弱小国家の復活譚~天才たちの国家拡大~
すうぃりーむ
第一章 天才の閃き
第1話 コテンパンに倒してしまおう
大陸東部に位置するとある小国。
西側は大陸随一と言われる大国「ライザック帝国」を始めとした国々と隣接しており、後ろは海に挟まれている「エーネスト王国」。
小国だが、海の幸と恵まれた地形と安定した天候によって盛んな畑作によって栄えてきた国である。
多くの食材を輸出し、周辺国とも友好関係を築いてきた国。
しかし、そんな恵まれたエーネスト王国だが、一つの危機を迎えていた。
「農作物が!収穫できないのよ!!」
将官室に悲痛な叫び声が響く。
と言っても事件は起きていない、と言ったら嘘になるのだが流血沙汰ではない。
「うるさいぞ、静かにしやがれ」
「ひどいわ!?仮にも王女よ!私!!」
そう。
この美しい金髪が特徴の女は一応、我らがエーネスト王国の王女であるフェネリア様なのだ。
言動や行動からは全然考えられないのだが。
「あーはいはい。ならもっと身分に合った言動をしような」
「相変わらず失礼なやつね。不敬罪で即刻処刑しても構わないのだけど」
「すみません勘弁してください」
「分かったならよし」
ぐぅ...。
それを持ち出されるとどうしても分が悪いので即刻土下座で処刑を回避。
なんだかんだこれで許してくれる限り本当に処刑するとは思っていないのが分かるのだが、それを言うと更に怒るので何も言わないことにしておく。
話が逸れてしまったが、本題に入らなければ。
「それで、どうしたんだ?」
「ロッドも知ってるでしょ?近年の日照りの影響。あれのせいで農作物がほとんどダメになっちゃったの。これじゃ貿易も難しいわ」
近年の大陸を襲う日照り。
大陸全土では砂漠化している地域もあり、この世界で大きな問題となっている。
帝国のような大国は様々な特産品や工芸品もあるので、あまり影響を受けていないのだが、我が国のような農作物でつないでいる国には大打撃である。
おかげで我が国にも久しぶりの不景気が訪れてしまっているのだ。
「それはまずいな。俺らの国もとうとう不景気に入っちゃうのか~まずいな!!」
「全然まずいと思ってなさそうなのが腹立つわね。あなたそれでも軍の大将なの?」
「もちろんだとも。仮にも一国の軍を率いている立場だぞ?そりゃあ憂いているさ!」
ここで額に手を置いて決めポーズ。
まあそんなことを言っておきながらも建前なのだが。
正直ピンチだとは思うが、そこまで国の未来は憂いていない。憂いているのは俺の安泰しているはずの未来!!
だから、軍としても何か対策を講じなければいけない!!
「それで、どういう対策を講じているわけ?エーネスト王国軍将官、ロッド・エスター様?」
フェネリアがそうにやけながら茶化してくる。
フェネリア自身も王国は不景気だが対策は練れると考えているのだろう。
「季節はもうじき冬になる。そろそろ寒くなるころだろう。大根を始めとした冬野菜を例年より多く植えさせよう。今回の貿易の不足分は魚介をメインとして穴埋めしろと伝えてくれ。軍部の方でも人手を出す」
幸いにも次回の貿易まではまだ時間がある。
野菜が少なくても、魚介にはあまり影響が出ていないのだから、不足分を補えばいいだけの話。
「分かったわ。それでも、不足分はどうしても分かっちゃうんじゃない?」
「心配ない。帝国では魚介を使った料理も発展している。そこを突けばいい。幸いにも帝国は不景気の風に煽られてはいないしな。帝国内部への流通もあいつがいるしな」
「そうね。そこのところは心配していないわ。だけど、軍部への指示はどうするの?」
「俺が直々に出そう。報酬もあると言っておけば士気も上がるだろう」
なんてったって俺はできる上司だからな。
部下への心遣いもできてこその良い国であり、良い組織だろう。
「不景気だけど、お金足りるかしら?」
「何とかしてくれ」
