[書籍化]悪徳貴族の生存戦略~領地を荒らしていた両親を昏睡させて追放したら、有能領主になってました。破滅フラグを叩き折り贅沢三昧な暮らしを目指す~
第154話 ジラール男爵が引き受けてくださるのですか?
第154話 ジラール男爵が引き受けてくださるのですか?
今日はルートヴィヒや兵を連れて、領地の視察をしている。
各村に泊まってじっくりと現場を見るため、身の回りの世話をする人が必要だ。
といった事情もあって、ルミエとメイド見習いのイナも同行していた。
最初に訪れた第一村は他の領地との窓口となっていることもあって、人の往来が増えているようだ。
行商人や護衛の冒険者が中心であるものの、たまに旧デュラーク領から逃げ出してきたと思われる平民の姿もある。
こいつらの家はなく無職なので、受け入れるのであれば手助けをしないと、野盗になってしまう。
要は歓迎されない客、迷惑な存在ってわけだ。
ルートヴィヒと十人の兵に村の警備を任せると、俺はルミエとイナを連れて村長の家に入った。
◆◆◆
「わざわざお越しいただき……」
「前置きは不要だ。さっさと本題に入るぞ」
村長は五十を超えたじじいであり、無駄話したい相手ではない。
挨拶を強引に打ち切ると用意されていた椅子に座る。
正面には村長、俺の後ろにはルミエとイナが立つ。
部屋は狭く、生活に必要な物以外は一切ない。
村長の妻や子供は隣の部屋で待機しているらしく、姿は見えなかった。
「イナ、お茶の用意をしてこい」
「かしこまりました」
井戸から水をくむため外へ出て行った。
「先ずは村の状況を聞きたい。人が増えているように見える。何かトラブルは起こっているか?」
「商人や冒険者は金を落としてくれるので我々も歓迎しているのですが、隣領から逃げ出した領民が問題になっています」
やはり、そうなったか。
この目で現状を見ているので、第一村がどこまで困っているかは予想できているはずだ。
「逃げたヤツらか。何人いる?」
「把握しているだけで三十人ほどです」
村人の五分の一ほどか。
多少の備蓄はあるといえ、食料を分けるのも難しいだろう。
しかも数が多い。
暴動が起こったら村を乗っ取られる可能性すらあるし、俺は鎮圧のために虐殺をするしかなくなる。
時間と金が大量に消費されてしまう。
それだけは避けたい。
セラビミアの所に送りつけるか?
いや、それは筋が悪いだろう。
ヤツらは帰る場所がないから、ジラール領に逃げてきただけである。
素直に従うとは思えず、必死に抵抗するはず。
兵を動かすだけでも金はかかるので、極力戦闘行為は避けたい。
であれば、結論は一つだ。
「ヤツらに仕事を斡旋して、生活できるようにサポートする必要があるな」
自立できるようになれば、労働力として期待できる。
幸いなことに文化や言語は同じだから、衝突するようなことは少ないだろう。
「ジラール男爵が引き受けてくださるのですか?」
面倒事がなくなると理解したようで、村長は嬉しそうに言った。
「もちろんだ。そのために兵を連れてきている。明日の朝、広場に集合するよう伝えておけ」
兵がいるのだから素直に従うだろう。
町まで移動させたら男は日雇いの仕事を斡旋する場所に行かせるか。
肉体労働だし大変なことばかりだと思うが、普通に生活できる程度の金は手に入る。
身寄りのない子供は孤児院に入れて、俺がいかに素晴らしい領主なのか理解させ、忠実な兵として育て上げよう。
高齢者は、一番使い道がないんだよな。
生産性がないからなぁ……事故にあってもらうか?
人数次第では消えてもらうことも考えよう。
「お茶をお持ちしました」
テーブルにお茶の入ったコップが二つ置かれた。
イナが水から用意したので毒は入ってないはず。
念のため匂いを嗅いで、少しだけ口に含む。
うむ、異変はない。
無防備な村長は一気に飲み干したようだし、大丈夫だろう。
俺もお茶を飲んで喉を潤す。
苦みが口の中いっぱいに広がって、吐きそうになった。
「不味いな」
「も、もうしわけございませんっっっっ!!」
勢いよく頭を下げたイナは、ゴンとテーブルに頭をぶつけた。
「痛い~~」
涙目になりながら顔を上げて、おでこをさすっている。
村では紅茶なんて飲めないので薬草を使ったマズイお茶が定番だ。
俺は事実を言っただけで他意はなかったのだが、イナは不興を買ったと勘違いしたみたいだった。
「二人とも下がって良いぞ。寝床の準備を頼んだ」
命令を聞いたルミエは、イナの首根っこを掴んで出て行った。
近くで俺専用の天幕が作られているはずなので、ベッドの準備をしてくれるはずだ。
「それと、もう一つ聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「領地のことを不自然に聞き回っているヤツはいないか? もしくはお前たちに馴れ馴れしく接してくるヤツなど、気になることがあったら教えてくれ」
混乱に乗じて諜報員が入り込んでいる可能性を懸念しての発言だ。
領内の掌握に忙しいセラビミアが送ってくるとは思っていないが、他の領地から派遣される場合はある。
特にデュラーク男爵を実力で打ち破った俺は、要注意者として気にされていることだろう。
「そんな怪しいものは……一人だけいましたな」
「ほぅ。どんなやつだ?」
「商人と言っておりました。ジラール男爵と知り合いと言っており、町で店をかまえたいと……」
「誰だソイツ。俺の名前を勝手に使うなんて許せんな」
「そ、そうですよね。許せませんとも」
俺の怒りを感じ取ったようで、村長は怯えながらも同意した。
「案内しろ。俺が見極めてやる」
諜報員だったら叩ききってやらなければならんからな。
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