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side. Subaru






「大丈夫ですか…?」


「へ~きへ~き!!」



そう笑顔で答えつつも、円サンの足はフラついていた。


あのままズルズルと情事の余韻に浸る訳にもいかず。

万が一晃亮が戻ってきて、

″関係″を持った事がバレでもしたら大変だし。



何よりも円サンが…





『昴クンの感触、忘れたくないから…。』



…と、思わず赤面するような嬉しい事を言ってきたものだから。体調を案じはしたものの、円サンが帰りたいと申し出たので…


いつものようにタクシーを捕まえ。

やっぱり離れ難かったから、心配だとか言い訳して。

一緒に乗り込んでしまったのだけど…





車内、ずっと指を絡め繋いでいた手。

頑なに握り締めたり、たまに遊んでみたり。

なんだか…擽ったくて。



円サンの自宅は、車で15分位の距離だったが…

何故か5分程走った所で降りようと、円サンは唐突に切り出した。


…で、今に至る。







「ほら…無理しないで?俺に掴まって下さい。」



夜道、しかも深夜間近とあって。

少し大胆に、腰を抱き寄せてみたら。





「うん…。」



恥じらいながらも、身体を預けてくれた円サンに。

胸が熱く高鳴る。



歩きづらくとも、離れない。

満天の星と薄明かりの街灯の下、

誰もいない静寂な道を2人で歩く。






「どうして、急に歩くだなんて…」


「だって…」



…離れたくなかったから。


帰りたい、とは言ったけれど…

本当は俺と一緒にいたかったのだ、と。




そんな事言われたら、

俺は、勘違いしてしまいそうです…








「俺だって…。」



今、貴方とこうしているのは同じ気持ちだったから。


例えひと時の夢だとしても。

まるで恋人同士のような遣り取りが擽ったくて。

妙に照れ臭かった。



なるべく永くいられるように、ゆっくり歩いたつもりだったが…。








「もう、着いちゃった…。」


「……はい。」



寂しくて、愛おしくて。

向かい合わせ、手を繋ぐ。


円サンはそれに目を落とし、

離れがたいとでも言いたげに指を絡めてくるから…






「っん…!」



強く抱き寄せキスをしたら。

円サンの方から怖ず怖ずと口を開いたので…

遠慮なく舌を這わせ、深く味わった。






時刻は午前0時。


これは最後のキス。


きっと魔法は解けてしまうから。

これで…おしまい。




だからいつまで経っても離れられず、

お互い夢中になっていたから────…






「オイ。」



声の主が口を開くまで。

その存在には全く気づけなかった。






「っあ…!!」


「ッ────…!?」



パチンと弾かれた瞬間、解かれた魔法。


暗がりに潜む影に導かれれば、そこは間違いなく円サンの家の玄関先で。





「お前、か。に色々してくれた野郎は…」



言い放ち、

一瞬で距離を詰めてきたの動きは─────速くて。






「待って、兄ちゃ─────」



円サンが叫ぶよりも先に。



男のその拳が、俺の頬に鈍い音を立て…命中していた。

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