第36話 28歳児。
雲原に女装がバレて数日、とくに変わった事はない。
せいぜいあるとすれば、三好が向日葵に懐き始めているという点と、時折僕に話しかけてくる雲原を見て千夏に睨まれる僕、という構図くらい。
三好への警戒を解いた千夏なのに、なぜ僕は睨まれるのか。
女装がバレた件については向日葵にも千夏にも話したが、それで睨まれる筋合いはない。
「
『うっし〜私もそっちに合流するわ』
学年主任丸山、こいつはどうもかなりのクズらしく、立川の他にも
こちらはこちらで有栖川さんが丸山の奥さんに接触して有栖川さんに調査を依頼するように仕向けて現在はその証拠集めである。
「今頃は浮気相手の家でヤッてるのか〜やるなぁ丸山」
「部活の顧問の事をすっぽかしてヤってるんですからね〜」
有栖川さんが上機嫌で双眼鏡片手に合流した。
「丸山の奥さん、相当旦那の事を
「部屋のポストの名前も控えてあるから、後で送っとく」
「流石直人」
「防犯設備もないしメンヘラ気味な女、抱くのは簡単だったんだろうな」
「現役JKだけじゃ飽き足らず、メンヘラ女まで喰うとかすごい精力してんなぁ」
土曜の昼間でこんな事を平気でできる学校教師。
日本の未来はもうダメかもしれない。
「有栖川さんの見立てだとあと一人は女がいるんですよね?」
「ああ。ご丁寧にラインじゃなくてメールでやり取りしてたから、奥さんの所に自動送信したメールフォルダにたんまり入ってたし、立川と今ヤってる女、それともう1人の合計3名。お熱いねぇ全く」
僕は見張りを終えて有栖川さんの車に乗った。
乗る間際に「羨ましいよ〜」とか言ってたけど聞かなかったことにした。
僕は女装時のウィッグと服を替えて別人の女になり改めてスタンバイ。
今度は近くの高校の女子生徒の格好である。
濃いめだったメイクを1度落としてスッピンに見えるようなナチュラルメイク。
おかっぱのカツラにスポーツバッグで部活帰りの女子生徒を装う。
1時間ほど掛かった新たな変装を終えた頃に有栖川さんから連絡が入った。
『直人、やつらが部屋から出てきた。尾行はできるか?』
「問題ない。今出る」
片耳に装着したワイヤレスイヤホンはおかっぱ頭で隠れている。
変装は尾行時においてかなり役立つ。
「おっほ〜。なんかエロいな直人」
「気持ち悪いからやめてよね」
「父親嫌いな思春期女子。そそるわぁ」
「通報していい?」
「今はやめてマジで。めんどいから」
「じゃあ行ってくる」
時刻は夕暮れ。
僕はスポーツバッグを携えて学年主任丸山を再び尾行した。
腰でも振りすぎたのだろう、腰を擦りながらくたびれた足取りで家へと帰宅。
僕に気付く様子もない辺り、全く気付かれていないと思っているようだ。
「
『了解! 私らも今日の所は撤退だ。拾ってく』
「ええ。お願い」
☆☆☆
「証拠としては十分なんだけどなぁ」
「もう1人の奴の情報も欲しいのか?」
僕達は本日の証拠集めを切り上げた後に事務所で報告書作りをしていた。
「そりゃあね。メインで依頼受けてる奥さんからすれば徹底的な制裁を望んでるわけだし、他の間女の関係者や親族煽って搾り取る方がいいだろ?」
有栖川さんは依頼主に経過報告をしながら今後の作戦も話していく。
「舵取りが面倒になってくるな」
汚い話だが、有栖川さんからしてみればただの商売だ。
それなりに稼いでもらわないと僕も困るので仕方ないが、間女側がいつ噴火するかわからない以上かなり面倒だ。
勝手に暴走されては本命の立川と議員である父親を逃がしてしまう可能性がある。
とくに議員である父親はそれなりに金はあると見込んだ方がいい。
正攻法で行くなら弁護士挟む前に潰さないといけない。
「まあ、その辺は上手くやるさ。議員相手は難しいしな」
「
「なんなら直人、抱かれてきてはどうだ? パパ活装って」
「絶対嫌だね。さすがにケツ掘られるのは無理。そんな手を使う前に社会的に殺すよ」
その類いの手口でいくなら立川議員を亀甲縛りしてケツにバイブ突っ込んで目隠しして呻いてる議員を撮影するわ。
絶対僕のアナル処女は死守する。
「私としては、その展開もかなりそそるんだけどなぁ。段々と自分の中の
「良い!! じゃねぇ!」
「私は心の葛藤が好きでたまらないんだよ直人。私の為にメスになってくれ」
「良い顔でサムズアップしながらそんな事を言うのやめてもらっていいですかね。……そろそろ別の事務所に行くかな……」
「ごめんなさい直人様ずっと一緒に居てくださいお願い致します」
「謝罪ついでにプロポーズするのもやめてね?」
僕の足にしがみついて土下座で謝罪しながらプロポーズとかどんな神経してんだこの女上司。
「ほ、ほんとに
「恩田探偵事務所の恩田さんからちょくちょくスカウトというか引き抜きの話は来てるんだよなぁ」
「恩田ぁぁぁぁ!! あの優男めぇぇぇぇ!! 私の直人をぉぉぉぉぉぉ!! 許さん!」
……優男っていうか、普通に良い人だろ。
失礼だな。
まあ、協力して仕事した時にスカウトされたのも本当だし、有栖川さんにはもう少し自重してもらう為にも強めに圧を掛けておくに越したことはない。
「誰が「
恩田さん、なんかすんません。
今度会ったら謝っておこう。
「わかった。直人あれだろ? 恩田のとこの助手の高嶺ちゃんが可愛いからだろ? 同じ高一で胸もあって美人だし、いっつも直人にべたべたベトベトしてくるあの女狐に惚れてんだろ?! あんな女のどこがいいんだ!! むーーー!!」
……残念過ぎて僕まで辛い。
初めて見たぞそんなテンプレな悔しがり方。
「有栖川さん、この資料のチェックお願いしますね〜」
「お願いだ直人ぉ……私を独りにしないでぇぇぇ」
「情緒不安定過ぎるだろ……」
自分の仕事を終えた僕は抱き着く有栖川さんを引きずったままキッチンに立って夕飯の調理を始めた。
「泣き止まない子には無限ピーマンをお見舞いして差し上げましょう」
「泣かないです! 良い子にします! すみませんでした!」
「良し。じゃあ良い子は仕事しててね〜」
「はい!」
ルンルンで仕事に戻った有栖川さん。
28歳児のお世話は大変である。
料理を作って有栖川さんの所に戻ると、昼間に僕がしていた女装を隠し撮りしていた画像を見ていたので奪い取って全部消して帰った。
……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます