第65話 こいつは、男だぞ?

「お前たち! 何をしている!!」


 領主として威厳のある声をだしながら、兵に向かって叫んだ。


 まさか俺が来るとは思っていなかったようで、振り向いたヤツらは驚いた顔をしていた。


 無言で集団の中心に進むと、俺を避けて道ができる。


 胸ぐらを捕まれているグイントと兵の姿が見えた。


 取っ組み合いをしていたのか分からんが、服は乱れており、素肌の露出が増えている。


 線が細いこともあって、不覚にも魅力的だと感じてしまう。


「なぜ、こんなことになっている?」


 怒りに震える声で言った。


 仲間にしようと思っているグイントに、手を出そうとしているのだ。


 冗談でした、なんてことでは終わらない。


 魔力を貯蔵する臓器の力を解放して、身体能力を強化する。


 俺が本気で怒っていると気づいた兵たちは、怯えていた。


「こ、これには理由がありましてッ!」


 グイントの胸ぐらを掴んでいた兵は、手を離して言い訳を始める。


 何を言うのか興味はあるので、聞いてやろう。


「言ってみろ」


「コイツが、近くの森に大型の魔物がいるだなんて、嘘を言ったからです! 何度もしつこく言ってくるから、仕事の邪魔になると説教をしておりました」


 斥候キャラとして実装されていたグイントが、見間違えるとは思えない。


 目の前で言い訳をしている兵が見落としているだけだろう。


 下水道でルートヴィヒにも実力の一端を見せていたと思っていたんだが、この兵にまでは伝わっていなかったようだ。


 後ろにいるユリアンヌとアデーレが、無言で俺を見てる。


 どのような判断を下すか、試されているような気がした。


「グイントは俺の客人だ。それを理解したうえでの発言か?」


「…………その通りでございます」


 この場で罰せられる覚悟すらあるようだ。


 誠実な性格をしているようで、俺好みの兵である。


 周囲にいる兵たちの視線も集まっていて、俺の判断を待っている。


 客人に無礼を働いたから、この兵を処刑する……のは、やり過ぎだろう。


 俺の気分はスッキリするかもしれんが、部下の話を聞かない領主といった印象を与えてしまい、他の兵やユリアンヌ、アデーレからの評価は下がるかもしれん。


「グイントは何か言いたいことはあるか?」


 とりあえず両者の言い分を聞こうと思って質問してみた。


「僕は嘘を言っていません」


 姿に見合わず、力強い声だった。


 真っ直ぐな瞳で俺を見ており、信じて欲しいと訴えているように感じる。


「それだけか?」


「はい」


「わかった」


 もう会話をする必要はない。


 結論が出たので周囲に告げる。


「グイントは斥候としての技術が非常に高い。この私が自らスカウトするほどだ」


 周囲の空気が一気に変わった。


 俺が認めるほどの能力があると分かり、グイントに文句を言っていた兵の顔が真っ青になる。


「そして俺は、お前達も訓練を続けてきた優秀な兵であることも知っている」


 グイントだけを認めるような発言を続ければ、お互いにしこりが残るのでお世辞を言ったのだ。


「お互いに優秀なのに結論が異なっているのだ。仲間内で争うのではなく、事実を確かめに行くべきだろう」


 言い合いしている時間がもったいない。


 さっさと確認して、魔物が本当にいたら全滅させればいいのだ。


 トップの俺が結論を下したこともあって、誰も否定できない。


「グイントは魔物がいると思われる場所まで、俺を案内しろ」


「危険です! 兵の不始末は私の責任! 現場の責任者として同行するので、ジャック様はお待ちください!」


 この俺を止めようとしたのは、ルートヴィヒだ。


 兵の失態をカバーするべく、自ら危険な場所に行くと言っている。


「魔物ごときに殺されるほど、弱くない」


 能力を強化するチャンスでもあるので、待機なんて選択をするつもりはない。


「魔物退治には私も参加するので、ご安心下さい」


 後ろからユリアンヌが近づいてきたかと思うと、一方的に宣言した。


 アデーレは俺の腕にしがみついて、一緒に行くと主張している。


「好きにしろ。だが、俺は戦うからな」


 これ以上、ごちゃごちゃ言われるのが嫌で、周囲の言葉を無視してグイントの前に立つ。


「できるか?」


「もちろんです」


 そう言って立ち上がると、グイントのズボンが落ちた。


 争っていたときに、紐が緩んでしまったんだろう。


 可愛らしいピンク色のパンツが露わになるが、すぐに手で前を隠してしまったので、股間の部分はどうなっていた見えなかった。


 こんな時に、不幸エロイベントを発生しやがって……!


「み、見ないでください~!!」


 顔を真っ赤にして泣きそうになりながら、グイントはしゃがんでしまう。


 立ち上がらせようとして手を伸ばしたら、ユリアンヌに掴まれてしまった。


「女性を辱めるつもりですか?」


 どうやらグイントが女性だと勘違いしているようで、鋭い目をして俺を非難していた。


 婚約者としてではなく、女性を守る騎士として行動しているんだろう。


 誤解させておくのも面白いかと思ったが、ユリアンヌからの評価が下がって良いことはない。


 はっきりと伝えておくか。


「こいつは、男だぞ?」


「へ?」


 口をぽかんと開いて、間抜けそうな声を出した。


 しばらくして言葉の意味を理解したようで、グイントを信じられない目で見る。


「股を触って確認していいぞ。婚約者である俺が許可する」


 どんな反応をするのか楽しみで、ニヤニヤと笑いながらユリアンヌを見る。


 俺の顔を見つめながら悩み……ついにグイントの前に立った。


「本当のことを言っているか、確認するだけです。ご覚悟ッ!」


「た、助けてーー!」


 逃げだそうとしてグイントに飛びかかり、ユリアンヌはすぐに拘束する。


 暴れる手足を押さえつけると、パンツに手を突っ込んだ。


「…………本当に、あった…………」


 パンツから手を離して、触った感触を確かめているユリアンヌがつぶやいた。


 恥ずかしそうに両手で顔を隠しているグイントを見て、この場にいる全員が同情していた。

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