第89話 次の人を見つけて、殺さなきゃ

「師匠なら出来る! 間に合う! 俺を失望させるな!」


 私を認めてくれたジャック様に、そんなことまで言わせちゃった。


 師匠として失格なのかもしれないけど、後悔や反省は後回しにしないと。


 オーガやトレントと戦っているジャック様を信じて、私は人型の影の術者を探すことにした。


 隠れて様子を見ているに違いないと思う。


 卑怯なヤツら。


 絶対に私が見つけ出して、殺してやるんだから。


 木の後ろに隠れてしゃがむと目を閉じ、耳を澄ます。


 オーガの叫び声や、ジャック様の息づかい、ドライアドが魔物に命令する声など、色んな音が聞こえてくる。


 雑音が多すぎて私の耳じゃ、隠れている人の特定はできない。


 木々の匂いが濃すぎて鼻も使えないから、遠くから探すのは難しそう。


 あの魔物の数にジャック様がどこまで耐えられるか分からないし、迷っている時間はない。


 急がなきゃ。


 目を開いて立ち上がる。


 ジャック様の様子を見ると、ちょうどオーガを倒し終えたところだった。


 血を吸ったみたいだけど、ヴァンパイア・ソードに乗っ取られているようには思えない。


 武器の持ち主として、しっかりとコントロールしている。


 やっぱりジャック様はすごい!


 負けてられないと思っちゃう。


 信じてくれたジャック様に報いるため、そして師匠としてのプライドが私を奮い立たせてくれる。


「人型の影は動いてない。攻撃に参加させれば、ジャック様を追い詰められるのに?」


 ささいな違和感だったけど、言葉に出してみたらどんどん大きくなっていく。


 動かせない理由があるとしたら、どんなことだろう?


 私が人型の影を操作する立場になったとして、考えてみる。


 戦闘している場所から離れて、安全な場所から監視できる場所にいるはず。


 周囲は木に囲まれていて視界が悪いから、人型の影を少し動かしただけで姿は見失ってしまう。


 ……だから動かせない?


 人型の影が見える距離でかつ、動かしたら見えなくなるような場所……なんとなくどこにいるのか見えてきた!


 今日の私は冴えている!


 ジャック様が信じてくれているからだっ!


 おおよその場所が分かったので相手にバレないように、木を登ると枝から枝へ飛び移って移動をする。


 次第に隠れている人のにおいが濃くなり、そっちの方に向かうと黒い水晶を持っている集団が見つかった。


 けど問題はあって、操作している人は一人しかいない。


 位置がバレても大丈夫なように、バラバラに配置されているのかな?


 護衛は三人ほどで、合計四人。


 この程度の数なら、すぐに片付けられる!


 ジャック様から貸していただいたヒュドラの双剣を握る。


 出会ったときと同じように、不思議と手に馴染んじゃう。


 私のために創ったんじゃないかと思ってしまうほど、形や大きさがちょうどいいので、使い勝手は良さそう。


 武器に魔力を流すと刀身に液体が浮かぶ。


 劣化したヒュドラの毒が出てきたのを確認すると、木から飛び降りた。


「おまっ――」


 声を上げそうだった護衛の男に、ヒュドラの双剣を突き刺してからすぐに走り出す。


 狙いは、黒い水晶を持った女!


 前傾姿勢になって、すべるようにして走る。


 途中で護衛の二人が剣を振り下ろしてきたけど、動きが遅い!


 当たる前に通り過ぎると、驚愕した顔をしている女の首にヒュドラの双剣を突き刺す。


 毒がなくても致命傷なのは確実。


 剣を抜いてから振り返り、残っていた護衛の二人をそれぞれ一刀で斬り捨てる。


 致命傷は与えられなかったけど、毒が回って喉を押さえて泡を吹きながら死んじゃった。


 恐ろしいほどの性能……。


 剣の腕が鈍ってしまうのを心配してしまうほど。


 貴族様の宝物庫に保管されてて不思議ではないほど魅力的な武器だし、それを私に使わせてくれる事実に、ジャック様から深い愛情を感じる。


 大切な指輪ももらったし、ぽっと出てきたユリアンヌより、私の方が上。


 絶対に、上だ。


「次の人を見つけて、殺さなきゃ」


 そうだ。


 余計なことを考えている暇が無かったんだった。


 逃げられる前に仕留めないと!


 人型の影が一つ消えたことで、動揺する声や息づかいがはっきりと分かるようになった。


 もう私の存在はバレているだろうから、速度を優先するために走って移動する。


 黒い水晶を持った男が見つかったので、足は止めずに護衛の間をすり抜けて先に進む、ヒュドラの双剣で突き刺す。


 こいつも毒で死ぬから倒れるのを見届ける前に、振り返って護衛達を次々と斬り捨てる。


 弱い。


 攻撃することすらできずに、傷を受けて毒が回って藻掻き苦しんでいく。


 ジャック様の領地を荒らしたんだから、当然の報いだよね。


 本当はもっと苦しめたかったけど、殺さなきゃいけない人はたくさんいる。


 耳を使って音を拾うと、すぐ近くにいると分かった。


「あそこだ」


 幹が途中で二つに割れている木の裏。


 そこに最後の一人がいる。


 背後が取れるよう、静かに入って移動する。


 護衛が五人と黒い水晶を持った老人が一人、予想通りの場所にいた。


 私が殺し回っていることには気づかれていて、護衛は円を組むようにして周囲を警戒している。


 他よりもちょっと強そうに見えるし、少しだけ時間がかかりそうだけど、負けはしない。


 殺しに行こうと思って一歩踏み出す。


「許さないッ!!!!!」


 気にいらない女、ユリアンヌが、ジャック様が戦っている広場に乱入して、魔物と戦っている姿が見えた。


 え、なに?


 勝手にジャック様の命令を無視したんだったら、私の方が許せないんだけど!


 さっさと隠れているヤツらを殺して、合流しなきゃ!

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