第15話 で、急ぎの話があるとか?

「商人が減っても困らん。領地がなくなるよりマシだろ?」


「もちろんでございます」


「なら、さっさと動くぞ。俺は領地を滅亡させたくない」


 貴族という立場がなくなれば、贅沢な暮らしはできなくなるからな。


 領地は存在し続けてもらわないと困る。


 それに両親はあくどいことを色々としてきたこともあり、多方から恨まれているので、領地から逃げ出した瞬間に暗殺コースだってありえるだろう。


 まだ死にたくはない。


 神の気まぐれなのかわからんが、第二だと思える人生を手に入れたんだ。


 最後まで意地汚く足掻き、生き延びてやる。


「ケヴィン、お前は冒険者ギルドに緊急依頼を出せ。細かい条件は一任するが、ヒュドラの双剣は俺が使う。報酬の候補から抜いておけよ」


 受け取り拒否されたが、宝物庫に眠らせるにはもったいない逸品だ。


 双剣の使い方を教わっているので、アデーレが必要とするまで俺が持っておく。


「承知いたしました。必ず、任務達成可能な冒険者を集めてみせましょう」


 断言したのであれば任せれば大丈夫だろう。


 人間性はともかく仕事は出来る男だからな。


 静かにケヴィンが部屋を出て行くと、また一人になった。


 攻略メモを取り出してリザードマンの逆襲クエについて確認をしていく。


 序盤であるこのタイミングなら、強力な冒険者であるエルフの姉妹もジラール領にいるはず。


 敵は大蜥蜴とリザードマン、あとはゴブリンぐらいしか出てこないので、彼女たちが仲間になれば勝率100%になるだろう。


 ケヴィンも参加させれば好感度は上がって、裏切るまでの時間を稼げるかもしれない。


◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドについた私は、すぐにギルド長との会談を取り付けた。


 ジラール家は男爵領の中でも小さく田舎に位置するため、冒険者ギルドは小規模だ。


 当然、建物も小さい。


 案内された会議室は4~5人が入れば窮屈に感じるほどのサイズで、椅子やテーブルも粗末な木製。


 座るとガタガタと音がなる。


 新しい椅子を買う余裕すらないのだろう。


「で、急ぎの話があるとか?」


 目の前で腕を組んでいる筋肉ダルマ……ではなく、ジラール支部の冒険者ギルド長メイソンである。


 高齢になって冒険者を引退したが鍛え続けているようで、戦闘能力はさほど落ちてないように見える。


「そうだ。領主から緊急依頼がある」


 領主と聞いた瞬間、メイソンの眉がピクリと動いた。


 口には出さないが、表情からして聞きたくないという雰囲気を出している。


 ジラール家の悪評は広まっているから無理もない。


 馬鹿げた依頼をしてくるのではないかと、警戒しているのだろう。


「貴族様のお遊びには付き合わんぞ?」


「安心しろ。新当主のジャック様は、まともな方だ」


「……本当か? 両親に似て息子もクズだと聞いていたぞ」


 今は二人っきりだから問題にはならないが、貴族を表立って批判すれば牢獄行きになる。


 子供でも知っているルールを破ってもいいと思えるほど、メイソンはジラール家を嫌っているのだ。


「当主になられてから人が変わった。今は仕えるに相応しい人物だと思っている」


「ほぅ……その話、嘘ではないだろうな?」


 鋭く睨みつけてきたが、この程度で怖じ気づくことはない。


 私は反撃する意味も込めて挑発するような笑みを浮かべる。


「自分の目で確認したらどうだ?」


 依頼書をテーブルの上に置いた。


 メイソンは食い入るように見ている。


 しばらくしてから腕を組んで、口開いた。


「リザードマンを中核とした魔物の集団か。数は間違いないのか?」


「ジャック様の言葉を信じるなら、な」


「お前はどう思っている?」


「書いてあるとおりの内容で間違いない」


「それほど信じられる人物なのか」


 根拠がなくてもジャック様の言葉を信じていると伝えると、メイソンはそのまま黙ってしまった。


「数はそれほどいらない。AやSランクの冒険者パーティを用意してくれ」


 リザードマンの強さを冒険者ランクに換算すると、中堅のCランク相当だ。


 最下位のEやFでは相手にはならず、Dでも数人で囲まないと勝てないほど力に差があった。


 本来であればD~Cランクを集めて依頼を受けてもらうべきなのだが、幸運なことに、ジラール領にはAランクパーティが一組いる。


 Aランクと評価される冒険者どもは人間の限界を超えているので、リザードマン程度なら難なく倒すだろう。


「ケヴィンは、緑の風のことをいっているのか?」


 エルフの姉妹でAパーティとして活動している変わり者のことだ。


 Aランクにまでなると、冒険者は活躍の場を求めて魔境に行くか、もしくは金のために王都などで依頼を受ける場合が多いのだが、緑の風は奇跡的にもジラール領を拠点にしている。


 どうやら領内にある手つかずの森が気にいったようで、彼女たちはそこを第二の故郷だと思ってくれているようだ。


「そうだ。あの風変わりなエルフの姉妹に依頼したい。報酬も十分だと思うが?」


「あの二人はもう戻ってこない」


「……どういうことだ?」


 緑の風は最後までジラール領を見捨てないと思っていたのだが、何が起こったのだ!?


「神の加護を受けた勇者が誕生した。そいつが緑の風を気にいったらしくな。強制移動させられちまったのさ」

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