8 不審者が言うことにゃ6

「いやあ、これをジェネレーションギャップと言うには、僕もそこまで年じゃないよ。でもね、昔はキツネは尾の先に人の魂を乗せて化かすが、タヌキやむじなは舌の先で人を化かす、と言われていたんだ」

「何が違うの?」


 化かすという点なら、どちらも変わりない。

 おにーさんはふふっと笑った。


「舌の先だよ、舌の先」


 言いながらおにーさんは、んべっと赤い舌先を少し出して見せてくる。


飴玉あめだまとかさ、舌の先でもてあそんだこと、ない?」

「……あるけど」


 そのたとえが嫌な予感を呼び起こす。

 おにーさんはどこか愉快そうに笑ったまま、晴人はるとの顔を見て、その通り、と言って続ける。


「タヌキやむじなは、一通り人を化かして飽きたら、その人の魂を食べてしまう。僕らが飴玉あめだまかすのに飽きて、くだいてしまうようにね」

「……おにーさんはアメ、くだいちゃう派なんだね」


 晴人はるとがそう言うと、おにーさんは一瞬真顔になって、それから、そうきたかあ、とくやしそうにつぶやいた。

 否定はしなかった。


「……まあ、そんなだから、タヌキやむじなは化かす。一方キツネは気が済んだら命までは取らない。だから、尻尾しっぽの先で化かす。タヌキの方がキツネよりおっかないと考えられていたんだよ」

「全然そんなイメージないよ」


 晴人はるとの脳裏では、ご近所さんが何故か玄関口に飾っている、三十センチばかりの徳利とっくりを持ってかさを身に着けた信楽焼しがらきやきのタヌキがスライドインしてくる。


「まあ、そういうタヌキで今有名なのって、精々せいぜいがカチカチ山のババア汁こさえたタヌキじゃないかなあ。そしてだからこそ、そういうタヌキの狂暴なイメージが薄れた頃にコックリさんに当てられるようになったということでもあるね」


 晴人はるとはそれを、スライドインしてきた剽軽ひょうきんな顔のタヌキが、ぐるぐると脳内で回転しているまま聞く。


「さて、ここまできたら、キミ、キツネはどう?」

「どうって……タヌキと同じで化かすけど、お稲荷いなりさんとか、九尾の狐とか、もっと、なんというか、格が高い?」


 聞いた限りではタヌキは悪辣あくらつ悪戯いたずらをするけど例えるなら、物語の小物な三下の悪役で、キツネはもっとすごい悪の親玉か、ヒーロー側だけどイタズラ好きな妖精みたいな気がする。

 どうしてそう思うのか、晴人はるとには理由を言語化できるほどの客観視はできてないけど。

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