第14話 明日には出るぞ。出発の準備をしておけ
「なんだ? 言ってみろ」
「第三村の近くにある小さな湖に、リザードマンを中心とした魔物の集団が発見されました」
……これはサブクエだな。
メインストーリーの合間に行うクエストで、レベルアップするための経験値や金が稼げる。
さらにサブクエに同行したキャラクターの好感度が上げられるのも魅力的だ。
好感度を上げれば裏切らなくなることもあって、『悪徳領主の生存戦略』で遊んでいた頃は積極的に参加していたのだ。
このシステムを使いこなせばルミエやケヴィンも裏切らないシナリオが発生するらしいのだが、難易度は非常に高く、裏切らないシナリオに辿り着けなかった苦い記憶があった。
「どうされますか?」
ルートヴィヒが俺の命令を待っている。
ゲームのメモにはサブクエのことも書いていたので、リザードマンのイベントは覚えている。
確か、アデーレが死んだ場合だと発生せず、生き残ったときだけ挑戦できるのだ。
殺されたリザードマンの仇を討つため、大蜥蜴やゴブリンを引き連れて第三村を滅ぼし、その勢いでこの屋敷にまで攻め込んでくる。
ゲーム序盤だというのに大量の魔物と戦わなければならず、非常に苦戦した。
地味ではあるが破滅フラグの一つとなり、本来であればもう少し猶予があったはず。
なぜか早まったようだな。
「やつらは仲間を殺されて怒り狂っているはずだ。第三村を襲ってくるだろうし、殲滅するしかないだろう」
生き残るためには戦うしかないのだ。
さっさと行動しよう。
「明日には出るぞ。出発の準備をしておけ」
「は、はいッ!」
慌てて返事をしたルートヴィヒは、立ち上がると去って行った。
これから急いで兵を集めなければいけないのだが、貧乏貴族がすぐに動かせる数は三十程度だ。
いくつか手をうっておかなければ。
口を閉じて静かにしているアデーレを見る。
「師匠、またリザードマンと戦ってくれるか?」
「もちろんです。ジャック様の領地を荒らすヤツは、皆殺しにしますね!」
物騒な言葉が飛び出したものの、アデーレは戦ってくれると宣言してくれた。
彼女が参戦するなら勝算は出てくる。
近くに控えていたルミエに木剣を渡すと、執務室に戻った。
アデーレは戦いの準備をするため自室に戻り、ルミエは木剣の片付けで不在だ。
室内には俺だけしかいないので、今のうちに攻略メモを見ることにした。
今回発生したサブクエ――リザードマンの逆襲は、総勢300となる魔物が襲いかかってくる。
内訳は大蜥蜴100とゴブリンが150、リザードマンが50で、数だけでいえば俺たちの10倍ほどだ。
ゲーム序盤で選択肢が少ない状況なのに、この差は厳しい。
同人ゲームだからこそできた理不尽な状況だろう。
商業系ならライト層がクリアできないと指摘が入って、難易度は調整されたはずである。
「ゲームの時だったら楽しめたんだが、現実になるとクソ以外の感想は出てこないな」
ここまでゲームの世界に近いんだから、セーブやロード機能ぐらいは実装して欲しかったぞ。
現実はクソというのは、世界が変わっても同じようだ。
アデーレが参戦しても勝率は50%ぐらいだろう。
敵が多いので、味方の数を増やす必要がある。
手っ取り早いのが魔物と戦う冒険者を雇うことなんだが、財政が厳しいので金が出せん。
どこの予算を削るか悩ましいところだ。
領主権限で強制的に依頼を受けさせることも可能ではあるが、反発は避けられない。
終わった後に冒険者がジラール領から離れてしまえば、また魔物襲撃のサブクエが発生したときに詰んでしまう。
「どうされました?」
声をかけられたので顔を上げると、目の前にケヴィンがいた。
集中しすぎたせいで気づけなかったようだ。
怪しく思われないように、慌てずゆっくりと持っている羊皮紙を懐にしまう。
「リザードマンの集団をどうやって倒すか考えていたのだ」
「報告にあったあれですね。敵の数はわかっているのですか?」
「大蜥蜴とゴブリンをあわせて250、リザードマンが50ぐらいだろ」
「我々の兵を集めても撃退は難しそうですね」
具体的な数字を出したことで違和感を持ったようだが、ケヴィンは指摘しなかった。
「冒険者を雇うので?」
「金が足りない。やるなら、どこかの予算を削ることになるぞ」
「それは難しいですね……」
「増税という手も使えない。最悪は領主権限を使って……いや、まだ最後の手が残っていたか」
「何をされるつもりで?」
また俺が勝手なことをするのではないかと、ケヴィンは警戒しているようだ。
一般兵なら不快だと怒鳴って、クビを言い渡していたぞ。
有能でよかったな。
「アデーレと同じ対応だ。宝物庫の中を解放する。基本報酬は格安の依頼を出し、成果を上げた冒険者に貴重な宝石や鉱石を渡すと約束すれば、強いヤツほど参加してくれるだろ」
我が家は貧乏だとはいえ貴族だ。
金を積んでも買えない物の一つや二つはある。
壁に飾ってあったヒュドラの双剣がそうだ。
他にも母親が趣味で集めていたデカいダイヤモンドやエメラルドなどもあるので、欲しがる冒険者はいるだろう。
二度は使えない手だが、有効な一手であるのは間違いない。
「その通りですが、宝物庫の中身を解放したとの噂が広がれば……」
「商人が離れていくとでも言いたいのか?」
「はい。聡い者から離れていくでしょう」
冒険者を雇うために貴族が大切に溜め込んだ宝物庫を解放したということは、没落まであと一歩という状況だとも受け止められる。
金のない貴族が難癖をつけて財産を没収してくると思い、商人どもは領地から出ていくというわけだ。
残るのは一部の変わり者か、もしくはケツの毛までむしり取ろうとする詐欺師ぐらいだろう。
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