「他人事のように言うな」
「口喧嘩中、失礼するぞ」
俺達が言い合っていると大将室のドアが開き青髪の男が入ってくる。
ハーネス・ティコブレン。
ティコブレン公爵家の次男であり、俺達と旧知の仲だ。
「ハーネスじゃねえか。どうした?」
「先ほど諜報活動をしていた兄上から報告が上がってな。それを伝えに来た」
ハーネスは戦闘と経済学に精通しているエリートだが、兄もそれに劣らず、諜報活動などを全般に引き受ける裏で王国を支えているエリートである。
俺も何度か会ったことがあるが、冷たさの中に温かさを感じる優しい人だったのを覚えている。
「そうか。お兄様はなんと?」
「『ユリア連邦において戦争の兆しあり。恐らくは王国に対してのもの。早急に対処願いたい』とのことだ」
「「...は?」」
「隣国のユリア連邦による戦争が近いらしい。対策を練るぞ、ロッド、フェネリア」
「いやいやちょっと待てよ!?嘘だろ嘘としか思いたくないんだけど!?」
「残念ながら本当だろう。ユリア連邦とは国交が減り関係が悪化していたからな。それに、ユリア連邦と我々王国の経済力は同じぐらいだ。不景気である今がチャンスとでも思っているんじゃないか?あくまで俺の推測だがな」
「そんなことは俺も知ってるよ!いやだ、信じたくないぞ俺は!!」
そう駄々をこねていると、一人の兵士が将官室に急いで入ってきた。
なんだか嫌な予感がするんだが...。
「ど、どうした君。ノックもせずに慌てて入ってきて」
俺が代表して兵士に問いかけると、兵士は急いで来たせいで荒くなった息を少し整えながら喋りだす。
「ほ、報告します!ユリア連邦が、我が国に対して宣戦布告をしてきた模様です!!」
「......うそん」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!?
本当に現実になっちゃってるじゃねえかああああああ!?
こうしてはいられない、とにかく方針を練らなければ...。
「そ、そうか...報告感謝する。下がってよいぞ」
「は、失礼します!!」
そう声をかけると兵士は部屋を出ていった。
パタン、と扉が閉まった後にどこからともなくため息が聞こえてきた。
「戦争、本当になっちゃったわね...」
「ああ、信じたくないがな」
「とりあえず、方針を練らなければいけないな」
「ユリア連邦の狙いはおそらく、国境付近にある肥沃な土地かしらね」
「だが、あの土地は昔行われた会談で正式にエーネスト王国のものになったはず。今更なぜ...」
「ユリア連邦も農業が盛んな国だ。不景気である今に乗っかって取り戻したいんだろうな」
ユリア連邦もエーネスト王国ほどではないが農業が盛んだ。
砂漠化している土地もユリア連邦にはあるという。その損失分を取り戻したい、というのが上層部の考えだろうな。
フェネリアもハーネスもその考えにたどり着いていたようで、同じように苦い顔をする。
「しっかしまぁ、エーネスト王国も舐められたものね...」
「それで、ロッド。我々はどう動く?先手を打って戦争を防ぐか?それとも、最小限の被害で和平に持ち込むか?」
「その二つもアリなんだが...もう少し考えさせてくれ」
いつものように俺がそう言うと、二人はもう慣れているのか静かになる。
先手を打って戦争を防ぐのは難しいだろうな。
既に相手が目的を定めている以上、それを止めるのは難しい。
最小限の被害で和平に持ち込むために軍も動かさないといけないが...有利条件で和平に持ち込むには一か月以上になる戦いが必要だろう。
不景気の状態で一か月、場合によってはそれ以上にも及ぶ戦争は予算的にも厳しいだろう。
不景気を解消し、なおかつ戦争を防ぐための一手...
「そうだ、コテンパンに倒してしまえばいいじゃないか」
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