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side. Subaru





「チッ…やるじゃねぇか、ボウズ。」


「くッ…!」


「昴クン!!」



咄嗟に後退したお陰で、損傷は軽減されたものの。

男が繰り出した弾丸は、かなりの威力で…


…本気で俺を、潰しに掛かったようだった。





数歩よろめくもなんとか踏み止まり。

ズキズキと疼く口元を、手の甲で押さえたら…

円サンが心配そうに駆け寄って来た。







「どけ、円。」



尚もその闘争心を剥き出しに、俺を睨み殺そうとする男。




(強い…)



多分、敵わない。

名も知らぬその男からは、あの晃亮と同等ぐらいの実力を垣間見て。


額には、冷たい汗が流れ落ちた。






「違うよ、昴クンは違うんだ…!!」



そんな相手に怯む事なく、俺の前で両手を広げ立ちはだかる円サン。


どうやら、知り合いみたいで────…






「だから、やめて。…」



その人は、

いつかのメッセージの遣り取りで知った…


円サンの″兄″だった。











「俺は謝らねぇぞ、ボウズ。」



夜更けともあって、近場の公園にて対峙する3人。

円サンの兄、篠宮しのみや はるか…サンは。


煙草を吹かしながら、

悪びれた様子もなく、そう言い放った。





「兄ちゃん!!」



ふてぶてしい態度を円サンが窘めるも、

素知らぬ顔の遥サン。


彼は円サンの7つ上で、

普段は実家の近くで1人暮らしをしているらしく…。

現在は一緒に住んでいないそうだ。





けれど円サン曰わく、それなりのブラコンだそうで…

ちょくちょく家に顔を出しているという。



それ故、最近始めたばかりのバイトを突然辞めたり。学校もサボりがちになったり────…


更には至る所に怪我をして。

ボロボロになって帰って来る円サンを…

ご両親が心配し、やむなく遥サンに相談。


彼がそれとなく問い質しても、

円サンが一向に答えようとしないものだから…



今日こそはと、実家で待ち構えていたようだった。







「で…コイツはだ?」



俺と円サンを交互に見据え、問う遥サン。

実の兄弟らしいが、円サンとは似ても似つかぬ印象。


円サンと同じで、若干垂れ目なのだが…

ガテン系の男らしい雰囲気で。

背丈も俺より少し高く、体格もガッチリしていた。

片耳には細めのリングピアス。


長い黒髪はオールバックで、後ろに束ねられている。




端正な顔には顎髭が少し蓄えられ、

ペンキ塗れの繋ぎがしっくりきてて。

およそ爽やか好青年な円サンとは、血が繋がっているとは思えないくらい…


ワルな印象だった。







(そういえば…)



以前メールで、

兄貴がヤンチャしていたとか言っていたけれど。


実際目にしてみると、色々辻褄も合ってきて。

円サンの意外と不良を恐れない、無鉄砲な性格や行動にも。何となく頷けた。







「昴クンはっ、その…」



問われた所で、簡単に説明出来るような間柄ではなく。


まして男同士でありながら。

つい先程まで恋人でもないくせに、ベッドで身体を重ねた挙げ句…家の前で堂々と抱き合ってキスまでしていた相手だ。



円サンもどうしていいか判らず、俺を見上げて。

困ったよう視線だけで助けを求めてきた。

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