第120話 やぁ、元気そうだね
修繕中の橋を警備するため、アデーレが俺の私兵を連れて出発した。
ルートヴィヒは屋敷を守る仕事があるので、お留守番だ。
アデーレには、敵が現れてもジラール領に入らない限り反撃はするなと伝えているので、仮に橋が壊されても手は出せない。
俺が行くまで被害は出続けてしまうが、こればかりはしかたがない。
きっかけを作るまでは、守りに徹するしかないのだ。
明日には俺も橋の様子を見に行く予定なので、執務室で急ぎ、書類の処理をしている。
物価が上がりつつある状況ではあるが、少ないながらも行商人が来るようになったので、これ以上は悪化しないだろう。
ただ、改善もされないため引き続き優秀な商人は集める予定である。
特に『悪徳貴族の生存戦略』で重宝したハイナーは、必ずコンタクトを取りたいのだが、目撃証言がないんだよなぁ……。
そろそろ王都からジラール領に逃げ出してくる頃なんだが。
まぁ、焦っても仕方はない。
領地は改善されつつあり俺の生活は豊かになっているので、もうちょっとで望んでいた生活ができるから、焦る必要はない。
死に体だった領地がここまで改善したのだから、俺はよくやったと言って……ッ!
背後から風を感じた。
窓が自動で開くことはない。
ガラスが割れた音は聞こえなかったので、結論は一つ! 侵入者がいるのだ!
急いで立ち上がると目の前のデスクを飛びこえて振り返る。
「やぁ、元気そうだね」
勇者セラビミアが、小さく手を振りながら立っていた。
暗殺者だと思っていたので最悪のケースではないが、それに近い状況だな。
「不法侵入だぞ?」
正式な場でもないので、敬語は抜きだ。
俺の領地を狙っているんだから、当然の態度だろう。
「そうだねぇ。追い出す?」
「……用件を言え」
追い出したところで、今度は正面から乗り込んでくるだけだ。
だったら、最初から何の用があるのか聞いた方が良いだろう。
「ジラール男爵から連絡をもらったから来ただけなんだけどな……」
確かにセラビミアには手紙を送った。
デュラーク男爵が俺の領地に攻めて戦いになった場合に、中立的な立場から判断してもらえる人物が欲しかったからだ。
しかし、呼んだのはセラビミアではない。
「俺は“緑の風”に頼んだんだが?」
勇者の仲間ともなれば発言力は高くなり、貴族であっても無視はできない。
二人がいれば充分であったんだが、なぜか勇者セラビミアが来てしまった。
「楽しそうな話だったから、私も参加したんだよね」
「そんな理由で周囲が納得するのか?」
「国王は嫌そうな顔をしたけど、貸しがあったからね。今回は納得してもらったよ」
王家が勝手に動くことを阻止すると思っていたんだが、どうやら計算が狂ってしまったようだ。
「だったら、ここじゃなくて橋の方に行けよ」
「冷たいなぁ」
ニコニコと笑いながらセラビミアがゆっくりと歩き、俺の目の前に立った。
何かを企んでいそうな目をしてるな。
「私がね、ジラール領が欲しい理由を少しだけ教えてあげる」
「ほう、それは興味があるな」
エンディング後の話は知りたかったので、聞けるのであれば危険を冒す価値はあるだろう。
何で話す気になったのかは知らんが、教えてくれるのであれば拒否しない。
「ジラール男爵は、『悪徳貴族の生存戦略』に続編があるのを知っているか?」
続編、だと!?
俺が購入したときは、続きなんて出てなかったぞ!
どういうことだ!?
「その様子だと、何も知らないみたいだね。私とジラール男爵では、死んだタイミングが違うのかな?」
その可能性は考えていなかった。
ゲーム制作者であると思われるセラビミアと、俺の死んだ時期が同じとは限らない。
俺より後にセラビミアが死んで、先に転生するなんてパターンもあり得るだろう。
時空のねじれみたいなヤツだ。
「初代の墓は、その続編に出てきたというのか?」
「お、隠すつもりはないんだね」
「まあな」
「いいね。協力的な態度は、好感度が爆上がりだよ」
持っている知識に大きな差があると分かったんだから、ゲーム知識やこの世界で発見したことを素直に伝えて、できる限りの情報を引き出すべきだ。
ニヤついているセラビミアはムカつくが、ここは我慢してやろう。
「で、ジラール男爵の質問だけど、答えはイエスだね。王国を統一した後、開拓の進むジラール領から初代の墓が見つかって騒動が起きる、というのが続編の導入だよ」
「導入と言うことは、その後はもっと大きな発見があったのか?」
初代の墓だけで続編が作れるほどのストーリーにはならないだろう。
隠された何かが出てきたはずだ。
「その通り。実はジラール領には、古代の遺跡が眠っていると分かったんだ」
「もしかして古代は超文明だったみたいな設定か?」
「うんうん、そうだよ。定番の展開を理解してくれてて助かるね。しかも保存状態は良く、すぐに使える施設がいっぱいあるというおまけ付き。隣国が攻め入ろうとするぐらいの価値は、ある物なんだよねぇ」
さらっと爆弾発言をしやがった……。
続編は、ジラール領を狙う隣国との戦争かよ。
古代遺跡が見つかっただけで攻め入られてしまうのであれば、土地を持っているだけで危ないな。
しかもセラビミアは、その古代遺跡を狙っているんだから、存在を隠し続けるのは難しいだろう。
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