良いですよ。ただ、これは取引です。ちゃんと約束は守ってくださいね」


「もちろんです。私の命にかけてでも旦那様を説得いたします」


 計画通りに進んで笑いが止まらない。


 楽しませてくれたし、ちゃんとジラール男爵を解放してあげなきゃね。

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