第4話 味気ない物

 どうにかしました。


 13歳になった俺は冒険者登録をした、といっても見習いで木のタグが貰えるだけなんだけども。


 貧乏な孤児院で過ごす事3年間、シスターの仕事を手伝いつつお金を稼ぐ為に街の外に通う日々だった。

 薬草に香辛料なハーブやら食料になるキノコやら、色々集めて売る毎日だ。


 ん? リバーシのコマ作り? ああ、あれね……。


 俺は別に前世の嫁の事を恨んでいる訳じゃない。

 前世の記憶は記憶というよりは俺の頭の中に一人の男の半生が書かれた本が置いてあるって感じだから、怒りは無かったんだが……。


 色々この街の話を聞いてみると、様々な名目の税金は一部が代官夫婦に流れていて、領主様に報告をされていないんじゃないかという事に気付いた。


 実はここの領主の伯爵様は平民からの意見を聞く為に、投書箱のような物を設置するなどをしていて、そこそこ善良な部類のお貴族様になる。


 ただし平民が投書箱の存在を知らなかったり、字を書けない者が多い事には気づいていないという、天然なお貴族様でもあるのだけど……。


 それで俺はここの代官のやっている事を、すべて正確に書いた物を隣の街のお役所の投書箱に投函する指名依頼を、冒険者ギルドに出した。


 これを頼めるような信頼出来る冒険者を見つけるのに、数か月近くかかったのには参った……。

 届けたと言って手紙を捨てるなんて当たり前だし、なんなら手紙の内容を盗み見て誰かを脅したりとか金にしたり、なんてのも普通にあるそうだ。


 これを依頼するのと手紙を準備するために、かなりの稼ぎが飛んだのだがまぁしょうがないかね。

 シスターやこの孤児院には世話になったからな……シスターの性格が良いせいか子供らの性格もましな感じだったしさ。


 そうして手紙を投函してからしばらくすると伯爵様から監査が送られて……ここの代官夫婦は前々代官のように首になった訳だ。


 子供である金髪の彼は、1歳そこそこで俺の前世の嫁の実家に送られる事になったそうだよ……すまんね。


 新しく来た代官はアホな名目の税を少しだけ減らしただけだったが……。


 それでもまぁ貧乏教会への寄進が領主様から定期的にされる様になったし、子供らにほぼ無料で仕事を投げてくるなんて事は無くなったし、俺らにしたらありがたい事だ。


 リバーシなんかは伯爵様の利権だからね、それに関わる事で評判を悪くするなんて馬鹿な事は、普通はしないはずなんだけどねぇ……。


 教会への寄進は口止め料って事なのかもしれない。




 そんで俺は13歳で孤児院を出たので、見習い冒険者として雑魚寝の大部屋宿で寝泊まりをしつつ、街の外で冒険者として稼ぐ訳だ。


 やる事が孤児院の頃と変わってねぇな、だけど今は宿代飯代がかかるから、かなりきっちぃ。

 同じような境遇のやつらが、魔物を倒して魔石や素材で稼ごうぜと誘ってくるが、俺は断っている。


 13歳の低栄養状態で育ったひょろい体では、まだ魔物の相手は厳しい。

 そもそもまともな武器も無いのに、あいつらはどうするつもりなんだろうか?


 ……まぁ大抵そういう奴等はいつのまにか姿を消している。

 土の養分になったり盗賊の仲間になったりね。


 大部屋で寝ている間に物を盗まれるなんてしょっちゅうあるし、なので良い装備なんてのは買えない。


 そんな状態で一年頑張ったよ。


 稼ぎのかなりの部分を食い物に注ぎ込み、体の成長を促し筋肉を付けていった!


 筋肉は盗めないからな!



 ……。



 ――



 ――



 そして14歳、そろそろ魔物を狩る準備をしたい、なのでショートスピアを購入。


 これからは魔物を狩り、そしてちゃんとした個室の宿に泊まるつもりだ。



 冒険者の話を盗み聞いたり、酒を飲んで気分のよくなった先輩冒険者なんかから話を聞いたりして、まずは一番安全なビックラットを狩る事にした。


 いつも来ている街の外の林のさらに奥へと向かう。


「セィッ!」


 気合とともに槍を一突き、ビックラットは槍に刺さったままもがいていたが、しばらくすると息絶えた。

 拙い解体技術で魔石をくり抜いていく……。


 ……。


 この小さな魔石が様々な魔道具の燃料になったり、触媒として利用されたり魔法使いの魔力のストックに使えるらしいが……。


 俺はちょっと魔石1個を使用して〈回復魔法微〉を使ってみたんだが、魔石1個で1回魔法が使えないかも? って程度だった。

 そりゃ雑魚魔石1個で銅貨1枚買取なのも納得だ。


 宿に泊まるのに何匹倒せばいいのやら……ちなみにビックラットの皮や肉に価値はない、毒があるらしいし。


 そうなると美味しく食える角ウサギの方が良いだろうか?

 いや防具が無いうちは角ウサギを相手にするなって話だしな。


 そうして俺は、ただひたすらにビックラットを林の奥で倒していく。


 カプセルホテルの様な狭い個室の宿屋が大銅貨2枚、ビックラット20匹分か……。


 こりゃ駄目だな。


 ずっと前は害獣退治としてビックラットの尻尾を持っていけば、一匹あたり銅貨1枚貰えたらしいのだが。

 前々前代官が廃止したままなのを現代官も戻していない。


 前世の俺もまだ領地のテコ入れをする前だったからな……代官になるやつが脳筋が多いのがいけないのかもしれない。

 手柄をたてて成りあがる場合って、大抵が戦闘力で成る奴が多いからな。


 前の俺みたいな下働きが成り上がる例は少ないんだよね。

 文官が低い地位に見られている訳じゃないんだけども、いざという時に腕力で黙らせる事が出来ないと舐められちゃう、とかって理由なのかもね。



 ……。



 ――



 ――



 もうすぐ15歳になるので、近くにあるというダンジョン街へと拠点を移す事にした。

 シスターや門番さんや、同じ孤児院出身の人らに挨拶をしてから街を出ていく。



 ……。



 ――


 

 新しく拠点にするダンジョン街、そこで出会った同じ年ごろのパーティと組んでダンジョン低階層を駆けまわる日々。


 忙しくて貧乏だが、楽しかった、だがそれも……。



 ――



「どういうつもりだリーダー!」


 俺は俺の足を深く斬りつけた剣士のパーティリーダーを詰問する。

 この傷では移動するのも難しいだろう。


「このままじゃ逃げきれないだろ? 悪いが幼馴染じゃないお前に殿を務めて貰おうと思ってさ、その足じゃ走れないだろうし、ま、頑張れよ」

 そう言って身を翻すリーダーである剣士見習いの男。


「私も死にたくないんだ、ごめんね」

 そう言って身を翻すレンジャー見習いの女性。


「ではな」

 そう言って身を翻すシールダー見習いの男。


 彼らは俺と同年代の幼馴染で構成されたパーティだった。


 性格も良さそうだと参加をしていたのだが、仲間だと思っていたのは俺だけだったらしい。

 ギャーギャーと俺達を追いかけてきているゴブリンの群れの声が近付く。



 ……だがなお前ら……。



 何で俺がゴブリン共と素直に戦うと思って背を無防備に見せて移動しようとしているんだ?


 俺は持っていたショートスピアを思いっきり奴らに投げつけた。


 特に狙いはつけなかったが、スピアは装備の薄いレンジャー見習いの女性の背中に深く突き刺さる。


「おま! 何を! おい大丈夫か!?」


 リーダーは倒れつつある女性に気付いて、彼女を抱きかかえて声を掛けるが、ありゃもうダメだろう。

 そして俺の背中にゴブリンの攻撃が当たったのに気付く。

 そうして俺は倒れ込みながら元仲間だった奴らの方を見ると。


 へ……完全に逃げ遅れてゴブリン共に囲まれてやんの……ざまぁねぇな。


 俺は体の痛みを無視して奴らの最後を見てやる事にした。


 まあ俺ももう終わるんだけどよ……前世の嫁といい今回の事といい、俺には人を見る目が無いんだろうな……。











 リザルト

 〈財布〉×2 〈回復魔法微〉〈着火〉〈水生成〉

 〈魔力+3〉


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