第112話 内容は?

「討伐したと言って首を渡しただろう?」


「はい。そちらは、すでに対応済みです。使者の話によると、他にも仲間がいるから捜査に協力して欲しいとのことです」


 嘘だろうな。


 俺の領地に私兵を入れる口実として言っているだけだろう。


 断れば、また野盗をジラール領に送って荒らしてくるということも考えられるが、だからといって今回の話を受け入れるなんて論外だ。


「断る。使者には帰ってもらえ」


「よろしいので? 妙な噂を流されるかもしれません」


 デュラーク領から逃げ出した野盗がジラール領にいると、意図的に噂を流す危険性を言っているのだろう。


 ケヴィンの言いたいことは分かるが、対抗処置ぐらいは考えている。


「もし変な噂が流れたら、我が領地に訪れようとする行商人に護衛を付ける。余計な出費にはなるが、デュラーク男爵の私兵を領内に入れるよりかはマシだ」


 やりたくはなかったが、行商人には特別に俺の私兵を無償で貸し出す方法だ。


 屋敷の守りが薄くなり訓練の時間が減ってしまうが、必要経費として割り切るしかないだろう。


「デュラーク男爵についてお話があります」


 ヒルデが俺の名前を呼んで会話に割り込んできた。


 そういえば彼女は、デュラーク領に長く住んでいたな。


 俺が持っていない情報を提供してくれることを期待して、話を聞くと決めた。


「内容は?」


「デュラーク男爵は大型魔物の購入や引き抜き工作によって、財政が圧迫しております。借金の返済期間も近づいており、長期戦は望んでおりません」


 大型魔物は……レッサー・アースドラゴンだな。


 購入費用は、貴族だったとしても懐をかなり痛めたことだろう。


 さらに魔物用の特別な奴隷の首輪を最低でも二つ用意した上に、俺の領内を荒らすために色んな工作もしてきた。


 領地が隣にあることからわかるように、デュラーク領だって王都から見れば田舎で、財政は俺と大差ない。


 嫌がらせにかかった費用を計算すれば、自ずと相手の懐具合が分かる。


 ヒルデの言っていることは正しく、デュラーク男爵は時間がないと考えて間違いないだろう。


 第一村から延びる街道を使えば、デュラーク男爵以外の領地にも行ける。


 物流が完全に止まっているわけではないので、我慢比べなら俺の方が圧倒的に有利だろう。


「デュラーク男爵に時間がないのだったら、待つのではなくヤツが嫌がることをしてやろう」


「それがよろしいかと思います」


 夫が仕えている相手だというのに、ヒルデは微笑みながら肯定した。


 彼女はフロワ家の一員のままだから、デュラーク領が傾くのは困るはずなんだが……少し探りを入れてみるか。


「良いのか? ヨン卿が苦境に立たされるかもしれんぞ?」


「夫は覚悟した上で仕えているので問題ございません。私も同様です」


「娘と夫が戦うことになってもか?」


「もちろんです。どのような結果になろうと、恨むことはございませんし……」


 一呼吸置いて、ヒルデは真っ直ぐな瞳で俺を見る。


 笑顔ではなかった。


「ジラール男爵ならユリアヌが悲しむことをしないと、信じておりますから」


 自分たちより娘の心配をしているような発言だな。


 俺を信じるなんてバカな女だと思いつつも、この状況は利用できそうなので指摘することはない。


「努力はする。それ以上の約束は出来ん。それでいいな?」


「もちろんでございます。夫を使い捨てにしたデュラーク男爵が破滅する姿を楽しみに待っております」


 おお、怖い女だ。


 目が笑っていない。


 ヨン卿が騙されたことを許せないでいるようだ。


 愛情が深い……と言っていいのか分からんが、家族を大切にしているのは間違いないだろう。


 とはいえ、必要であればヨン卿は倒すし、ユリアンヌを犠牲にすることも厭わない。


 矛先が俺に向かないよう、デュラーク男爵の責任にするけどな。


「それは俺も、是非見たいな」


 俺とヒルデは同時に嗤った。


 共通の敵であるデュラーク男爵の破滅を願ってな。


 話はまとまったので、待っていたケヴィンを見る。


「命令を変える。考えたいと言って、使者にはゆっくりと滞在してもらおう。ギリギリまで粘り、最後にはデュラーク男爵と話し合いがしたいと言って日程を調整する」


「時期はいつにいたしますか?」


「俺は忙しい。早くても半年後にしておこう」


 ケヴィンの口角が上がって、悪人に見える。


 無駄に時間を使わせる作戦に気づいたのだろう。


「かしこまりました。使者を歓迎した後に、そうお伝えいたします」


「任せた。後で俺も顔を出す」


「お伝えしておきましょう」


 頭を下げてケヴィンは執務室を出ていった。


 これでヒルデも共犯だ。


 デュラーク男爵が破滅するまで付き合ってもらおう。


 夫であるヨン卿が死ぬことになってもな。


「さて、話は終わりだ。屋敷の説明はルミエに聞いてくれ。ユリアンヌの教育、頼んだぞ」


「お任せ下さい。ですから、ジラール男爵も……」


「分かっている。努力は、する」


 デュラーク男爵が抱えている借金については、グイントに依頼して調査はしてもらっている。


 具体的な情報が手に入るかは分からんが、時間を稼いでヤツから攻撃をしかけさせるという方針は変わらない。


 しばらくは、チクチクと嫌がらせをして楽しむとするか。

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