第18話 メシウマ情報。

 向日葵が風呂から上がり、千夏と2人で遊んでいる間に料理を作り終えた僕に有栖川さんから連絡があった。


 中間報告もしたいし飯が食いたいから来いとのこと。


 僕はふたりに夕飯の用意はしてあるから食べててほしいと伝えて家を出た。


 もう陽も暮れてしまい辺りは暗い。

 スーパーで買い物を済ませて有栖川さんの待つ事務所に着いた。


「雨宮ぁ〜!! くんかくんかハァハァ……ぐへへへ」


 事務所に入り有栖川さんの住居スペースに入った瞬間に待ち構えていた有栖川さんが抱き着き、僕はなすがままだった。


 両手に抱えた食材で殴りつけようかとも思ったが、僕の胸に蹲り匂いを嗅ぐ変態を見下ろしていた。


「有栖川さん」

「なんだ?!」

「お座り」

「わん!」


 ……なんの躊躇も無くお座りをした、だと?!

 この28歳メスにはプライドがないというのか……


 どうしてこうなってしまったのだろうか。

 有栖川さんの親が見ていたらきっと悲しむだろう。

 ……両親いないんだったか……


「有栖川さんの事は今日からポチと呼びます」

「ご主人様!」

「……」


 出会った頃はこうじゃなかった。

 こうじゃなかったんだ……

 もっとこう、かっこよかったんだ。


 クールビューティとでも言うのだろうか。

 しかし今はなんだこの姿は。

 僕は調教した覚えなんてないぞ。


「とりあえず夕飯作るんで離れてください」


 僕はそう言って無理やり引き剥がしてキッチンへと向かった。


 巨乳で一応美人な有栖川さんに抱き着かれても、反応しない僕の性欲は枯れているどころの話では無いのかもしれない。


「それにしても直人、お前んところの学年主任と立川志乃、ちょっと探っただけで面白いものを見れてなぁ」

「学年主任、ね」


 つついただけでボロが出るのか。

 相手は思ったよりも阿呆だな。

 流石は学校教師。

 頭は大学生と大差ないようだ。


「立川志乃は学年主任の丸山に股開いてる。援助交際っていう割には立川の金回りは今のところよく分からんが、立川の親父さんは議員の1人。メシウマ展開確定案件だぞ?」


 有栖川さんが隠し撮りした写真を調理中の僕に見せた。


 学年主任丸山と私服姿の立川がホテルに入っていくところをバッチリ撮影された写真だ。


「立川の授業態度はあんまり良くなかったし、小テストとかもわりと悪いが、数学担当の学年主任丸山にはやたらと媚び売ってたからな」


 向日葵が今日された事を話した千夏が相手にされなかったのも立川が絡んでいるからだったのだろう。


 ただでさえ「いじめ」という面倒事をjk肉便器がやったのだ。

 大事おおごとにしたくなくて揉み消したかった気持ちはかなりあるだろう。


「関係性は僕達が入学してからの一ヶ月ちょっとでその関係か……手が早いな」

「お盛んなんだろ?」


 おおう……

 一体どの口が言うのだろうか。


「そうですね。どっかのメス犬みたいだ」

「私は誰にでもこうなわけじゃないぞ直人」

「はぁ。さいですか」

「うむっ!」


 なぜにドヤ顔……


「メス犬、とりあえずカプレーゼ作ったからお食べ」

「わんッ!!」


 パスタを茹でている間に作ったトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼを渡して食べさせている間にペペロンチーノを作った。


 マッシュルームと厚切りベーコンの楽々ペペロンチーノを「美味い!」と叫んでいるメス犬さんに渡した。


 すでに缶ビールの空き缶が転がっていた。

 愉快な顔をしている有栖川さんがガツガツとペペロンチーノを食べ始めた。


「あととりあえずわかってるのは、三好香耶のざっくりとした素性くらいだな。今んとこ。……美味い」


 向日葵をいじめている主な2人の情報がすでにあるのは有難い。


「三好香耶の親父はパチスロに競馬、雀荘に入り浸ってて母親は未だ現役キャバ嬢、家庭環境が良くない。グレて今に至るって感じの奴だな。こっちからは金は期待できん。……っぷはぁぁ!」


 グレる典型的なパターンの家庭環境か。

 これはこれでめんどい。

 失うものが少ない相手は面倒極まりない。


「取り巻きはまだわからん。まあ、頭2人潰したら勝手に霧散するだろ」


 立川と三好以外は権力者にくっ付くモブみたいな奴だ。

 大した驚異ではない。


「いじめの証拠を集めたら仕掛ける。有栖川さんは議員様の金回り事情を調べてほしい。ついでに学年主任丸山の家庭事情」

「注文が多いご主人様だなぁ」


 裏掲示板には今回のいじめをやんわりと流してある。

 立川たちのカーストを失墜させてさらに突き落とす。


 いじめの証拠、援助交際、この2つがあれば立川は堕とせる。


 三好はどうするか……


「三好は隠れてタバコとか吸ってるのか?」

「そういう奴らとのつるみはあるみたいだぞ」

「そうか」

「そういえば最近、月下組の奴らが「お嬢はお元気でしょうか?」って聞いてきたぞ? 顔出してるか?」

「……ああ……。うん。今度顔出すわ」


 高校入学に再婚と色々あって最近顔出してなかったな……

 それなりに忙しかったし、仕方ないんだが。


「『月宮つきみやれお』の姉御もお忙しいですなぁ」

「……だいたいなんで僕が未だにあいつらの面倒を見なければいけないんだ……」

「まあまあいいじゃないか直人。荒事関係でも力持ってれば色々と都合がいいぞ? それに、直人が頭してるからこの辺はわりと治安いいんだぞ?」

「治安って言っても不良学生界隈の話だろ? そもそも押し付けたのは有栖川さんだし」


 変態のメス犬の飯作ってる場合じゃないのでは……

 小説だって書きたいし、向日葵の事もあるし。


「まあまた追加報告はする」

「わかった。とりあえず今日は帰るよ」

「うむ。ご馳走様でした」

「お粗末さま」


 食器を片付けて有栖川事務所を後にした。


「……やる事が多いな……」


 僕は死んだ目をしながら夜空の下を歩いた。

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