運命を壊す者4

「ぬぬぅ!


 私には!?」


 なんか分からないけどズルい。

 羨ましいし、胸が痛い。


「じゃあ次はエちゃんだね!」


 貰えなくて拗ねてるのかなと思ったエスタルは慌ててアーティファクトを取りに行く。


「じゃじゃーん!


 エちゃんにはこれをあげちゃいまーす!」


 持ってきたのは一本の杖。

 エを思わせるような真っ赤な杖でエが持つには大きすぎるぐらいの大きさである。


「あり……嬉しくない?」


「ゔぇつぅにぃ〜」


 装飾品じゃないのかと思ってしまった。


「これは老熟したフェニックスの羽根をベースにして作られた杖だよ」


「ろーじゅく?」


「そうだよー


 フェニックスっていうのは不死だけど短命になりがちな生き物なんだ」


「んん?


 なにそれ?」


 不死だけど短命。

 死なないけどすぐに死ぬとは言葉が矛盾している。


 エは大きく首を傾げた。


「フェニックスは正確には死なないんじゃなくて死んでも生き返るという性質を持っているんだ。


 一から体を構成し直してまた新しく生まれる。


 フェニックスは強力で、また貴重な魔物だから狙われるんだ。

 そうすると大きく成長して、年を取る前に死んでしまう。


 また新しく生まれ変わるからいいんだけどやっぱ長く生きて、経験を積んだフェニックスは違うからね。


 そんなながーく生きて強くなったフェニックスの大きな羽を使って作ったのさ」


「へぇ〜……おっ、わっ、っと!」


 凄いものには違いない。

 サラッと受け取ろうとしたエは驚いて杖を落としそうになった。


「かっる!」


 大きな杖なので重いだろうと思って持ったら杖は羽のように軽かった。

 重たいと想像してたから投げ上げてしまいそうになった。


「エちゃんもリンデランも魔法を使うタイプだから、魔法を補助してくれるアーティファクトがいいと思ったんだ。


 当然エちゃんは火の魔法使いだから火を使う時に助けてくれるよ!」


 フェニックスの羽を使っているからだろうか自分の魔獣にも似た優しい雰囲気があるように感じられる。

 落としそうになって結果的に杖を抱えるような感じになってしまったエはなんだか不思議な心地よさを杖から感じていた。


 杖がエに会えて喜んでいる、そんな変な考えが頭の奥底に浮かんでエもなんだか嬉しくなった。


「ん」


「え、なに?」


 ジに杖を差し出すエ。

 訳がわからないけれどとりあえず受け取るジ。


「ん」


「だからなんだよ?」


 杖を渡して、返せと手を伸ばすエ。

 大人しく返すジ。


「……ちーがーうー!」


「な、なんなんだよ!」


 怒られてもジは理由が分かっていない。

 単なるちょっとした嫉妬。


 自分もなんだかいい雰囲気でアクセサリーを着けてもらうことを期待していたのに杖を渡してもただ返されるだけになる。

 そんなのなんの意味もない。


 ようやく意味を理解したエスタルは生暖かい目をして笑っていた。


「その杖はディスタールという名前でさっきも言ったけど火属性の魔法を補助してくれる。


 あとは完全火属性耐性も付けてくれるんだ」


「完全火……」


「つまりどんな炎でもキミを傷つけることはできなくなるのさ。


 もーっと簡単に言えば燃えなくなるし火傷もしない、熱さも感じないんだ」


「それって……すごくない?」


「すっごいよ!」


「魔法が使えない俺じゃ生かせないけどエが持つと、とんでもない効果を発揮しそうだな」


「あとそれは成長型アーティファクトって言って持ち主が使えば使うほどにディスタールもキミに合わせて進化するからたくさん使ってね」


「せ、成長型って」


「なになに、せいちょー型って凄いの?」


「凄いよ……」


 この国の初代の王は血で血を洗う争いの果てにこの国を立ち上げ、安定させた。

 そんな初代の王様が使っていたのが成長型アーティファクトだったと言われている。


 戦争という特殊な環境下であったためもあるのだろうけど王様が持っていたアーティファクトは成長を遂げてとんでもない威力を誇ったらしい。

 ジも見たことがある王様の銅像の手に持っている剣が成長型アーティファクトだった。


 それと同じ、ではないけれど同様の成長型という特徴を持つアーティファクト。

 今から育てていけば将来にはエの大きな力になりそうだ。


「ふーん、まあ貰ったげる!」


「よく分かってないな、これ」


「要するに使っていけばいいんでしょ?」


「……そうだな」


「なにその顔!


 分かってるってば!」


「はいはい」


「……えいっ!」


「いてっ!


 なにすんだよ!」


「使って成長させてる」


「ちげーだろ!」


 ディスタールでジのことを突っつくエ。

 呆れ顔が鼻についたのだ。


 本当はぶん殴っているとこだけど杖をもらって気分がいいので突くだけにしてやった。


「気に入ってもらえたようでよかったよ。


 次はジ君かな?」


「流石にちょっと緊張するな」


 ここまで出てきたアーティファクトはどちらも計り知れない価値がある。

 未だに貧乏性な気質が抜けないところがあるジはその高価な贈り物に緊張し始めていた。


 どんなものであっても貰えるならありがたい。

 一応2人が貰ったものは2人のことを考えて贈られたものだったのでジが貰えるのも悪いものじゃないはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る