乙女の生き様

第58話 特殊転生

 うぐ、体が上手く動かなせい……というか感覚がない? これは外れ転生か!? また爺さんか何かなのかな……前世の最後は助けようとした子供に刺されるし、また外れ転生を引くしでやってられんなこりゃ。


 あほかー!!

「おぎゃーおぎゃぁーぎゃぁー」


 ん? 赤ん坊が近くにいるのか、てか目が良く見えないな、体も感覚がねぇ、というか意思だけ存在している? なんじゃこりゃ……。


 って目の前に何かがぼやっと……人か?


『元気の良い女の子ですよ奥様』

『そう、女の子なのね……』


 ぼやっとした景色の中で恐らく女性二人の話声が聞こえる。


『まだお二人ともお若いのですから大丈夫ですって、なんなら出入りの商人にそっち系の薬を頼んでも良いですし』

『そう、そうね、女の子とはいえ私達の可愛い子供にはかわり無いわね、おいで』


 ぼやけていた景色だが目の前にそれが来た事でかろうじてピントが合う、女性の顔? 


 なんで俺にこんなに顔をよせて……あ、キスされた? でも何か感覚が無いというか……。


 あーしかしオギャーオギャーと煩いなぁ、俺なんて見てないで赤ん坊の相手をしてあげなよ金髪碧眼の美人さん。


 なんて思ってたら目の前の美人さんが胸をはだけて……え? 何してんの!? いくら俺がイケメンだからって! ああああ……。


 ああ、あ?


『生まれたばかりなのに良く飲むわね』

『はい奥様、なんでも生まれてから数日までに初乳というのを与えるのは大事だと、亡き公爵様の発表した研究結果があります、なので最低でも数日は奥様にお願い出来ればと』


 ほう、それって前世の俺と博士の共同研究じゃんか、出産経験者の聞き取りから統計を取っただけだからザル理論なんだけど、日本では確か大事だったって話を聞いた気がするから結構無理やり話しを通したっぽいんだよな。


 結果ありきの論法だから、大図書館にある他の貴族達のアホな本と変わりないって前世の俺は嘆いていたっけ。


 一応統計をとったり、聞き取りやらを多少はしている分だけ、ましだと思うけどね。


『普通の乳より黄色っぽいから貴族では敬遠されていたというのだから……クランク様には感謝をしませんとね、一杯飲んで元気になるんですよ、私の可愛い娘』

『いえ奥様……それらの研究は実は助手のリオン様が主導していたと暴露されております』


 そうなんだよな……博士の遺言に前世の俺の功績を全部書き残してやがったんだよ……しかもそれを発表するかは俺の意思にまかせるって……前世の俺が博士の遺言を断れる訳ねーよね、すっごい仲良かったみたいだし、自分の功績じゃないのに未来永劫記録として残るのが嫌だって書いてあったら……そりゃ俺なら発表しちゃうかなぁ……。


『……あのハーレム王リオン様のですか? この話は本当に大丈夫なの?』

『夜の伝道師ことリオン様だからこそですよ奥様、お子様だけで百人を超えるのですから、しかも殆どのお子様が優秀な能力と高い魔力を獲得しているのです、なのでこの初乳? と呼ばれる物がそれを為す鍵なのではとも言われています』


 ……前世の俺だってハーレムを作りたくて作った訳じゃないみたいだよ? 国王の指示だったし正妻の二人がノリノリで増やしたみたいでさ……前世の俺の体は一つなの、40人を満足させつつ仕事もこなすってどれだけ大変だったか判るか? しかも皆が性格が良い子ばっかりで断るに断れない感じだったみたい、その時の知識を深く思い出そうとしたら腰が痛くなってき……いや体の感覚無いんだった。


『あら、もういいの? えっと背中を軽く叩くんでしたっけ?』

『はい、リオン様の残した子育て本にはゲップをさせる事で、その後に吐く事が少なくなるという事で……実際に子持ちの人達もその通りだったと言っていて、実証されているんです』


 この世界には回復魔法とかあるけど子供の死亡率がかなり高かったからな……博士を巻き込んで色々やったみたいなんだよ……ゲフッ! 何だ今の感覚?


