第24話 気を引き締めろ
第三村にいるときは、酒を飲みながら怠惰な生活をしようと思っていたのだが、今は引き連れてきた兵士よりも激しい訓練をしている。
しかも、体が動かせなくなったらケヴィンにテントへ運ばれると、書類の束を渡されてデスクワークをさせられてしまったのだ。
静かに俺の隣で立つケヴィンは、頭なら動かせるだろ、と言いたそうな目をしていた。
コイツ、鬼か? 鬼なのか!?
抗議の視線を送っても無視されてしまうので、仕方なく羊皮紙を手に取って読む。
第三村付近の調査報告書だった。
現在、リザードマンの襲撃を警戒して、五人組の兵が交代で付近の森を巡回している。
ついでに湖の方にあるリザードマンの拠点を調査してもらっているが、異変はないらしい。
戦いの準備らしきことは進めているが、リザードマンたちに変化はない。
たまに斥候を放っているみたいで、現在は周辺地理の把握や仲間に引き込めそうな魔物を探しているのかもしれないと、書かれていた。
数は敵の方が圧倒的に多い。
今も斥候を放っているのであれば、襲撃して数を減らしておきたいな。
ついでに俺も実戦を経験しておくべきだろう。
死ぬかもしれないという緊張感があるなかでも普段通りの実力が発揮できるようにせねば、生き残れないからな。
「今日の巡回は俺も参加する。敵の斥候がいたら戦うぞ」
「あまりにも危険です。考え直していただけませんか?」
するわけないだろ。
敵を排除して贅沢な暮らしをするのであれば、力は必要だ。
アデーレは最強ではあるが無敵ではない。
強者に囲まれれば、死ぬことだってあるだろう。
なにより他人に頼り切るというのは性分に合わないのだ。
最悪、一人でも生き残れる強さが欲しい。
「断る」
疲れは取れたので、立ち上がるとケヴィンを見る。
「俺の不在時は、臨時の指揮官をやれ。第三村を必ず守れよ」
不服そうな顔をしていたのが気になったが、今は戦う力を伸ばさなければならない。
テントを出ると兵を集めて村の外に出る。
心配だと言ってアデーレはついてきたのだが、俺が死にそうになるまで手を出さないとの条件で同行を許可した。
◇ ◇ ◇
森の中は静かだった。
長い年月をかけて間伐されていたこともあって、薄暗いという感じはしない。
空気は澄んでいて癒やしの空間だと感じる。
兎や鳥などの小動物は見かけるが大型は見かけない。
近くにいる兵に聞いてみると、リザードマンに食われたと言っていた。
生態系への影響が大きい。
ただでさえ特産のない田舎の領地なんだから、自然環境ぐらい守らなければならぬ。
木こりが作ったと思われる小さな道を歩きながら、リザードマンがいると思われる湖に向かって進んでいる。
「この辺りでゴブリンと兵長の戦闘が発生しました」
兵の誰かが言った。
死体は見当たらない。
兵が回収したからだ。
名誉の戦死を遂げた兵長は、第三村の墓地に埋葬されている。
「ゴブリンの足跡はいくつもあります。最近のものもあるので、巡回コースとして今も使ってますね」
狩人の息子だといっていた兵が地面を触りながら断言した。
「気を引き締めろ」
いつ遭遇してもおかしくない状況だ。
ヒュドラの双剣を鞘から抜くと両手に持った。
ここからは慎重に動く。
先頭は狩人の息子である兵が、その後ろをアデーレ、俺、残りの兵三人が続く。
しばらく進むとゴブリンの姿が見えた。
単体で行動しているようで、先頭の兵が俺を見て判断を待っている。
「俺が行く。お前達はここで待っていろ」
司令官が真っ先に戦うだなんてバカな判断だと思われるかもしれないが、一対一で戦えるチャンスを見逃す手はない。
視線で周囲を黙らせると、ヒュドラの双剣を握る手に力を入れる。
緊張でうっすらと手汗をかいているように感じた。
三つある魔力を溜める臓器の内、下腹部だけを解放して身体能力を強化。
姿を隠すことはなく堂々と歩いてゴブリンの前に出た。
「ギャギャ!!」
俺に気づいたゴブリンは笑いながら棍棒を振り上げると、襲ってきた。
訓練通りに動けと心の中で何度か呟いてから、左手に持った剣で棍棒を弾き、右手に持った剣でゴブリンの胸を貫く。
さらに腹を蹴って吹き飛ばし、距離を取ったところで構える。
起き上がれば追撃する予定だったのだが、ゴブリンはピクリとも動かない。
「勝ったのか……?」
弱い、弱すぎる!
剣での戦いは初めてであったが、こんなあっさり勝ててしまうものなのか。
ガサリ。
草を踏む音が聞こえたので視線を前に向けると、ゴブリンが四匹もいた。
「俺がやる!」
実力が本物なのか、それとも偶然だったのか知りたい。
魔法はなし。
剣術だけで、どこまでやれるか確かめてやる!
仲間の死体を見つけて驚いているゴブリンに向けて双剣を振り下ろす。
不意をついたのか、避ける動作すら出来ずに頭が縦に割れる。
左右からゴブリンが錆の浮いた片手剣を突き出してきたので、後ろに下がって回避。
逆に頭を突き返してやった。
頭蓋骨に当たったずなのだが、抵抗感はない。
頭を貫くと、ドサッと音を立てて二匹のゴブリンが倒れる。
残りは一匹。
背を向けて逃げだそうとしたので、左手に持った剣を投擲。背中に突き刺さる。
「死ねぇ!」
走って追いつくと、剣を横に振るって首をはねた。
バックステップで距離をとり、返り血から逃げる余裕すらあったな。
「ジャック様! お見事です!」
惚れ惚れするような笑顔をしながら、アデーレが言った。
連れてきた兵は、俺の強さに驚いているようで口をぽかんと開けている。
ふふふ、ははは!!
どうやら俺は強かったようだッ!
アデーレから学んだ双剣術でリザードマンどもを全滅させたら、贅沢な暮らしをしてやる!
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