『あ、でたわ! 良い子ね~あら、お腹一杯でもう、お眠なのかしら』

『ですね、奥様もお眠り下さい』


 う、意識が……ああうん、もう現実から逃げるのはやめよう……彼女らの話に出て来る赤ん坊って俺だよな……こんな転生は初めて……じゃ……すぅ……。



 ……。



 ……。



 自分が赤ん坊だと確信をしてからも体の感覚は薄く、赤ん坊は勝手に動いているみたいで、俺はしばらくの間見ているしか無かった。


 具体的には自分の父親のドアップからのキスの嵐や、美人な母親の授乳シーンとかをだ、そのうち乳母も加わって別の女性からの授乳も増えたけどね。


 うちの父の従者の嫁さんが乳母だった……たぶん貴族なうちの爵位は会話の中に出てこないからまだ判らん。


 赤ん坊生活はお乳を飲んで出す物出してから泣きだして、また乳を飲んで出して寝る、そんな事を繰り返す日々を眺めるだけだ。


 体の制御が出来ないならなぜ俺と言う意思が存在するんだろうか……これは本当に転生? 赤ん坊に寄生しちゃってる? もう、毎度毎度意味が判らんのよ、この転生ガチャは……。



 ……。



 ……。



 こんにちは、俺です。



 いえ初めまして、リリアン・ミルスターと申します、9歳の男爵令嬢です。


 今私はここ、トロアナ王国王都にある大図書館に来ています。


 うちの父親は戦争で活躍した所謂成り上がり貴族組の一員になります、隣国が一斉に宣戦布告をしてきた頃に10代で戦争に参加していた父親は、リオン卿に目をかけられて各地の戦場で活躍を……。



 まぁ私の中にある知識に存在した男の子でした。


 そして父親の娘へのキスは体の制御が出来る様になった3歳くらいから拒否をしておきました、おっさんのドアップとかいらないんだよ!


 ただの平民が男爵になるって実はすごい、まぁ……それくらい活躍の機会がそこら中にあるほど長い戦争と大量の領地を王国がゲットしたって事なんだけども……父親は領地を断って軍に居場所を求めましたので、家族は王都に住んでいます。


 まだ貴族の子女として社交界デビューもしていない私、単独では大図書館に来れないので母親に連れて来て貰っています、うちの母親は27歳なのに未だに初めて俺が……いや私が見た頃のままな10代の美人に見えるという……妖怪かな?


 そんな母親は私をここに連れてくると自身は詩集を探しに行ってしまいました、9歳の女の子を放っておくな、と言いたいがまぁ賢い子だと思われているみたいなのでそれでよし。


 そんな訳で私は今一冊の本を読んでいます、タイトルは【英雄リオンの観察日記】です……。


 エドワード王子、いや、エドワード一世陛下さぁ……50代でこんなタイトルの本を書いて世に出すとか私の前世が生きていたら今頃引っぱたきに行って居ると思いますよ、このショタっ子が良い度胸してるじゃねーか! ってね。


 でも今年が神歴確か1390年だから……国王陛下は今年63歳だっけか? それはもうショタじゃないか、もうすぐお子様が王位を継ぐって話だしね。


 この本の序文と内容を流し読んだけど……そうかぁ、私の知識に残っているあの子供はやっぱ暗殺者の手の者だったのか……。


 前世は刺される理由が判らなくて変な所で死んじゃったから、物語のミステリーの解決編だけ見逃してた気分なので前世のその後が知れてちょっと良かったかもしれない。


 さて、気になっていた知識の補完も終わったし後は……。


 ……貴族の娘として結婚から逃げる為にどうしたらいいか考えないとな!!!


 いやだー! 男と結婚やだー!


 なんでかこの転生になってから男からの距離感が近いというか、モテるってのとも少し違うけど……簡単に友達になれてしまうのがすごく嫌なの、まじで嫌なの! ちょっと普通に対応するだけで男ばっか近づいて来るの!


 私が男だったら友達が増えたねやったね! なんだけど、今は女子な訳で、逆ハーレムの前提みたいな状況はすごく嫌なの!


 今生は母親が妖怪美人じゃんか? その血を受け継いでいるのか似てるんだよね……なので金髪碧眼の美少女やってます……。


 ははうえー! もうちょっと地味顔に産んでくださーい!


 なんだかなぁ……まるで自分が乙女ゲーの主人公に成った気分だよ、ニコポナデポよりはましだけどさぁ……意味わかんねぇ、いや……まさかこの転生はゲーム内転生だった!? 祝福の能力とかあるし……え、私はこのままイケメンとかに迫られるの? 嫌だよまじで。


 どうせなら女子に人気出て欲しいのに、女子の方は普通なんだよなぁ……普通の距離感というか、同年代の子供は私の異質さを本能で嗅ぎ取るのか、むしろちょっと遠かったりして……頑張って女の子の友達作らないとなぁ……はぁ……。


 それにまた転生で引き継がれる能力もめっちゃ減ってるしさぁ……踏んだり蹴ったりとはこの事だ。


 それでも、うちの家にはやっと長男が4歳まで無事育ってくれてるから家を継ぐとかそういうのが必要無くなりそうなのがよかったけど……。


 という事でこの大図書館に何かヒントが無いかを調べに来たんだ、女子の目線での調べものはした事無かったし……というかこの大図書館の蔵書数増えすぎでしょ……前世で初めて訪れた頃の十倍近くなってないか? 活版印刷技術と領土がめっちゃ増えたせいもあるんだろうけど……助けて司書さー--ん。




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